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    カエル

    @mamemaki83

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    カエル

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    21.11.11 ぽっきぃの日
    dk兎赤で付き合ってない二人。

    果たして本当に食べられたのは、 いつも通りに自主練をして、片付けを終えると木兎さんは体育館の鍵を返しに、俺は一足先に部室に戻りささっと着替えて部誌を書くのがお決まりだった。普段と違っていたのは、十一月十一日だからとマネージャーが差し入れてくれたポッキーを食べていた事くらい。
     ぽりぽり食べていると木兎さんが戻ってきて、着替えをする。何か話していたけれど、そっちにばかり気をやると部誌が進まないのは副部長になって数ヶ月くらいには学んだ。だから、結構適当に聞き流してる。木兎さんも自分の代わりに俺が部誌を書いている事はわかっているから、この時ばかりはあまり文句も言わない。

    「それ、俺も食べてもいーい?」

     不意に聞かれて顔を上げる。椅子を持ってきて、机を挟んで俺と向き合うように木兎さんは座っていた。木兎さんの定位置だ。
     ポッキーなら、木兎さんだって一袋貰っていた筈なのに。自分の分をわざわざ開けるのが面倒になったのかもしれない。仕方ないなと「どうぞ」と返して、ふと今自分が咥えているのが最後の一本だった事を思い出した。
     すいません、これが最後でした。そう俺が言うよりも早く、木兎さんが身を乗り出してきた。なにと思う暇もなく、俺が咥えてる反対の端、チョコのかかっていない部分がパクリと木兎さんに食べられた。そのまま、もぐもぐと木兎さんは俺の咥えたポッキーを食べ進めてくる。
     そんなに、早急にポッキーが食べたかったのだろうか。それとも、空腹のあまり? 随分とわかって来たと思う近頃だったけれど、やっぱりこの人の行動原理は不可解だ。そんな風に俺が呑気に考えている隙にも、木兎さんの進行……この場合侵攻だろうか。兎に角、木兎さんは止まらなくて、俺のポッキーはどんどんなくなって行く。
     俺よりも色素の薄くて、俺よりもぶ厚くて柔らかそうな唇が遠慮なくポッキーを食べ進めて来る。10センチはあった筈の距離が、じりじりと詰められて五センチ、四センチと近付いてくる。全く遠慮が無くて、逆に凄いとすら思う。三センチ、二センチ……そして、鼻先がくっついた。木兎さんの動きが止まる。
     ふと視線を上げる。驚くくらい近くに、木兎さんの目があった。こんな距離で見るのは初めてだ。綺麗なべっこう飴みたいな、キラキラした目が俺をジッと見て来る。瞬きをすると、くるんと上を向いた、髪と同じく色素の薄い長い睫毛がぱさぱさと鳴るのが聞こえそうな、そんな距離。

    「いーい?」

     木兎さんはもう一度聞いた。ポッキーを咥えたまんま、ちょっともごもごしながら。器用だなと思いつつ、今更食べて良いかを聞くのかと呆れる。散々食べて、もう残ってるのは一センチしかないのに。どれだけお腹が空いているんだと心底呆れながら、俺はさっきと同じく「どうぞ」と返した。木兎さんの目が笑って、さらに距離を詰めて来て、「え」と思った時にはもう、一センチあった距離は無くなっていた。
     見た目通り柔らかい唇が俺の唇に重なって、驚いて咥えていたポッキーを離してしまう。そのままポッキーは木兎さんに攫われた。ぽかんと開いた口は閉じる間もなく木兎さんの舌が割り込んで来て、口の中に残る溶けたチョコも全部持ってくみたいに、咥内を舐め尽くされた。やっぱり進行じゃなくて、侵攻だなと薄っすら思った。
     口の中からチョコの匂いも味も全くなくなった頃、漸く木兎さんは離れて、それは満足そうに「ご馳走様」と言って、二つのべっこう飴をきゅうっと細めた。そりゃあ、あんだけ何も残さず食べ尽くしたら、さぞ満足だろうなって思いながら、俺は「お粗末様です」とだけ返した。
     後はいつも通りで、書き終えた部誌を定位置に戻して、部室の電気を消して、鍵を閉めて家路についた。昨日までと何にも変わらない、いつも通りの帰り道だったけれど、昨日の俺は知らなかった木兎さんの唇の柔らかさと舌の熱さを今日の俺は知っていた。

     喰われたのはポッキーじゃなくて俺だった事に気付くのは、まだ少し先の話。
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