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    三角のモノ

    @Tnigroviridis

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    三角のモノ

    DONE真八真。真下が報われる、あるいは一歩地獄へ進む話。9月か10月か。二十一時。帰宅ラッシュを終えて随分と時間が経っている。新幹線が止まるといっても、ここら一帯は人口が少なく賑わいも乏しい。ホームに立つ人もまばらで、他に行くあてもないから訪れる電車を待っているだけだ。
     真下は出発を待つ電車の一両へ八敷と共に乗り込んだ。二人がけのシートが礼拝堂のように並ぶ中で、入り口からすぐ近くへ八敷を詰め込む。他の乗客がいないので席はいくらでも空いていたが、怪異を消滅させたばかりの男をなるべく早く休ませてやりたかった。
    「なんか食べるか?」
     シートへと背中をべたりとくっ付けた八敷は真下の方を見もしない。ただ憂鬱そうに眉根を寄せて何かを考え込んでいるようだ。
     真下はため息を吐きながらその場を離れる。出発まで時間があるわけではない。疲労が体の端々まで根を張っている。手っ取り早く栄養をとって、この疲れを少しでも軽くしなければ眠ってしまいそうだった。

     人の少ないホームに売店はない。仕方なく自販機からおしること無糖のコーヒーを取り出した真下は、八敷のいる車両へと戻ってきた。
     相変わらず他の乗客の姿は見当たらない。座席からはみ出した八敷の頭だけが目立っている。
     真下は 2351

    三角のモノ

    DONE真八真。夏の終わりの風景。10月か11月に書いたやつ。『真下、少し困ったことになった』
     けたたましく鳴り響くコール音に携帯電話の通話ボタンを押した真下は、電話口から伝わってくるその困惑に慌てて事務所を飛び出した。案件を片付けてきたばかりでコートも鍵も手に持ったままだったので、置いたばかりの鞄を手に持つだけで準備が完了したのは幸いである。
     事務所の扉は施錠し、車のドアは解錠。後部座席に放り投げた鞄からは茶封筒が飛び出すが、真下はそれを無視してエンジンをかけるとアクセルを目一杯に踏み込んだ。
     その際に茶封筒へ行儀良く収まっていた紙達がおどりでて、後部座席の足下で絨毯のように広がる。しかし、これも真下は気にしなかった。というより気付いてもいなかった。
     頭の中には。豪奢だがどこか寂しい雰囲気の館に住む主が古い形の受話器を手に青白い顔で立ちすくむ姿しかなかったからである。

     ガレージの扉すれすれのところへバンパーをつけた真下は運転席の扉を半ば蹴りつけるようにして開け放つと、そのまま九条館の玄関扉まで走りよりドアノブを押した。
     しかし、扉は開かない。普段は鍵の一つもかけはしないのに、こんな時に限って重たい金属の抵抗が真下の掌に返ってくる。 7772

    三角のモノ

    DOODLE真八真。吸血鬼パロ。ごはんをきちんと食べないかずおくんを心配して定期的にみにくるさとるくん。
    2020.12.07
    森というのは生命の息づく場所である。鳥が、虫が、獣が、地に着ける足の数だけ生きている。だが、ここにはそういった生き物の気配というのが何一つ見当たらなかった。
     九条館。鬱蒼とした樹木の壁の向こう、突然現れたその館を初めて眼にしたとき、真下は古いホラー映画に迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。
     歴史ある建物特有の堅牢な出で立ち。名家の所有する館らしい瀟洒な外見。見る者が見れば美しいとさえ感じるだろうその館はしかし、刑事として数々の凄惨な現場を見てきた真下をもってしても息を呑むほどの異様さを放っている。夏の重怠い、じっとりとした空気の中で風もなく月もなく夜の静寂だけを纏ったその姿はどうしてだか、真下には巨大な棺桶のように思えて仕方がなかった。
     森の奥には吸血鬼の住む館がある。
     昔からここ一体にはそんな噂に事欠かなかった。曰く付きの土地なのか、あるいは暇人が多いのか。真下はそういったオカルトじみた話を信じていなかったし、飲みの席で恐々として語る人間を馬鹿にしたこともある。
     だが。
     真下は九条館のエントランスホールに立っていた。豪奢な装飾の数々を天井照明の淡い光が照らす。中央階段の 1768