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    mojiyama1

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    mojiyama1

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    お蔵入りしてたサイいのを終わらせてみようかと腰を上げました。
    モブ出ますがカプはサイいのオンリーです。ナルヒナがまだ無自覚やってて成立してない頃だと思う(だってデートの本サイから借りてたし)

    どシリアスほのぼの話になる予定です

    #NARUTO
    #サイいの
    rhinocerosHorn

    窓が開けられているのは、病院特有の匂いに気が滅入りがちになる患者の気分を少しでも軽くするためだった。
    なにか道具を使わなければ届かないほど高い所に窓があるのは、思い余った患者が飛び降り、もしくは逃げ出す事態を防ぐため。
    ――つまりこの病室は、『そういう』患者専用の部屋だった。

    「やあ。起きてたね」
    軽いノックの後に続いて部屋に足を踏み入れた青年は穏やかに笑った。
    視線の先には、壁に背を付けてぽつんと座る少女がひとり。
    少女は青年を感情のこもらない目で一瞥すると、手元で続けていた作業を再開させた。機械的に。
    その行動に意味があるのかどうかは分からない。ただの破壊衝動であるのか、一定の心を落ち着かせる効果があるのか黙々と――

    少女は花を千切り続けるのだった。



    「お花、また持ってきたけど……要る?」
    艶のある黒の前髪を微風に揺らし、青年が首を傾げて聞いた。

    薄い栗色の髪をした少女の手元にある花は、もう残り少なかった。元々は花瓶に飾られていたのであろう色鮮やかな生花は、ばらばらにされて、少女の足元にこんもりと小さな山を作っている。少女の指先は花弁から出る色とりどりの色水が混ざり、暗い色に染まっていた。
    のろのろと視線を上げた少女が青年の問いに答える。
    「……まだ、いらない。……つかれたから」
    「そう」
    青年はまたにこりと笑い、部屋の入口に転がっていたプラスチックの花瓶を手に取る。

    その笑顔は彼にとって意識しない程度の仮面だ。
    オールマイティに使える便利な表情であり、対象から警戒されないための基本的なものだと教えられたのは、暗部『根』に所属していた時のことだ。

    「今度はもう少し生き長らえるといいんだけど。これ、綺麗な色だと思うよ」
    鏡の無い洗面台の蛇口をひねり、花瓶に水を入れながら青年が話す。
    少女からは特に返事は返ってこなかった。
    散らばった花弁は赤紫、薄桃、青に、白。
    指に付着した花粉を煩わしげに彼女が散らすと、その上に黄色の色彩が舞った。




    とある宗教団体を隠れ蓑にした、犯罪組織の摘発任務の依頼が木の葉に入ったのは数日前のことだった。
    不幸な運命からの救済を謳って親から若い娘や子供を引き離し人身売買のルートにのせるというもので、早急に組織の本体を叩く必要があった。
    木の葉からは第七班が派遣され、里のエースうずまきナルトと連携した現地の忍達の手によって組織は瞬く間に一網打尽にされた。
    売られる寸前だった人々は開放され、無事家族の元へ帰っていった。
    ――彼女を除いては。

    「組織に彼女を預けたあと、まもなく彼女の親御さんは病気で亡くなったそうよ」
    憂いを含んだ瞳で、班員のサクラが言った。
    首謀者たちが捕縛されていった後、彼女は閉じ込められていた人々の心身のケアに当たっていた。
    ひとり病院に残された少女の年は、十一歳。

    「母親は彼女が幼いときに亡くなって、父親が一人で育てていたみたい。なのにこんなことになって……やりきれないわね」
    「その子はこれからどうなるんだい?」
    ここは被害者の境遇に同情し共感するのが「正しい」やり方なのかもしれないな、と思いながらも青年――サイは感傷を含まない現実的な言葉を口にした。

    ……自分にはわかるようでわからない。
    だってその子ではないから。

    サクラもサイの扱いには慣れているため、すぐに感傷を捨て、話を切り替える。
    「今のところ取り乱したり、泣き喚くような様子はないけれど……ショックは後々出てくるでしょうし、とりあえず入院して様子を見るわ。心身の回復が最優先よ。いのに付いててもらおうと思う」
    「いのに?」
    「精神のスペシャリストで医療忍者だもの」
    「そうか」
    最近になって特定の人物の名前に素直に反応するようになったサイのことを、サクラは気付いていても何も言わない。
    そんな優しさの表現方法もあるのだ。
    サクラからはいつも新鮮な驚きをもらっている、とサイは思う。



    花を千切るのは、胸の内に眠るものを外に吐き出す作業の一環なのだという。
    「花屋としては複雑だけどね」と長い金髪を揺らして山中いのは笑った。艶のあるピンクのルージュが陽光をはじく。
    病院に泊まり込んだ彼女は、姉のように少女に接していた。
    傷ついた少女の負担にならぬよう細心の注意を払いつつ、付かず離れずの距離を保ちながら見守っていた。


    花弁は一つ一つ千切るときもある。一気に茎からまとめて抜き去るときもある。
    少女の柔らかい指を、手のひらを、植物の繊維が擦れて傷つけた。
    血が滲んで、それでも。
    綺麗なものをばらばらに。かたちを無くしてしまおうという、幼い執念。

    「……大事にとっておくのが嫌だから」
    少女――アイビが言う。辛抱強く寄り添ういのに明かした、彼女の名前。
     
    いのは山中一族だ。少女の精神に強引に入ろうと思えばいつでもできる。しかし敢えてそれは使わずに、いのが聞いた。
    「……どうして?」
    「とっておかない。一生懸命とっておいたって、いつか」
    少女の声音は揺るがない。無邪気に、それでいて頑なに幼い声が淡々と告げる。

    ……ごみになってしまうんでしょう?


    部屋の中から自傷行為に使えそうなものは排除してある。少しは一人になる時間も必要だと、いのはサイと共に中庭へ来ていた。
    「いい男が花束持つと、やっぱり似合うわよね。今日来たとき、ビックリしちゃった」
    冗談めかした口調で、いのがウインクする。
    ともすると野暮ったくなるそんな動作は、華やかな雰囲気の彼女がすると自然に見えた。
    「……似合う。そうかな」
    「そこで悩む? こういうのは素直に受け取ってから少々照れて、おしまいにしとけばいいのよ」
    「照れ……そうか。難しいね。本には『君の方が』って返すのが正解だってあったけど」
    「うーん、それも正解には違いないけど、この場合サイの照れ顔っていうのもなかなかポイント高くて良いと思うわ。だってレアじゃない」
    彼女は軽口を叩いていたが、ふと上階にある病室を見上げて神妙な面持ちになる。
    ペールトーンを含ませた筆をさっと走らせたような、遠くに浮かんだ水色の空。外来棟と入院棟の間にあって、程よく視界を遮ってくれる木々の葉陰とのコントラストが目を引く。
    嵌め込みの窓は中から開けることはできないため、硝子越しの内側にクリーム色のカーテンが見えている。
    「……今は一時的に感情が麻痺しているかもしれない。それでもあんな感じなのに、感情が戻って現実が押し寄せてきたら、そのときあの子が耐えられるかどうか……ずっと、抱えたままなのよ、あの子。花を千切る以外にも、なにか気持ちを外に出せる方法があればいいんだけど……」
    見上げた窓近く、枝には青々とした葉がついている。三階の病室までは届かないが、貪欲に枝を広げ日の光を吸収しようとする、生を求めるものの色だ。
    ふむ、とサイが考え込んだ。





    「それ、捨てないでいてくれたんだ」
    サイが声をかけると、アイビはパッと手に持っていたものを放り出した。
    床に放り出されたものはリノリウムの床に落ち、カラカラと軽い音を立てて少し滑った。
    サイは動じず、ニコニコと笑う。
    「大丈夫、これ、投げても壊れないから。軽いし」
    すたすたと部屋を突っ切ると、壁際に落ちたものを拾い上げる。
    少女はその様子をじっと見ていた。
    プラスチックでできたパレットと、絵筆。
    前回サイが彼女の元を訪れたときに、花と一緒に置いて行ったものだった。

    「取っておいたわけじゃない。……飽きたら、捨てる」
    固い声で言う少女を気にせず、サイが部屋を見回した。
    いのと入れ替わりに、巡回の中忍の女性が部屋に入って来ていた。
    サイはちらと中忍を見て目礼すると、部屋の中程まで来てしゃがみこむ。

    今日も彼女の座る床の前には生花の花弁で小山ができていた。白く柔らかそうな花弁の中に、まばらに散るのは青と黄色。
    「デルフィニウム、だったっけ。その花」
    「知らない」
    少女が素っ気なく言う。
    すぐに千切ってしまう花にそんなに思い入れもないだろうと、サイは納得する。冷めた答えに何も感じるところもなかった。
    「華やかで綺麗だよね。色も青からピンクまで種類があるし。僕は絵を描くから」
    「……」
    「君がお花千切ってるの、絵みたいだなって思ったんだ」
    そう言うと、サイはパレットと絵筆をサイドボードの上に置いた。栗色の髪がかかる少女の細い肩が、ぴくりと動く。
    「絵、嫌い?」
    「……ふつう」
    「花も、絵の具も、画用紙にのせたらそれだけで凄く綺麗な絵になるよ。それから捨てたって、いいんじゃない?」

    アイビが不審そうな顔をした。
    何故責めないのか。他の大人たちのように、腫れ物に触れるような態度で自分に接しないのか。得体の知れないものを見る目だった。

    「君のこのお花、僕が貰ってもいいかな」
    サイは散らばった花弁の小山を指差してにっこりと笑った。
    「……?」
    少女は首を傾げたものの、明確な否定がなかったので、サイはさっさと花弁を回収してしまい、代わりに持ってきた新しい花束を差し出す。
    「はい」
    「……」
    「棘は取ってあるけど、ケガしないようにね」
    少女の指先は少し荒れ、手当てはされているようだが、白い包帯は花を千切ったせいだろう、色水が滲んで汚れてしまっていた。
    「君が何が好きなのか、知りたいな」
    そう言うと、サイは自分の荷物から紙と筆を取り出した。筆に墨を含ませると、するすると何かを描きだす。程なく筆を止めると、描き終えた紙から一羽の白い小鳥が起き上がる。
    絵から抜け出してきた鳥は二、三度ぴょんぴょんと跳ねると、優雅に羽を広げて飛び立った。目を丸くする少女の目の前で、くるくると部屋の中を旋回する。
    「鳥は好き」
    「……ふつう」
    劇的な変化こそないものの、少しだけ少女の表情が揺らいだ。
    「嫌でなければ君にあげる。餌要らないし、つつかないし」
    「……手品?」
    「似たようなものかな」
    彼女はあの鳥も千切ってしまうだろうか、とサイは考える。千切って、投げて、捨てて。泣くでも笑うでもなく、一見落ち着いてすら見える少女の破壊衝動は、どう手繰れば紐解くことができるのかまだ分からない。
    母親を亡くしたこと、父親に売られたこと、その酷い父親さえも亡くしたこと、容赦のない現実がまだ幼い少女を押し潰した。
    けれど、彼女の心は生きている。
    ただ疲れて、眠っているだけで。





    空白の時間は必要だ。痛みを受容できるかどうかもその人次第で、受け止めきれずそのまま壊れてしまう者もいるだろう。余計なお世話は百も承知で飛び込んでいくのが木の葉流なのか、サイの周りにいた面々は容赦がなかった。彼らはいつも真っ直ぐで、人の痛みに敏感で、体当たりで飛び込んでくるから。 『……そんなの、悲しすぎるってばよお……』
    かつてみっともなく鼻水を流しながら言った、友の声は今も記憶に残っている。 どうして彼はそんなに他人に入れ込めるのか。躊躇わず、不器用に、柔軟に、心に入り込んで、人のことを揺らしてくるのか。 自覚はなくとも、自分も毒されているかもしれない。

    世の中、救いを求める者ばかりではない。 けれどあのとき、自分は驚くほど素直に受け止められたのだ。 かつて愛してくれた兄がいたこと、その人が喪われたこと。自分がその兄を確かに愛していたこと――それを幸いだと思えたこと。 鈍磨した感情で何事もなく生きられていた。忍として誰かの手足として生きていくのに何の問題もなく、繰り返し絡んでくる「仲間」に苛立ちを覚えた。
    世の中、救いを求める者ばかりではない。 けれどあのとき、自分は驚くほど素直に受け止められたのだ。 かつて愛してくれた兄がいたこと、その人が喪われたこと。自分がその兄を確かに愛していたこと――それを幸いだと思えたこと。 鈍磨した感情で何事もなく生きられていた。

    忍として誰かの手足として生きていくのに何の問題もなく、繰り返し絡んでくる「仲間」に苛立ちを覚えた。
    苛立ちとは怒りの力だ。
    サイにとって笑ったり怒ったりはただの記号で、長いこと任務のための手段に過ぎなかったのに、心にさざ波が立った。 眠っていても、誰もが胸の奥底に熱源を持っている。

    氷はいつか溶ける。
    だって彼女は生きている。





    閉口一番。
    「可愛く、ない」
    少女にずばっと言われてサイは目を瞬かせた。
    「……そうかな」
    「うん」
    ふうむ。サイは顎先に拳を当てて考え込んだ。
    今日も訪れた三階の部屋。目の前にはサイの流麗な筆致で描き出された白と黒、対の虎が巻物から抜け出してお座りの姿勢を取っている。サイズこそ可愛らしい子犬サイズであるものの、力強く描かれた体の線も顔つきにも貫禄と凄みのようなものが感じられ、とても愛玩動物には見えない。
    「小鳥さんは可愛かったけど」
    「……どんな感じならいい? 教えてほしいな」
    素直に教えを請うサイに、少女は少し考える仕草をした。体の前方に泳がせた手の指を、何かを形作るように動かす。
    もっと、ふわふわっていうか、もこもこっていうか。
    手の動きから控えめな主張を読み取って、サイは再び巻物を手にすると、今度は少し考えながら筆を動かした。
    墨の黒色だけでなく、仕上げに朱筆でちょんちょんと色をのせる。
    術を発動させると、飛び出でたのは愛らしいシルエットの小動物だった。
    ぴょこん、と跳ねた先でこんもりと積もった花の山を見つけるとそっちに寄って行き、食べるような素振りを始める。
    「……かわいい」
    アイビが小さく呟くのが聞こえた。どうやらうさぎは合格点だったらしい。

    嵌め込み式の窓から優しい日差しが下りてくる。サイがこの間置いていった墨の小鳥が、壁の装飾を止まり木代わりにして休んでいるのが見えた。

    部屋には必ず一人看護師か医療忍者が付いていて、少女から目を離さないようにしている。落ち着いているとはいえ、彼女の精神が不安定なことには変わりがない。保護者を失くしたばかりのまだ幼い少女なのだ。

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