OPEN SESAMI!「おやブッキーそれ」
「おっ、レンレン気付いてくれたぁ?そう!れいちゃんももらったよん⭐︎」
嶺二の手にした巾着を見て、レンの顔が綻ぶ。
メンバーカラーのリボンがあしらわれたゴーストはなかなかに愛嬌があった。
「もうすぐハロウィンだしさっ。なーんか持ってるだけで気分が上がるよね。クッキーも美味しかった〜」
「アイミーも気に入ってくれてるみたいだね」
ソファに寝そべってやつらのやりとりを眺めているうち、いい感じの眠気が襲ってきた。
それまで適当にめくっていた雑誌をアイマスク代わりにして、寝る体勢に入る。
「ねっねっ、ランランのクッキーはまた味が違ってたよね。美味しかった?」
「知らね。食ってねーから」
「へ?」
「まだ貰ってねえ」
お察し、っつう空気が流れた。
レンが息だけで笑ってるのが分かる。
そりゃくれるってんならもらうが、なきゃないで別にいいだろ。
おそらく今だにおれの分を持ってるらしい奴の顔を思い浮かべて、雑誌の下でおれも笑った。食べ盛りのガキかよあいつは。
「邪魔をする」
ドアの開く音がして、無愛想な声が耳に届く。噂をすれば影だ。
「あれミューちゃんどったの」
「黒崎はいるか」
「いるよー。そこ」
近付く足音がおれの横で立ち止まった。
「……なに」
顔に乗せていた雑誌がいきなり取り上げられて、まぶしさに目を瞬かせる。文句を言ってやろうとしたら、カミュが胸元へ何かを押し付けてきた。
「取りにこないからいらないのだと思ったが。俺は慈悲深いからな。これは貴様の分だ」
「ああ?」
起き上がって見ると、そこには件のゴーストがあった。
いや、つーかまだ擦んのかよその話。
「用は済んだ。帰る」
「え、ミューちゃんもう行っちゃうの?おやついる?」
踵を返したカミュを呼び止めて、嶺二が巾着を差し出す。
「いただこう」
袋の中に詰め込まれていたゼリーをがっつり引っ掴んで、颯爽とカミュが去っていく。なんだあいつは山賊か。
赤いリボンが結ばれたゴーストを手に立ち上がる。そのまま嶺二達がいるテーブルへ移動した。
誰かさんのせいでなんかもう昼寝って感じじゃなくなっちまった。あと昼が軽かったから腹減った。
「嶺二、おれにもそれくれ」
「いいよー。てかさ、そっちにも入ってるんじゃないかな?クッキー」
あいつの手元にあった時点で端から中身はカラだと決めつけてたが、言われて袋を開けてみると確かに入ってた。クッキーが1つ。
「あいつみんな食っちまってるぞ」
まあ想定内ではあった。
呆れて笑うと、なんだか生暖かい目の嶺二とレンがにやついてこっちを見ている。
「んだよ」
「ねえランラ〜ン。そのクッキーってもともと2個入りなの」
「はあ?」
「あ・の!ミューちゃんが半分こしてくれたってこと!すごくない?ランランに半分も分けてくれたんだよ!」
「愛だね、ランちゃん♡」
「…………………」
……はあ…?
ーああ、……へー。なんだ。
あっそう。
……ふーん……。
ーいや、つーかよ
「なんであいつはああなんだ?」
レンが、もう我慢出来ないとばかりに思い切り噴き出した。
カミュは見てて飽きない。
いちいち突っ込まないのはその方がおもしれーからだ。けど久々心からの疑問が声になって飛び出た。
あとよく考えたら、愛っつーかもともとおれの分だな。あぶねえ。ちょっとグッときちまった。