心音ふ、と目が覚め、自身が暖かい何かに包まれていることに気付く。はて、いつの間に寝てしまったんだか、眠る前の記憶がはっきりしない。
布団か何かだと思っていた暖かい何かに手を伸ばせば、明らかに布団とは違うしっかりとした質量と弾力を感じた。よくよく目を凝らしてみれば、暖かい何かの正体は青年、ユーリ・ローウェルで、触れたのはユーリの横腹だった。
ユーリに抱きしめられ、その胸に顔を埋めながら横になっている状況を受け入れながら、そう言えば確か今日はユーリと箒星の二階のユーリの部屋で一緒に飲んでいたんだったと思い出す。すうすと規則的に聞こえてくる寝息には、僅かに酒の匂いが混じっている。
(あったかい…)
いつものように着崩されたユーリの胸元に、更なる暖かさを求めてすり、と頬を寄せれば、外側からは見えないが確かに存在する臓器の音が聞こえてくる。それはもう己には無いものの音。
(誰かの心音を聞いたの、初めてかも)
ザウデでユーリが居なくなった時を思い出す。あの時ユーリが死んでたら、もっと遡れば、バクティオンでユーリを切り伏せていたら、決して聞く事はなかった音。
(…心地良い)
ずっとずっと、聴いていたい音色。
穏やかな音と暖かさがゆったりと眠気を呼び、ユーリの胸に耳を強く押し当てて、また目を閉じた。