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    mojiyama1

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    mojiyama1

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    ナルヒナ無自覚話。
    現実と夢うつつ、行ったりきたり

    #ナルヒナ

    あなたを想えば想うほどに、藍がかった素直な黒髪は細い背中を覆うように流れている。
    顔回りに後れ毛がある。白くやわらかな輪郭に降りかかる、額当ての巻かれた首もとに少しだけ影を落とす。
    薄そうな、その肌を何気なく見た。それだけ。



    いくら指を通しても引っ掛かることのない、素直で滑らかな髪に五指を突っ込み、くしゃりと握りこんで無理矢理に絡めとる。逃げてしまわないように、手のひらに留めて自分のものだと、束の間駄々をこねるように。
    背後から引き寄せた肩はナルトの手のひらにすっぽりと収まってしまうほどに小さい。彼女が小さいままなのか、それとも自分の手が大きくなったのか。少々の驚きと共に振り返る視線を待てば、

    緩慢な所作に続いて、頬に落ちた後れ毛が動く。
    秘密めいた喉の白が覗き、ほんのり血の色が透けるそこから目が離せなくなる。戸惑ったように桃色の唇が動いて、名前を呼んだ。
    ただの同期の男の名前を。
    「……ナルトくん?」




    火影塔に集まっていた顔見知りの忍から耳打ちされたのは、ナルトが任務報告を終えて帰ろうとしたときのことだった。
    「行方不明者が出てるらしいよ」
    聞けば、土の国の国境付近のことらしい。近年隣国との街道が整備され、人流が盛んな所だ。そのおかげで、戦が絶えなかった一昔前とは比べ物にならないほど活気があるのだが、元々は渇いた土と高い岩に囲まれた難所である。今回、自然にか人為的にかは分からないが、切り拓いた街道の一つが崩れたのだという。
    「既に木の葉からも応援が出て、街道の復旧と怪我人の救助に当たってるそうだ」
    「へぇ。さっき報告のとき六代目からは特に何も言われなかったってばよ」
    「お前が言われてなきゃきっと大丈夫だろうな」
    男はホッとしたように言った。六代目火影ことはたけカカシは勘が良い。その彼がうずまきナルトに教えなかったということは大したことではない。少なくとも悪意あるテロなどではないということだ。
    大きな戦が終わっても世界の其処かしこで小競り合いはあり、きな臭い話は尽きない。その度に駆り出されるのは、だいたい先の大戦を経験した者たちだ。
    「どこの班が応援に行ってるんだ?」
    ナルトが聞いた。 国境を越えるなら三マンセル以上のチームだろう。
    聞いたところ長引きそうな任務だし、知り合いなら今度会った時に労いの言葉でもかけてやりたいと思ったのだが、男は知らないようだった。
    「詳しいことは任務受けた奴しか知らないしな」
    だからこそこの忍はナルトがカカシから応援要請を受け、何か新しい情報を得たのではないかと期待して声を掛けてきたのだ。
    じゃあな、と軽く手を振って男と別れると、ナルトはぶらぶらと自分の家に向かって歩き始める。日はまだ高かった。



    かさついた唇で呼び掛ける。親しい、誰かの名前を呼ぶ。
    自分の声にぎくりとして起きて、目を開けた時には誰を呼んだのか覚えていない。






    「共同作戦?」
    「そう、忍連合に参加してた国で、各里ですぐ動ける奴を募ってやるみたいよ」
     集合場所にいても常にお菓子の袋を手放さない男が鷹揚に答えた。並んで立つ二人からは大分距離を置いて、作戦を指揮するシカマルの姿がある。チョウジは彼から聞いて、今回の任務の概要を把握しているようだ。
     集合場所の広場には、ぱらぱらと人が集まってくる。ナルト達より年かさの者は多忙のためか少なく、若者が多い。まだ初々しさの残る忍たちの中には、広場でも目立つ金髪に気付くと、さっと緊張の色を浮かべる者もいる。
    「すぐ動ける奴ね……まあほぼ毎回、そういうのにオレらは参加確定なんだが」
    「探知系はほぼ強制参加だよな、数限られるから仕方ねーけど」
    「ナルト、お前は探知系の役割も兼ねる」
    「便利屋枠か。まあいいけどよ」
     国境地帯に潜む、人身売買組織の討伐。それが今回の任務だった。
     各地で身寄りのない子供が消える事件が頻発し、それをそれぞれ追っていくうちに点と点が繋がり、組織のアジトを突き止めることができた。
     逃げ道を全て押さえてからの一網打尽。人質がいるので、始まったらとにかくスピード勝負。
     ナルトの役割は影分身を使っての陽動兼、人質の捜索・救出となるだろう。
    「そういえばヒナタは?」
     ナルトは何気なくキバに聞いた。この場にキバとシノがいたから、同じ班であり探知能力を持つ彼女も当然いるものと思ったのだ。
     キバが淡々と言った。
    「いくら探知系でも、女に向かない任務もあるだろ」
     こういった事件で惨い目に遭うのは往々にして女性と子供だ。酷い現場を目の当たりにすることもあるだろう。
     見回すと、若い忍の中にはちらほらくの一の姿もあるが、中忍以上は殆どが男だ。
     勘違いすんなよ、とキバが続ける。
    「うちの班員はそんなことで怯むような奴じゃない」
    「むしろちゃんとやり過ぎる。だから、敢えて声はかけていない」
     シノが後を引き取って言った。
    「今回はオレ達で十分だ。ナルトよ、ヒナタがいないからとしょんぼりするな」
    「……してない」
     どういう訳かわからないが、何故か悔しい。自分の迂闊な発言ひとつで、ものすごくマウントを取られた気がする。
    (そんなこと、知ってる)
     自分が認めた彼女の強さを理解している人がいて嬉しいような、誇らしいような、自分だけが知っていたいような。

     解せない気持ちで首を捻っていると、ほどなくシカマルの号令が聞こえた。



     化粧っけのない唇は朱すぎず、病的に白くもない、自然な血色を滲ませた薄紅だ。春先の綻び始めたばかりの花を思わせるそれが小さく震える。
     早く、と願う。花開いて、オレの名を呼んでほしい。あの鈴を鳴らすような可愛らしい声で。
     なかなか思い通りにならない想い人に焦れて、指で軽く彼女の唇を押した。薄紅色の中心を人差し指の腹でふにふにと押す。と、淡い光を纏わせたきれいな瞳が困ったようにぱちぱちと瞬いた。彼女はナルトの突飛な行動にどうして良いか分からない、という表情ではあったものの、嫌がっている様子ではなかったことに気を良くして、しばしふにふにと下唇の柔らかな感触を楽しむ。当惑の反応も含めて十分に堪能した後、ゆっくりと彼女の唇を割って咥内へと指を進めた。
     悪戯な指が引っ込むどころか更に侵入してきたことに驚いて、彼女は目を真ん丸にして固まってしまった。
     待ち望んだ声はまだ聞くことが出来ない。




     甘味屋の前、立看板には「初夏の限定メニュー」の手書き文字が踊っていた。
     季節の果物とアイスクリーム、白玉が乗ったスペシャル餡蜜を木の匙でつつきながら、女子たちがお喋りをしている。
    「そういやヒナタ、見ないわね」
    「里内にいるんじゃ?」
    「こないだ近所まで行く用事があったから、居るかなと思ってお屋敷に声掛けてみたんだけど、居なかったわ」
    「少し前の探索任務に出てなかった?」
    「でもあれ一、二週間前でしょ。さすがに帰って来てるでしょ」
    「日向の家の名代で出掛けてるのかも」
     餡蜜と一緒に運ばれてきたアイスコーヒーの氷が溶けてきたのか、カランとグラスが鳴った。
    「ヒアシのおじ様が忙しすぎて手が回らないからね……今まではネジが手伝ってたみたいだけど。完全に大人扱いで、よくやってるわね。あの子落ち着いてるから任せられるんでしょうね。さすが日向の長女というか」
    「大人かあ」
    「大人よお、私たちも。もう十八になるんだし」



     思い通りになりそうで、肝心なところで彼女の反応も姿もぼんやりぼやけてしまうのは、自分が「その先」を知らないからだ。
     彼女について自分が知っていることといえば、ナルトが失敗しても馬鹿にせず、仲間という以上にナルトの味方でいてくれる、好意的な人物であるということ。素朴で真面目な人柄であり、誰にでも丁寧にやわらかい口調で話すこと、内面には一本芯が通っていて、たおやかな外見に反して頑固なこと。
     戦場で握り込んだことのある、ナルトよりも一回り小さな手。あの手に何度も救われた。
     日々の修行や任務で鍛えられていても節が太くなることもなく、しなやかな手は、彼女が用いるのが外部破壊を目的とする剛拳ではなく、強打を必要としない柔拳であるせいか。
     服の露出の少ない任務服だ。見えるのは顔と首、手首から先くらいで、それ以上の肌は知らない。医療忍者でもないし、これからも見る機会はないだろう。
     だから夢想にすぎない。

     ただ優しい彼女の夢を見ている。――自分に都合がいいように。




     その日は里外れの林の中で、猿飛木の葉丸の修行を見る約束をしていた。
     一通り練習の成果を確認し、手合わせする中で、気付いた動きの問題点を指摘し直してやる。
     言葉で筋道立てて説明するのが不得手(という自覚はないのだが「説明が感覚的すぎる」と文句を言われる)なナルトだが、その指導を受ける方はさすが名家の血筋と言うべきか。本人が生まれ持ったセンスに加えて、努力の仕方を覚えた木の葉丸はナルトの意図を概ね理解し、自分のものとしていくことができる。
     自分が里にいない間にも着実に成長している優秀な弟子に嬉しくなってしまい、自然と指導にも熱が入る。彼の成長を見守るはずだった人たちを知っている自分だからこそ、余計に。
     半日ほど続いた集中が途切れたタイミングで、二人揃ってがぶがぶと水を飲む。
     すっかり汗みずくになった頭にも水をかけながら木の葉丸が言った。
    「ナルト兄ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとな。もう少しやっていきたいけど……夕方から会合があるから帰らなくちゃいけないんだよ」
    「会合? 家のか?」
    「うん、そう」
     木の葉丸の家とは由緒正しい木の葉の名家、猿飛一族である。先代の当主であった三代目火影、猿飛ヒルゼンの直系の孫である彼は、ゆくゆくはこの家の当主となるということで、下忍になった頃から一族の大人と共に、家同士の付き合いの席に顔を出すことが増えてきたのだ。
    「堅っ苦しい席だし、正直面倒臭いんだけどな。だいたい古い家は集まるし、オレみたいに今のうち慣れとけって連れて来られる奴もいるから、抜けるわけにいかないんだ」
    「へー、お前も大変だな。古い家ってことはシカマルやいの達も出るのか。あいつらも忙しいな」
     そう言ってナルトは飲みきれなかった水を足下の土に染み込ませるように撒いた。少量の水滴は木漏れ日の下、一瞬の煌めきを残して消えていく。
    「奈良、山中、秋道、日向、犬塚あたりはだいたい来るかな。油女は時々。大人の話は長いから退屈だけど、世代交代が進んでシカマルさん辺りが仕切るようになればちょっと楽になるかな……なんて期待してたり」
    「どうだろな。あいつ、自分が面倒臭いのは嫌いだけど、お前ら下の世代がゲンナリする顔は見たいかもしれないぞ」
     真面目ぶった顔で淡々と、校長先生のお話よろしく態とらしく長ったらしい話をする友の姿は容易に想像できた。うげえ、と木の葉丸が嫌そうに呻く。
    「ハナビだってつんと澄まして座ってるけど、横で座ってるヒアシさんにバレないように何回か欠伸してたの見えてたんだな、コレ」
    「へぇ……」
     ナルトが僅かに表情を変えた。
     日向ハナビは日向宗家の次女で、木の葉丸と同年代のはずだった。
    「お前とハナビって仲良いのか?」
    「いや、あんま接点ないし。話したことくらいはあるけどさ」
     ハナビがどうかしたのか? と木の葉丸が怪訝そうにする。そして、思い付いたように言った。
    「ヒナタ姉ちゃんなら、火影様に頼まれて土の国まで行ってるらしいよ」



     薄く血管の透ける肌に触れていく。首もとにかかる長い髪をかき上げ、現れた耳に口づけると忽ち血色が上って熱く色づく。そのまま唇を首筋に滑らせると、とくとくと息づく鼓動が伝わって、生命活動の要である場所を許されているという仄暗い悦びに胸が熱くなった。
     いっそ口に入れて支配してしまいたい。いやダメだ。欲望と理性が交互に押し寄せ、点滅する。相反する衝動がせめぎあって、くらくらする。
     震える肩には気づいている。ゴメンな。
     空いた手で形よく丸い頭を撫でると、さらさらした髪の手触りがやけに心地いい。撫でられたことで少しだけ力の抜けた身体を引き寄せ、首筋にちくりと自分の痕を残した。




     恩師から連絡があったので、忍術アカデミーに顔を出した。
     久方ぶりに会ったうみのイルカはナルトを見るなり黒い目をぱちぱちとさせて、「ナルト、また背が伸びたか? ……大きくなったな」などと言った。
     親戚のおじちゃんか。と苦笑する青年に、イルカはくだけた笑みを見せた。
    「似たよーなもんだろう。お前がこーーーーんなちっこい頃から見てるんだから」
    「あっおじさん! ていうかもう、お爺さんの発言だってばよ!」
    「こんにゃろ。……そーかお前がそのつもりなら、こうだ」
     笑顔のまま片方の眉を吊り上げたイルカは徐に歩み寄ると、有無を言わさず青年の上半身を数十センチ押し下げて片腕で固定する。そしてもう片方の手で、彼の長めの金色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ始めた。
    「……わっ、イルカ先生! 何すんだよ!」
    「よーしよしよし。お前はいつまでも可愛い俺の生徒だ。お爺さんがよしよししてやろう」
    「ごめんってばよ! お爺さんでもおじさんでもなくて」
    「お兄さんだ」
    「お兄さん!」
     ナルトの返答と共に、ぱっと手を離したイルカは朗らかに笑っている。怒った素振りで戯れてみせたその顔はやはり歳の離れた兄のようで、ナルトは暫く帰っていなかった実家に戻ったかのような気持ちになる。
     思わず頬が緩むのを抑えて、不貞腐れた顔を作った。
    「なんだよ、先生。せっかく来たのに」
    「ああ、忙しいところ悪いな。授業で体術の演習をやってほしいんだ。今年はちょっとやんちゃな子が多くてね、基本をおろそかに、すぐ忍組手の実戦をやりたいと言って聞かない。どんなに強い忍でも、最初から強い者など何処にもいないというのに」
     イルカが嘆息する。問題児に慣れているはずの彼が言うということは、余程なのだろう。そして、戦後の学び舎で忍者の卵たちが憧れる者といえば、先の忍界大戦で獅子奮迅の戦いぶりを見せた各里の英雄たちである。大戦の終結から一年と少し、子ども達がそれぞれの胸に抱える理想の忍像は伝説になるにはまだ早い。自分たちが学ぶのはこんな教本通りの演習ではなく、実戦であるべきだ、英雄たちだってそうやって育った、ならば自分たちだって出来るはず――
     生きるか死ぬかのぎりぎりの局面は去り、実際の戦場が遠くなった現在、そう勘違いしてしまう者がいてもおかしくない。
    「……なるほど。オレは鼻っ柱をへし折ってやりつつ、うまい具合に子供達の憧れを背負って、強くなるのに近道はないって教え込んでやればいいんだな」
    「そういうことだ。……ところで、やっぱりお前大きくなったな? そろそろ、上着とズボン、替えたほうがいいんじゃないか」



     額当てを外してしまえば、上着の襟元から、鎖帷子に覆われた肌が少しだけ見える。
     上着のファスナーをするすると下げて、左右に開く。ナルトにも馴染みのある、身体にフィットして動きの邪魔をしない、よく見る鎖帷子だ。掌による打撃を主とする近接戦闘タイプの彼女は、ぴっちりとこれを身に付けている。その上に羽織った任務服は、やけにだぼっとしている。くノ一は大人になると、個人の戦闘スタイルによって服が変わる。そういった任務服は服自体に耐刃・耐火の効果があるので、このように分厚い素材を着込まなくても良くなるかもしれない。そんなことを考えながら上着を脱がせて、ナルトは少々固まった。
     少女らしい身体の、首も、肩も、腕も細い。細い身体のその中心に、大きなものがある。
     いつのことだったろうか、ロック・リーに誘われ、仲間たちと銭湯に行ったことがあった。その時に、壁一枚を隔てた女湯から聞こえてきた女子達の会話が甦る。『ヒナタ、成長しすぎィー』……たしか、そんな。
     服の裾に手を差し入れ、肌着と共に鎖帷子を持ち上げて脱がせると、その柔らかで大きなものはナルトの目の前でふるん、と揺れた。




     汗ばむ陽気だった。ちょうど季節の変わり目に差し掛かったこともあり、任務服の採寸場は非番の忍たちでそれなりに混んでいた。
     名簿とメジャーを持った係員が早足で行き来する中、ナルトは受付に名前を書いて待つ。
     忍の任務服は体にサイズが合っていて動きやすいことは勿論、個人の使う術や特性によってデザインが変わる。十代のうちは成長期であることも考慮してゆとりのある布使いになっていたり、軽くとも防御力・耐久性に優れた素材が使われていることが多い。そして、忍として中堅に差し掛かる世代になると、より自身に合ったものを選ぶ。ナルト達の代も、最近になって任務服を変える者が増えていた。
     簡単に採寸を終え、色やデザインについて希望を伝えてから、ナルトは採寸場を後にした。

     動きやすさ重視で、トレードマークのオレンジはそのまま。上着はその場にいた係員に勧められるまま、少し大人びたデザインの黒いものを選んだ。
     この上着に合わせるなら、額当ては今まで通り頭の後ろで結ぶタイプではなく、シンプルなヘアバンドのタイプが合うと言われた。
     服も額当ても真新しくなるのなら、髪もさっぱりと切ってこようか。そんなことを考えつつ商店街をふらふらと歩いていると、視線の先に見覚えのある顔を見つけた。
     同期の女子たちだ。ナルトは片手を上げ、気安く声を掛ける。
    「サクラちゃん、いの」
    「なんだナルトか」
    「なんだとはなんだってばよ。何してんの?」
    「見ての通り、ショッピングよ。新しい任務服に合う髪飾り、探してんの」
     そう言うと、山中いのは腰まで伸びた蜂蜜色の髪を揺らして得意気にくるりと回ってみせた。
    「どーう? 360度隙のない完璧な大人の魅力、輝かんばかりのこのプロポーション。木の葉のキレイなお姉さんの完成よ」
    「あー、いのも服変えたのか」
    「ちょっ、アンタ今気付いたの」
     いのが呆れた声を出す。見れば、腹のあたりの布がない代わりに腰から下を覆う布は長く優美で、以前より「お姉さん」みが増している。ような気がした。
    「あっよく見たらサクラちゃんもなんか変わってる」
    「よく見たらってアンタ」
     言われなきゃ気づかなかった、と言わんばかりのナルトに女子二名の白い目が向けられる。誤魔化すように愛想笑いを返しつつ、ナルトは彼女達の周辺にさっと目を走らせる。
    「……今日、ヒナタは? あいつは任務服変えないのか?」
     ひとつ歳上のテンテンを除けば、同期の女子はサクラ、いの、ヒナタの三人だ。だから彼女らなら知っているだろうと思って、聞いた。
     ことも無げにいのが答える。
    「あの子なら、暫く里を空ける用があるからって、先週のうちに採寸は済ませたはずよ。帰ってきたら取りに来るんじゃないかしら」



     忍なら怪我と無縁ではいられない。
     小さくても、大きくても、浅くても、深くても、何かしらどこかに傷がある筈だ。若い体のこと、その大半はきれいに塞がっているが、それでも薄く残る傷はある。
     彼女の身体のほとんどを覆う服の下に隠れたそれらをナルトが見る機会はない。これからも知る機会はないだろう。
     ――だからこれは、全部ナルトの想像に過ぎない。
    「は……ッ」
     汗ばむ身体も、ぶつかる肌も。
     白磁の肌に薄く残る傷痕を平たくした舌で舐め上げ、吸い付いた。迸る情欲のまま吸い上げた箇所に、暗赤色の痕が痛々しく現れる。
     日向ヒナタの上気した頬に、まるい額に、涙で濡れた長い睫に、貪られて鮮やかな紅色に染まった口唇に、好き勝手にくちづけを落とす。
     あたたかい。濡れて、張りついて、きもちいい。
     抱きしめると抱き返してくれる細い腕が、おずおずとナルトの頭を撫でてくれるヒナタの手が、心地よくて嬉しい。
     小さな唇を塞いで、口の中をぐちゅぐちゅと舐め回しながら、夢中で腰を振る。経験などないから、知らないから、それだけ。彼女を知りたい、暴きたい。いつも見ているよりも深いところまで、繋がりたい。
     合わせた口の中でくぐもった喘ぎ声が上がり、ヒナタの顎が上がって白い頸が仰け反る。痙攣するように震える身体のそこかしこに残る、醜い執着の痕に、子どもじみた乱暴な喜びを抱く。
     腹にも傷痕がある筈だ。ナルトは指を滑らせて、豊かな乳房の下に薄く残るひきつれを探る。

     この執着はなんだろう。
     どうして彼女なんだろう。

     仲間の彼女に対し、こんな行為をすることに罪悪感が無いわけじゃなかった。ただ、これは夢だから。
     里に帰り、時たま顔を合わせた時に、安心感をくれるヒナタの優しい瞳に、綻ぶ唇に無体を働きたいわけじゃない。
     他の奴と任務に行っていると少し面白くなくて、長く見ないと心配で、気にかかる。あえて言えば、それだけ。
     だから身体を突き動かすこの衝動の意味を知らない。分からない。
     ただ――触りたい。




     ――夢見が悪かった。

     原因は分かっている。この頃溜め込んだ鬱屈が元だ。いつも起きた瞬間に忘れてしまうのに、珍しくどういう夢だったか、うっすらと憶えている。
     寝起きから引きずった気分はひどく落ち着かなく、胸をざわめかせて、自己嫌悪は何処にもぶつけられない怒りとなって胸腔内をぐるぐると巡った。
     らしくもなく、我慢をした。自分の立ち位置をわきまえてモヤモヤをそのままにして、足を踏み出しかねているなんて。
     同じ班ではないが、知らない仲ではない。「けっこー特別」に思っている仲間なのだ。少なくともナルトの方はそう思っているし、相手にもそこそこ好かれているという自覚もある。ちなみに、これは独りよがりでも自惚れでもない。今まで自分と彼女が辿ってきた道筋を考えてみた結果、ただの友達というよりは親友。ただの仲間というよりはかなりの仲間なのだ。
     気になることをそのままにしておくなんて全くもって自分らしくない。
     午前中の任務報告ラッシュの波が過ぎて、一息ついている上司の部屋の扉を勢いよく開けた。
    「カカシ先生ェ!!」
    「六代目て呼べって言ってるでしょ」
     驚いたようすもなく返してくる上司が呆れた目を向けてくるのに構わず、ナルトは勢いに任せて言った。
    「一、二週間前の土の国の任務は!」
    「無事終わったよ」
    「五日前のゆーかい組織ぶっ潰し任務だけど、木の葉の子拐われてねーよな?」
    「ないよ。お前が出てったからすぐ犯人たちも降伏したし、逃げ道も作らなかったでしょ。落ち着いて、用件は?」
    「ヒナタどこ!」
    「ああ、心配してたのね」
     得心がいった様子でカカシがぽんと手を叩いた。
    「どうせ国境から離れた所までいくからって、そのまま日向のお使いに行く許可を出してたんだよね。昨日帰還の報告に来てたから、里にいると思うけど」
     そう言うと、カカシはにこりと笑って首を傾げる。ナルトの空回りを楽しむ風に。
    「仙人モードで探してみれば?」




     高気圧がやってくる。
     初夏の眩しい光が、からりと乾いて吹き抜ける透明な風が、胸元にわだかまった声を出せと誘いかけてくるようで、ナルトはひとつ息を吐く。
     街を見渡すことのできる、高い鉄塔の天辺で目を閉じて、意識を集中する。研ぎ澄ませた感覚の先に目的のチャクラを認めると、徐にナルトは鋭角にそそり立つ金属の先端を蹴った。
     迷わず向かった方角の先に、ほっそりとした後ろ姿が見えた。ナルトの記憶と比べて随分と様変わりした細いシルエットの服に身を包んで、しかしその背を覆う藍がかった黒髪は見間違えるはずがない。一糸の乱れもなくつややかな、清廉な彼女を構成するきれいなもの。
     その髪を触りたい。指を絡めて、弛く握って、掌全部で彼女を感じたい。閃く衝動は、きっと近付く夏の熱気に浮き立つ胸が見せる幻で。

     ――見えないフリでしまい込む。

     ナルトは息を吸うと、よく通る声で呼び掛けた。
    「――ヒナタ!」
     クリアに空気を伝わって届いた声に、まだ遠い距離にある細い肩が跳ねるのが見えた。唇の端が勝手に上がるのを感じながら、ナルトは跳んであっという間に距離を詰めた。長い髪が舞い、すんなりとした体躯が振り向く。
     驚いた様子で振り向いた瞳は直ぐにナルトの姿を捉えて、みるみる嬉しげに緩む。
    「ナルトくん」
     少女めいたあどけない微笑みはそのままに、新しく纏った任務服から伸びる真っ白な腕と脚の肌。

     よく晴れた青空に映える白は、この上なく、眩しく見えて――
    ナルトは知らず、目を眇めた。








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