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    d_inuta

    好きなものを好きなだけ愛でている雑多垢の倉庫。

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    d_inuta

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    こちらは1月22日(日)ぬい狩魂の展示作品です。

    愛弟子が一週間ぶりに里へと帰還する日。
    愛弟子との時間をかけて、ウぬいくんと教官の負けられない戦いがはじまろうとしていた…!
    ※教官がだいぶ大人げない。
    ※お付き合いしてるウツハン♀要素が含まれますが、愛弟子は出てきません。

    じゃんけんぽん!「ウぬいくん、お願い!この通り!」
    「ぬや」

    集会所の屋根の上で、一人とひとぬいが押し問答を繰り返している。
    ウツシが両手のひらを合わせて必死に頭を下げるも、ウぬいくんは頑なに首を縦には振らない。
    今日はウツシの愛弟子であり恋人である少女が、一週間の狩猟任務から帰還する日。
    たった一週間、されど一週間。ウツシにとっては果てしなく長い時間に感じてたまらなかった。
    今頃どんなモンスターと対峙しているのだろうとか、きっと燃えるような激しい戦いぶりを見せているのだろう、とか。目を瞑れば瞼の裏側に愛弟子の頼もしい姿が浮かぶほど。
    集会所の屋根の上で見張りの番についている時ですら、頭の大部分が愛弟子でいっぱいに埋め尽くされていた。けれど、そんな悶々とした日々は今日でおしまいだ。
    どうか今夜は二人きりの逢瀬を許してはくれまいかと。そうして愛弟子と一緒に暮らしているウぬいくんに頼み込んでいるところではあるが、現実はそう甘くはない。
    愛弟子が帰ってきたらたくさん遊んでもらう約束をしたのだと、ウぬいくんがぬぬっと譲らぬ姿勢をみせたのだ。
    「ぬっぬっ!うぬよ!」
    「ウぬいくんが先に愛弟子と約束してたのは知ってるよ…でも、その…そこをなんとか…!」
    お願いだよ〜!ともはや泣き落としのようにウぬいくんの小さな手を優しく握り、すがりついた。
    目の前の大きくて聞かん坊な男の様子に、ウぬいくんも思わずぬふ〜とため息をもらす。
    ウぬいくんだって鬼じゃないし、好きあうふたりが一緒にいたいという気持ちが分からないわけではない。
    それこそウツシとまなでしがまだ両片想いをしていた頃には、勇気が出ないまなでしの背中を押したり、密かにウツシの恋愛相談に乗っていたりと、もどかしい二人のためにぬいやっ!と手を尽くして応援していたほどだ。
    けれど、だけども、
    「ぬーやーやっ!」
    それとこれとは話が別。
    晴れて恋仲になったからといってウぬいくんとまなでしの時間を譲るかといったら、完全に返事は嫌の一点張りだ。
    ウぬいくんだってこの一週間寂しい思いをしていた。まなでしとたくさん遊びたいし、いっぱい甘やかしてあげたいし、仲良く一緒にお布団で眠りたい。
    ぷいっとそっぽを向いてしまったウぬいくんに、ウツシは頭を抱える。こうなってしまったウぬいくんは本当に手強い。目の前の小さな体が高くそびえ立つ壁のように見えるほど。
    この手だけは使いたくなかったが、仕方がない。
    「ウぬいくん、俺と勝負をしないかい?」
    「ぬぅぬ?」
    「そう!ここは公平にじゃんけんで決めようじゃないか。勝負は一回のみ。勝ったほうが、今夜は愛弟子と一緒に過ごす。どうだい?」
    「うぬぬ…」
    ウぬいくんが腕を組んでたっぷりと考える。その間、ウツシの心にはじわじわと申し訳ない気持ちが広がっていた。
    公平な勝負、なんて言ったけれどそんなことはまったくない。なんていったって、ウぬいくんはじゃんけんでグーしか出せないのだ。
    ウツシはもちろんそのことを知っていたから、今までもウぬいくんとじゃんけん勝負をした時はわざとチョキを出して負けたりもしていた。だからだろうか、ウぬいくんはグーこそ最強の手だと思っている。
    そこを利用しようとしているのだ。なんて卑怯な男なんだろう。俺は最低だ。自分を力いっぱいぶん殴ってボコボコにしてやりたい。けれど今はそれ以上に、愛弟子とイチャイチャしたい気持ちでウツシの心はいっぱいだった。
    やがて決意したのか、ウぬいくんがすっと立ち上がる。
    「うぬや!」
    その勝負、受けて立つ!と胸を張る。自信満々に小さな手を掲げて、もはや勝利宣言のような佇まいであった。
    「それじゃあ、さっそくやろうか!最初はグー、からだよ。準備は良いかい?」
    「ぬっ!!」
    かかってこいと言わんばかりにウぬいくんが眉をキリリとさせる。勝ちを確信している顔だ。
    やはり申し訳なさが湧き出る。けれども勝負は勝負。ウツシの勝ちは決まっているが、だからこそ全力で挑むのが礼儀というもの。
    ウツシも覚悟を決めて、ウぬいくんを真剣な眼差しで見つめた。
    「最初はグー!」「ぬー!」


    じゃんけん!!


    ウツシは拳を勢いよく開き、パーを繰り出す。ウぬいくんの手は変わらずグーだ。勝った。すごく卑怯で最低だけれど勝ったのだ。そう確信した瞬間だった。

    「ちょき!」

    ウぬいくんの口から聞いたことのない単語が放たれる。いや、聞いたことはある。けれど、ウぬいくんのいつもの語彙からは想像できない言葉に、思わずウツシは手のひらを開いたまま固まった。
    「……え?」
    「ちょき」
    これが見えないのか、と。ウぬいくんが怪訝な顔をして自分の手をウツシの目の前にずずいと掲げる。どう見てもグーにしか見えない。だけど、そう、ウぬいくんにとっては間違いなくチョキなのだ。
    「チョキ…だから、ウぬいくんの勝ちだね…」
    「ぬっぬー!」
    ウツシの言葉にウぬいくんはぴょんぴょんと飛び跳ねた。グーにしか見えないチョキを天へと突き上げて、くるりくるりと喜びの舞を踊っている。
    じゃあお話はこれでおしまいだね、と。うぬっ!とひと声あげて、ウぬいくんは眩しいほどの満面の笑みを浮かべながらウツシの前から去ってゆく。
    駆けてゆく先は集会所の船着き場だ。きっとこのまま愛弟子の到着を待って出迎える予定なのだろう。
    深いため息をついて、ウツシは屋根の上で仰向けに寝転がった。まさかこんな結末になるなんて思いもしなかった。完全に自分の驕りだった。どうしょうもなく悔しくて、恥ずかしい。
    けれどそれ以上にびっくりした。
    「ウぬいくん、チョキって言えるんだ…」
    それがなんだか面白くて、思わずふふっと笑い声がこぼれてしまう。

    今夜はひとりきりの夜を過ごすことになりそうだ。
    けれど、ウぬいくんと愛弟子の幸せそうな顔を思い浮かべると、心がぽっと暖かくなって、自分まで幸せな気分になるのだった。

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