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    d_inuta

    好きなものを好きなだけ愛でている雑多垢の倉庫。

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    d_inuta

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    弊里の幼馴染み三人組。愛弟子、ミハバ、ツリキが月イチ報告会という名の飲み会で悪酔いしてるお話。最後にちょっとだけ教官が出てきます。(ウハ♀はお付き合いしてます)
    だいぶ無茶なお酒の飲み方をしているので、そういった表現が苦手な方はご注意ください。

    「「「最初はグッ!ジャンケンぽん!!」」」
    かけ声とともに一斉に振りかざされる、一つの拳と、二つの掌。
    勝敗が決した瞬間、唯一拳を握りしめた少女は、喉から絞り出したような情けない呻き声とともに、力無く机に突っ伏した。

    時は宵時。ほろ酔いの頃はとうに越え、酒に飲まれてべそべそと愚図ついている少女が一人。
    それを見て愉快そうに笑うやら、ほんのりと困り顔で見守るやら、正反対の反応を見せている青年が二人。この里で猛き炎と称されるハンターの少女と、鍛冶見習いのミハバ、船守のツリキ。カムラの若き幼馴染み三人組だ。
    今日は月に一度、各々の持ち場や近況の報告と情報交換を行う同期会。
    少女が目出度く正式にハンターデビューしてから行われるようになった集まりではあるものの、最近は同年代で飲み明かすことが目当ての小さな宴になりつつあった。会場は毎回持ちまわりで、今宵はツリキの家に集まり手早く報告も終えて、恒例の酒盛りとなっている。
    卓上の肴も皿だけが並ぶのみになり、程良く酔いがまわってから始まった飲み比べ勝負。
    酒には強いがじゃんけんにはとことん弱い少女も、一杯、ニ杯と盃を重ねていけば流石に酔いがまわり、白くまろい頬にはじわりと桃色が滲みだしていた。
    「よーし!ほら、もう一杯だ!」
    「こらミハバ!お前も、もうやめといたほうがいいんじゃないか?」
    「止めないでツリキ……くっ…ミハバめ…!なぜ、なぜこんなに弱いのか…悔しいよぉ!わたしは…わたしは情けないです教官!えーん!!」
    少女が泣き真似をして駄々をこねて、額を机に擦りつける。口ではやだやだ!と喚いているものの、根っからの負けず嫌いの性分。できない、などと言えるはずもなく、すでにその両手には種類の違う酒瓶が握られていた。
    「もう怒った!怒っちゃったよ!これを!こうしてぇ!こうら〜〜〜」
    舌も回らないまま、少女は酒瓶を己の盃へと傾けた。ツリキの父が送ってきたという、外つ国では定番だといわれるカラメル色の洋酒と、カムラ特産のこれまた度数の高い酒。それらがとくとくと盃に注がれ、混ざり合い、なんとも言えぬ色合いを生み出してゆく。
    「うわ…なんて冒涜的な酒だ…」
    「いいぞぉ!やれやれー!」
    少女の強行に顔を歪めるツリキと、すっかり酒に我を忘れ発破をかけるミハバ。正反対の反応をしめす二人を横目に、啖呵を切った手前少女も引くに引けず、勢いのままにぐいと盃を呷りはじめた。
    とろけた米の甘さと樽の焦げたような独特の香り。二つの酒の良いところが混ざり合うこともなく喧嘩しているような、複雑な味わいと匂いがツンと鼻について、苦しい。
    あれ?私なんでこんな馬鹿なことしてるんだっけ?と。
    僅かに残った少女の理性がほんの数秒前の己の愚かな行いを悔いた。
    ミハバのやんややんやのかけ声とともに一息に飲み干せば、とろりとした酒の雫を追うように、喉に焼けるような心地がはしり、少女の体をカッと熱くさせる。
    カムラの人間は酒に強い。とはいえ、少女はまだ成人したばかりの身。酔いの海にすっかり溺れて、辛うじて繋がっていた理性の糸は、これをとどめにぷつりと溶け落ちた。
    のどが、からだが、あつい、くらくら、ふわふわする。
    涙で潤んだ瞳、力の抜けきった目尻、じわりと赤が滲むなめらかな雪肌。
    普段のキリリとした顔つきからは想像できない、どこか夢見心地で空を見つめている。薄く開いた桜色の唇からは体の熱を逃がすように、悩ましげな吐息が漏れ出ていた。

    幼馴染みの少女から放たれる女の色を孕んだ、どこか婀娜っぽい雰囲気に、ツリキの心臓がドッと跳ねる。
    けれどそれは、ときめきとか、恋の始まりとか、そんな青い想いからではない。頭に過るのはただひとつ『やらかしてしまった』という背筋が冷えるような後悔だ。
    まずい、止めるのが遅すぎた。
    ツリキは内心頭を抱えた。
    同年代とはいえツリキはこの中では年嵩にあたる。なにかと暴走しがちな二人に振り回されて、とばっちりを食った記憶は幼い頃から数え切れない。それでも四苦八苦しながら舵取りをして、引き止めるのは自分の役目だったというのに。
    申し訳ない気持ちで眉尻を下げて、ツリキが少女に水をすすめるものの、少女は幼い子どもがいやいやするように水の入った湯呑を拒んでいる。
    「みはば、これやだ、おいしくない」
    「俺はツキリだよ!だめだ、もう酒はお終い」
    いやだまだ飲む、駄目だやめとけ頼む、と押し問答を続ける二人。
    その姿をミハバはぼんやりと眠たげな目で見つめて、ぱちりと一度目を瞬かせる。そうして屋根から壁、入口へぐるりと視線を彷徨わせると、ツリキの焦りも知らぬまま口を開いた。
    「…そういやさぁ、お前ってウツシさんのどういうとこが好きなの?」
    放たれた問いに、駄々をこねていた少女がピタリと動きを止めてミハバに視線を向ける。
    「きょうかんの…?」
    「お前からさぁ、恋人自慢って、あんまり聞いたことないなぁって思って」
    「こいびとじまん」
    「そう、どういうとこが好きなの?」

    ウツシ教官の好きなところ。
    突然言われるとぱっと答えが出てこない。少女はウツシというその人の心も、体も、傷も、全部まるごと好きなのだ。幼い頃からの憧れも、恋慕も、重ねてきた思い出が多すぎて、言葉にすることが難しい。
    ミハバの問いかけにうーんと唸り、少女はこてんと首を傾げた。考える間に両手で掴んだ湯呑ごと体も傾いて、ぽちゃりと水が零れ落ちる前に慌ててツリキがそれを取り上げる。
    「いっぱいあってわかんないけど…ミハバ、ききたいの?」
    「聞きたい聞きた〜い!」
    「じゃあ…えっと、あのね……きょうかん、きょうかんはね、わたしがどれだけしっぱいしてもみまもってくれて、でもむちゃなことしたらちゃんとほんきで叱ってくれて、がんばれがんばれ!って、いつもせなかをおしてくれて…」
    「うんうん」
    「あとね、お目々も好き」
    「教官の目?」
    「うん…かりばにいるときはね、かみなりみたいにするどくて、びりびりして。でもわたしと目が合うとね、めじりがくしゃってなって、キラキラして、ちょっとこどもみたいにわらうの」
    「あの人そういうとこありそうよね〜ミハバもそう思う〜」
    「おめん作ってるよこがおとか、みはりばんしてるときの、真剣なおかおもすき。おだんごたべると、ほっぺがぷっくりするところも、かわいくてね。あと、あとね、いつも元気でまぶしくてお陽さまみたいでね、」
    「そうだな、集会所から船着き場にも聞こえるくらい声でっかいもんな、ウツシさん」
    「ツリキお前だんだん面倒になってきたな?」
    「ミハバこそ」
    「いっぱい好きって言ってるのにたまに弱気になって、じめじめしてる時もあるけど、私はそんなとこもぜぇーーーんぶ、まるごと大好きで、えっと、それで」
    普段は口にできず心に押し込めている想いが、酒に溶けた理性の前では溢れて止まらない。あれもこれもと語り続けるうちに呂律も怪しくなる。
    そうして少女は語り尽くした後、ぐずぐずと鼻を啜って、本気で泣き出した。
    「あのさ、それウツシさんに全部言ってやればいいんじゃないの?」
    「いえないよぉ…ミハバだって、ヒノエさんに面と向かって言える?好き好きって」
    「言えないね!言えないけど、この前どうにかこの熱い想いだけでも伝えたくて一日中じっっっと見つめてたら、ちょっと引いてた」
    「ヒノエさんに迷惑をかけるなよ…ミハバお前、そろそろミノトさんにぶん殴られるんじゃないか?」
    「ちょっと惜しいなツリキ!聞いてくれ、すでに『姉さまを誑かさないでください!』とは言われてる」
    「ええ…?なんでそんなに前向きなの?俺もうお前が怖いよ…」
    「やだよぉ…わたし、重い女になりたくないもん…こどもあつかいもいやだ…でも、でも好きなんだもん…」
    普段は言えない想いを口にしたせいか、積もり積もった本音が心の隅からそっと顔を出す。形良い細眉を力なく下げて、涙で潤んだ黒曜の瞳から、ぽろぽろと寂しさのかけらがこぼれ落ちた。
    「きょうかん、すきです、だいすきなんです…あいたい、きょうかん…うつし…きょうかん……」
    そうして舌足らずに愛しい人の名を呟きながら少女はゆっくり卓に顔を伏せる。ぽつりぽつりと呟いていた声はやがて小さくなっていき、静かに途切れると、安らかな寝息が聞こえてきた。


    「……ですって、ウツシさん」


    「………バレてた?」
    「そりゃあもう。あれだけ気配ダダ漏れにしてれば!なあツリキ!」
    「むしろ気づかないのが不思議なくらいでしたよ」
    「いやぁ、盗み聞きするような真似してごめんね。任務帰りに迎えに来たんだけど、出るに出れなくてさ」
    戸口をそっと開けて、声の主が顔を出す。少し遠慮気味に、困り果てたように頬を掻くウツシを見て、ミハバが呆れたような溜息をついた。
    「ウツシさんもこいつもなんでこう、素直になれないんですかねぇ?まったく…」
    「まあ、うん………ごもっともです…」
    苦笑いするウツシの顔には、後悔の色がありありと浮かぶ。ミハバの言う通りだと、痛い程分かっているのだ。
    想いが通じ合って愛しい少女と晴れて恋人同士になったのはつい最近のこと。長い長い両片思いだったせいか、想いが極まり過ぎて、大切にしたくて、お互いの間にどこかぎくしゃくとした雰囲気が漂っていた。
    朝方、己が任務に旅立つ前、気丈に振る舞っていてもどこか無理をした様子の少女の笑顔が、ずっと頭から離れなかった。
    だからせめて里に帰還したら、いの一番に顔を見たいと思って迎えに来てたものの、普段語られることのない惚気に聞き入ってしまい戸口で足を止めてしまったのだった。
    恥じらいなんてかなぐり捨てて恋人らしいことのひとつでもしてあげれば良かったと、ウツシはどこまでも臆病な己を殴ってやりたい気分だった。
    寝入ってしまった少女の傍に寄り、その頭を優しく撫でる。今もまた、さみしい、あいたいと時折口から寝言を溢して、すやすやと眠る姿は無垢でうしようもなく愛しくて、思わずウツシはきゅうと目を細めた。
    「ウツシさん。一応言っときますけど、こいつは俺らの大事な大事な幼馴染みなんで、あんまり心配かけさせないでくださいね」
    「ミハバ、この惨状でお前がそれ言うのか?」
    「いいのいいの!あと、こいつの本心聞いたんだから、酔い潰しちゃったのは見逃してくださいねぇ!」
    ワハハ!とミハバが至極楽しげに、今日一番の笑い声をあげて、そのままもう一杯と酒に手を伸ばす。が、すぐさまねじ巻きの切れた絡繰のように、音を立てて机に突っ伏した。空になった盃が手元を離れ、ころころと卓に転がる。
    あまりにも突然のことに驚いてその姿をしばらく見つめていると、すぐに健やかな寝息が聞こえてくる。
    そうして恋慕している竜人姉妹の姉の名をむにゃむにゃと寝言に呟き、それはもう幸せそうな顔でミハバは夢の中へと旅立っていった。
    頼むこの状況で俺を置いていくな、とツリキはそっと己の額に掌を押し当てて、渋い顔で俯く。
    「なんか、本当にすみません…」
    「歳近い同士で集まるのは悪いことじゃないから怒ってないよ。無理ができるのも若者の特権だからさ」
    「よ、良かった…」
    「でもまあ、あんまりやんちゃしすぎないようにね」
    朗らかに笑いながらもそっと釘を差すことは忘れない。そんなウツシの言葉にぎくりとして顔を上げると、ツリキは誤魔化すようにぎこちない笑みを浮かべた。
    「さて、愛弟子。そろそろお家帰ろっか」
    よいしょっと、掛け声と共にウツシが軽々と少女を抱き上げて戸口へと向かう。すっかり安心しきっているようで、少女は相変わらずくうくうと寝息を立てていた。
    起こさぬように慎重に抱えなおせば、ぬくもりを求めて、すり、とウツシの胸元へすり寄ってくる。まるで猫のような甘えた仕草に、どきりと心臓が跳ね上がった。布越しに感じる少女のぬくもりがじわじわと肌に伝わり、人知れずウツシの頬が赤く染まる。
    そんなウツシを追って、送りのためにツリキも完全に酔いつぶれたミハバを背負って自宅を出る。自身も酒が入っているというのにその足取りはしっかりとしたもので、寝入った大人の男を支えて飄々とした顔をしていた。
    「ツリキくん、本当に力持ちだよね」
    「そうですか?仕事柄ですかね、ミハバの一人や二人担ぐくらいは余裕ですよ」
    「逞しいなぁ。俺も負けてらんないや」
    今日の報告会や、ここ最近の交易の様子、父親から送られてきた謎の輸入品のこと。そんなたわいない話をしながら夜道を歩く。
    そうしているうちに居住区の十字路に差し掛かり、二人は足を止めた。
    「あれ、そいつの家ってそっちでしたっけ?」
    少女の自宅である水車小屋は、目抜き通りに面した場所のはず。明らかに逸れた道へと向かうウツシに声をかければ、半身だけ振り返りにこりと笑った。
    「いや、今晩は俺の家に連れてくよ」
    「え?」
    「これだけ酔ってるとちょっと心配だし。それに、あんなふうに寂しがってるこの子の姿を見て一人にするなんて、さすがに情けないからさ」
    それじゃあまたね、と別れを告げるウツシの穏やかな声色とは裏腹に、ツリキはその琥珀色の瞳の奥底に、雷のようなギラリとした光を垣間見た。
    瞬間、心臓がキュッとなり、少女とミハバの会話を思い出す。

    ――かりばにいるときはね、かみなりみたいにするどくて、びりびりして――

    野生の獣のようなどこか獰猛な視線に、ツリキの背にぞわぞわと薄ら寒いものが走る。ミハバを支える腕に無意識にぎゅうと力が籠もった。
    とんでもない送り狼を本気にさせてしまった、とツリキの頬をつう、と冷や汗が伝う。
    このあと二人がどうなるのかなんてツリキには分からないし、考えるなんて野暮なことだ。けれど、きっと明日は、里内を元気に走りまわる少女の姿を見ることはないということだけは明白であった。
    狼の巣に連れ帰られる無防備な少女と、巣の主たるウツシが、月に照らされながら夜道を歩いていく。その後ろ姿を見送りながら、どうか大事な幼馴染みが無事でありますように、と心の中で合掌するのだった。

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