夏と君とアイスこの殺風景な部屋には余計なものだけではなく季節もない。まだ高い夕日、暖房器具のような窓、ドアを開けると雪崩れ込んでくる熱風、宵街の高揚した匂い。そんなものはもちろんない。ここは静かな場所。すべてが動きを止め沈殿していく場所。…アレを除いては。
「ただいま帰りました〜♪ああああここ超絶涼しい〜」
汗だくで第2ボタンまで開襟し、そのへんで配っていたであろう販促の極彩色のうちわをぱたぱたとあおぎながら彼女が帰ってきた。手には業務用スーパーの袋。
「………リッター単位でアイスを買ってくるなと言ったはずですが」
「そうでしたっけ?」
「これで3回めです。自力で食べられる量を買いなさいと言ったはずですよ?」
だいたい途中で飽きてきて4分の1ほど余ったアイスを手伝わされるのだ。たまったものじゃない。
「えー、これね、桜もち味ですよ?絶対おいしいですよ?桜もちとアイスですよ?全人類の二大好物が合体したんですよこれは絶対おいしい。え、まさかアイス嫌いなんですか?うそー!?」
そう言いながらアイスの蓋を開けて早速ぱくつき始める彼女。俺は思わず、魂が抜けてしまうのではないかと思うくらい大きなため息を漏らした。