幼少の時から風呂と寝る時以外ずっとサングラスかけて生活してきて、第三者にいじられたりしても「ないと困るからさぁ」と持ち前の明るさと飄々さで軽く流して相手にしてなかったチャンドラ。
コンパスが設立後すぐ、これまでAAに苦渋を飲まされAAのことをよく思ってないモブコーディが、あえて新人で女性であるヒメコにちょっかいをかけ始める。
教育係でもあったチャンドラは仕事中ヒメコと行動を共にすることも多く、モブコーディがヒメコになにやら近づいていることには割と早く気づいていたが、今時ナチュラル・コーディネイター間を越えた恋愛も珍しくなく、好意のアプローチをしているのかと少しの間だけ放っておいた。
だが日に日に増すヒメコの困惑と悲痛な表情に好意のアプローチじゃないことを察したチャンドラはヒメコとモブコーディの間に割って入る。
「ウチ(AA)になにか言いたいことがあるなら、新人じゃなくて俺とか大尉とか、前々から乗艦してるクルーに言ってくれた方が話早いですよ?」
と、あくまでも穏便に済まそうとする。
しかしそれに神経を逆撫でされ取り乱したモブコーディが、
「うるせえ!引っ込んでろ!」
と振り払った手がチャンドラの顔に当たってしまい、サングラスが吹き飛ばされてしまう。
カシャンと音を立てて床に落ちたサングラスにモブコーディはしまったと顔をするも、サングラスをそのままに、決してヒメコとの間から動くことなくこちらを睨みつけてくるだけのチャンドラに居心地が悪くなってその場から逃げ出す。
モブコーディが見えなくなってからようやく、はぁ、と大きくため息ついたチャンドラが落ちたサングラスを拾ってそれを掛け直すとヒメコに向き合った。
「なんかアプローチしてんのかなって思ってほっといたんだけど、全然違ったみたいだし、もっと早く間に入ればよかった。怖い思いさせてごめんな?」
と先程までモブコーディを睨みつけていた顔とは違う、いつもの頼れる優しいお兄さんのチャンドラの表情と雰囲気にヒメコは安堵するも、掛け直されたサングラスには大きなひびが入っていて。
「チャンドラさん、サングラスが…!」
「あ? あー、修理出さないと駄目だなこれ…。まあ部屋にスペアあるし俺のことは気にしなくて大丈夫だからさ、とにかく怪我とかなさそうで良かった。今後またなんか絡まれたら俺とかノイマンとか、男に言いにくかったら艦長でも、すぐに教えてくれよ?」
と慌てるヒメコに優しく言い残してスペアを取りに自室へ戻るチャンドラ。
チャンドラの自室は他の部屋に比べて全て間接照明にしているのでほんのり薄暗い。
スペアのグラスを取り出したチャンドラはグラスをかける前に備え付けの鏡を覗き、顔に怪我をしてないことを確かめる。
「スペアって大事だよなぁ。本当ならかけないのが一番なんだろうけど、そうもいかないしなぁ」
決してチャはこの薄水色の瞳が嫌いな訳では無い。
生まれ持ったものだし、我ながらなかなか見ない綺麗な色だし、気に入ってもいる。
ただ物心ついた時からチャンドラの世界は常に茶色いフィルターがかかっているのもこの瞳のせいで。
茶色がかった世界にはもう慣れた。
それでも目に入るもの全ての『そのままの色』を見ることはあまりなくて。
厳密には見ることは出来るが、それでも身体に不調をきたさないレベルとなると、ほんの数十分も許されなくて。
時よりどうしてもその事実を残念に思ってしまうことがある。
「俺の目の色をちゃんと見たことあるの、家族以外じゃほぼいないのか…」
チャンドラは鏡に映った自分の薄水色の瞳を指でなぞる。
付き合いの長いノイマンですら、まともに見た事があるのかは分からない。
何故だかそれがとても寂しいと感じたし、こんなことで感傷的になるなんて初めてだった。
「あーあ、サングラス壊れただけでなんでこんな気持ちになってんだろ」
チャンドラは泣きそうな声でそう独りごちると、感傷的な感情を振り払うように頭を振り、スペアのグラスを掛けて再び茶色の世界に戻って行った。
この後ノイマンに「こんなこと男に言うのは変かもしれないが、チャンドラの目の色、水色?で綺麗だよな」って言われたり、コノチャ成立して薄暗い部屋で「ダリダの瞳の色をこんなに近くで見れるのは私だけの特権さ」って言われたりして顔赤くします~𝑯𝑨𝑷𝑷𝒀 𝑬𝑵𝑫~