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    ひなあき2

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    ひなあき2

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    Twitterにアップした監アズ短文の修正版です。
    ベッドで寝てるだけの2本

    #監アズ
    supervisor

    幸運な回遊魚/一番ちいさな『幸運な回遊魚』


     魚になったみたいだ。と夜更けに目を覚ましたユウは思った。
     淡く光る貝殻の照明、白と寒色で纏められた家具、珊瑚のような鮮やかな色の壁飾り。それらに部屋の窓から月光が差し込んで、夜のアズールの部屋は海底洞窟のようだった。シーツの海、なんて例えも殆ど裸同然の今のユウにはなるほど、と妙にしっくりきた。
     ユウは身体の向きを変え、隣で眠るアズールを見つめる。人間の姿でベッドに横たわる彼の姿は、人魚というより魚に見えた。

     ひた、とユウはアズールの頬の上、目元の薄い皮膚に指の腹でそっと優しく触れた。普段は彼の眼鏡であまり見えない部分だ。起こしてしまうだろうかと思ったが、アズールは身動ぐこともなく、規則正しい寝息を立てている。

    (魚になって泳いでるみたいだな)

     ユウは日々学園の中で生活を送り、アズールに会い、時にオクタヴィネル寮を訪れモストロ・ラウンジでバイトをし、運が良ければジェイドやフロイドの作った料理を彼等と食し、さらに『運』が良ければその後アズールの部屋で過ごし、そして『一緒に魚になる』のだ。最後のはユウがたった今勝手に例えただけなのだが。
     流石にちょっとキザ。彼と居ると、柄でもない感情が湧き出してくることがまま有る。
     うつくしいものの隣にいる。初めて知る喜びと甘さと多幸感。
    「……ん」
     先程までの情事を思い出す。
     うつくしいものの隣。もっと溺れて溺れさせて、乱してちょっとだけ壊してみたい、不思議な衝動。
     どちらもある。

     アズールは軽く寝返りをうち、ユウの方へ身体を向けた。合わせて頬から指をそっと離す。
     いつもアズールはベッドに入ったそのままの姿勢で微動だにせず、寝返りすらうたずに眠る。彼らしいといえば彼らしいが。
    「おやすみ先輩」
     もう少し彼の透けるような肌に触れていたい気もしたが、それ以上にこの穏やかな寝顔を右隣に貼り付けていたかった。
    (どこまで泳いでいくのかな)
     ユウは何故だか、眠りながら泳ぎ続ける魚のことを考えていた。進むことを辞めると死んでしまう魚達。
    (いつまで、泳いで)
     ユウはいつここから去るかわからない。それはアズールもまた同様だ。だがユウはそれでいいと思っている。
     たわいもない話をして、ふざけて笑って、互いを貪りあったりして。こうして共に過ごせているうちは楽しくて心地良い。
     そしてこのまま朝を迎えて、アズールに「おはよう」と伝えられたら最高だし奇跡だ。先週も、先月も起こったことだか、ユウには奇跡としか言いようがなかった。

    「早くおはようって言いたいなあ」

     ユウは布団を被り直し、アズールの白い脚の隣に自分の脚が並んでいるのを見ると、もう一度眠り直した。


    『一番ちいさな』


    「いーにおい」
     2人横向きに寝転び背後から抱きしめて、アズールの白いうなじに鼻を埋める。肺の隅々まで満たすように、深く深呼吸をした。
    「さっきから何してるんですか」
    「あ、起こしちゃいましたか?」
    「嫌でも起きますよ」
     もぞもぞと素足でシーツを掻きながら、背中越しにアズールが返事をした。普段はやや開いている彼との身長差を気にせず、肩の位置を並べて抱きしめられるこの姿勢がユウはお気に入りだった。
    「おかしな事を言いますね。良い匂いなんて」
    「えーそうですか?」
    「今は香水も付けてませんし」
    「香水も体臭と混ざってその人だけの匂いになるんですよね。あれも好き」
    「ちょっと……!」
     アズールは腕の中でぐるり、と身体をユウの方に向けた。怒ってはいないが、少しむすっとしている。
    「陸にはそういった性的嗜好の人間がいると聞いたことはありましたが……」
    「いやいや、体臭ってそういうのとは違いますから。まず臭いわけないし」
     一瞬訝しげな表情をした後、アズールはぷいと視線をユウから逸らす。夜の部屋では顔色まではよく見えないか、こういう時のアズールは大体気恥ずかしい時の照れ隠しだ。
    「それでも、良い匂いは無いでしょう」
    「えー、なんでですか」
    「……シャワー、浴びてないですよ」
    「汗かいたから?」
     べちっ、とユウの額がアズールの指で弾かれた音が響いた。痛くはなかった。
     もういいです。と言うように掛け布団を被り直して、また背中を向けてしまった。人魚の性質か、アズールはユウに肌を見せたり、裸のまま眠るのに抵抗が無いらしい。
     月光に照らされたアズールの白い肩や銀髪は、玉のような輝きを放っているようで、シーツよりもずっと白く見える。そういえば今日は行為の後シーツを取り替えていないままなのだが、そこは気にならないのだろうか。
     もう一度アズールを背後から抱きしめる。拒否はされなかった。
    「先輩」
     水分を纏って吸い付くような、この少し冷たい背中が好きだ。昼間はなかなか見ることが出来ないつむじや、綺麗に整えられたうなじの刈り上げや、少しへたった柔らかい髪が好きだ。2人でぐしゃぐしゃな波みたいな皺を作って、まだ少し湿っている気がする、このシーツも好きだ。
    「おれやった後のベッド好きなんですよね。海みたいないい匂いがして」
    「海?これが?」
    「なんて言ったらいいかわからないけど……湿り気というか水っぽいというか……生き物ってこんな匂いがする気がする」

    「……それは、不衛生というか、その、決して綺麗なものではなくて、だから」
    「先輩、潔癖ですか?」
    「誰だって嫌でしょう体臭や体液の匂いなんて」
    「けど先輩の部屋はいつも綺麗すぎるくらいですし、もうその程度じゃ取れないというか……あっ!拗ねないでくださいよ!」
    「拗ねてません!」
     今すぐにでもシーツを剥ぎ取り、自分諸共シャワーに直行しそうなアズールをユウは強めに抱き込んだ。もう一度うなじに鼻を近づける。
    「いい匂いがする」
     観念したのか呆れたのか、アズールはそのまま大人しくなった。そして次第に規則正しい呼吸の音が聞こえてきた。
    「うん、海みたい」
     もう少し堪能していたいな、とぼんやり思いながら、ユウは目を閉じた。
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