ありふれた冒険譚とあなたと その虫ははじっこの方でなんだか居心地が悪そうにごそごそと動いていた。
最近成虫になったばかりの虫だろうか。花の蜜を吸うのに慣れていないのか、どうにも不器用な様子で花の中を覗きこんでいる。まったく、あんな掴まり方では落ちてしまうぞ。まあ通りすがりの、仲間でもない俺が口を出すことではないが。
どうして気になったかといえば、その虫は見たことがない珍妙な姿をしていたからだった。俺たちの(俺は雄々しくもキュート、優雅な羽が自慢の紋白蝶だ)すらりとした長い脚に比べて、ずんぐりむっくりとした太い脚。ついでに花や葉に止まるための毛も長い爪も生えていないっぽい。あれじゃあ無様に花弁にしがみついているしかない。遅かれ早かれ、転がり落ちてしまうだろう。
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