2022おたおめ新婚小話ぽんと意識が浮上する。見慣れた天井と、明るいがまだ昼ではないことを示す、薄めた乳のような柔い色で染められた部屋の壁が見えた。
目覚めは上々だが、ナルトは体のそこかしこに気怠さが残るのを感じた。若さと、少々人間離れした個人的な身体の事情で体力こそ底無しだが、ここのところ続きに続いた任務で流石に気力を消耗したのだろう。目覚ましが鳴らないイコール今日は任務がないということで、起き上がるのも億劫だ。
ふと腰に感じる重怠さに気付く。熱が溜まるような、むずむずするような鈍い感覚は知らないものではなく、ナルトは上向いた姿勢のまま小さく溜め息をついた。
見なくてもわかる。
自分の下半身の一部が緩く立ち上がり、熱の放出をねだっている。
健康な男の生理現象とは別に、時々疲れ過ぎたときに本人の意志と関係なく起こる、俗に言う疲れ魔羅だ。
悪ガキ時分に「おいろけの術」を開発し、エロ忍術なら任せとけなどと豪語していたナルトだが、思春期がそれどころではなかったせいか、意外とそっち方面への欲は薄い。男子の嗜みとして「抜く」ための本は持っているが、そんなに多くはないし、必要がなければあまり見る気も起こらず、ベッド下のどこかに突っ込んだままだ。
さっさと発散させてしまおうと、寝起きでよく回っていない思考のままベッド周辺に手を伸ばした。伸ばそうと、身動ぎしたら、胸のあたりに柔らかい重量を感じた。――あれ?
視線を胸の方に下ろせば、そこにはぺたりとナルトに寄り添って眠る可愛い人がいた。少し丈の長いパジャマの袖から白い手を覗かせて、ナルトのTシャツの端っこを控えめに握っている。いつもストンと下りている前髪が割れ、隙間からなだらかな額が見えている。シンプルで肌触りの良い綿パジャマのボタンはしっかりと上まで留められ、彼女の豊かな胸元に乱れはない。長い睫は下ろされたまま、穏やかに眠っている。
いつも朝が早い彼女がこんな時間まで起きないのは珍しい。とまで考えて、
(ああ、そうか)
徐々に昨夜の記憶がよみがえってきて、ナルトはじんわりと笑みを深めた。
任務報告を終えて、家に着いたのは夜明けも近いころだった。あと少しで鶏が鳴くような時間であったにも関わらず、妻のヒナタは起きてきて夜食を温めてくれた。軽く食べて、風呂に入ったら、ナルトにもうその後の記憶はない。もしかすると自分が強引に布団に連れ込んだのかのかもしれないが、泥のように眠っている自分に寄り添い、つられて彼女もまた眠ったのだろう。
もう一人ではないこの部屋のことを思い、しみじみと幸せを噛み締めたあとで、現状抱える問題を思い出す。傍らの柔らかな身体を意識してしまい、ますます体の一部分は固くなる。
寄り添う可愛い人は紛れもなく自分の愛する妻である。何を憚ることがある、自分の女なのだから抱けば良かろう。と思われるかもしれないが、こちとら新婚である。寝起きに元気いっぱいの下半身の相棒に、まだうっかり自己処理の手段を考えてしまうほどにはピュアなのである。きちんと同意があれば良いが、むしろ覚えたてのエッチは底無しに気持ちがよくて時間が許す限り愛し合いたいが、こんな生理現象のためになし崩しに襲うなんてとんでもない。ナルトの横で安心しきった寝顔を見せる妻に獣のように襲い掛かって、万が一にも嫌われたりしたら多分生きていけない。
体温の高いナルトが心地よいのか、ヒナタは寝返りも打たず眠っている。柔らかな接触面の感触の他に、嗅覚からはふわりと好ましい妻の香りが、視覚からはもちろんナルトの好みど真ん中の慎ましく透明感のある美しさを持つ最愛の女性の姿が、がんがんとナルトの脆い理性を殴りつけてくる。
ちょっと。
ちょっとだけ……
そうっと彼女のパジャマの裾から手を入れた。
ヒナタが寄り添っているのはナルトの左側のため、自由に動かせる右手を動かして、素肌に触れる。
思わず目を閉じて指先と手のひらの感触を堪能する。
なんだこれ……滑らかすぎて、まるで絹ごし豆腐、いや、それでいて弾力はあるし、 吸い付くようだし、餅、団子、はんぺん……本当になんだこれ。
おっぱいのことをよくマシュマロみたいって言うけど、明らかにマシュマロ以上だろこれ。なんだ。ダメだ。表現できる気がしねえ。
はぁ……とまた溜め息が漏れた。そこそこの回数触っているのに、それ以上にすごいことをしているのに、まだ全然慣れない。きっとこの先いくら確かめても、味わっても満足することはないように思える。敏感な場所には触れないように気をつけながら、しばし無心になって触った。
ヒナタは気持ちいいな。
目を閉じたまま、温まった体温でより匂いたつ女の香りを思いきり吸い込む。
本っ当、いい匂いだな。
下半身の相棒はえぐい角度になっており、ガチガチになりすぎて痛いが、もはやどうでも良くなっていた。
ゆっくりと目を開けて、彼女の顔を覗きこむ。
白い頬に影を落とす長い睫。ときに強い意志を宿す、優しい白藤色の瞳。かたちの良い鼻と、薄紅色の花弁のような唇。
そんな可憐な顔が、いま羞恥の色に染まり、小動物のようにプルプルと震えながらナルトを見上げていた。
「あれ、気を付けてたのに起こしちゃったか」
ああ、好きだな……可愛いな。
そう思った瞬間、彼女の顔は更にぶわっと赤く染まった。
・・・
後から知ったことだが、オレの心の声は、途中から大体声に出ていたらしい。
任務明けは頭が働かなくて困る。
おしまい