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    raku_713

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    raku_713

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    ミスオエがオエぬいと出会い、お茶会をしたりしなかったりするお話。オエぬい、息をするようにしゃべります。

    いちご味のお茶会 日が沈むには少し早い夕方。オーエンは魔法舎の近くの森で遅めの昼寝をしようと、具合のいい木陰を探していた。
     彼はつい先ほど、食堂に忍び込んで、甘めの味付けのオムレツを堪能したところであり、心もお腹も満足感でいっぱいだ。普段はなかなか食堂に入れさせてもらえないが、今日は運がよかった。オーエンの一足先に盗み食いを企んだブラッドリーがネロに見つかり、追いかけられて大叱責を受けている間に、難なく食べ物にありつくことができたのだ。これで今日の夕飯は、馬鹿みたいにほかの魔法使いと同じテーブルにつかなくて済む、と機嫌がよさそうだ。
     しばらく歩いていると、落ち着けそうな木陰を見つけた。上機嫌に鼻唄なんて歌いながら、木のふもとへ腰を下ろす。トレードマークの帽子を取り、草や小花でふかふかとした地面にそれを置くと、小さなあくびをしてゆっくりと瞼を閉じた。
    ――その瞬間。
    「……痛っ!」
     空から何かが降ってきた。それは、ぽふん、と小さな音を立ててオーエンの頭に当たり、地面にころころと転がる。
    「何?」
     ミスラやブラッドリーの奇襲かと咄嗟にトランクを取りだすが、地面に転がるそれはもぞもぞと動くだけで攻撃を繰り出す気配はない。
    『び、びっくりした』
     様子を伺っていると、それは小さなぬいぐるみのようなもので、耳を澄ませると何かをしゃべっているように聞こえる。
    『んっと、ここ、どこかな』
     ぬいぐるみらしきものは、きょろきょろと辺りを見回している。目を凝らしてよく見ると、白地に細いストライプの上下スーツにマント、帽子。自分と同じような格好をしているではないか。
     じっと観察していると、小さい生き物と目が合った。それは少しうれしそうな表情をして、ぽてぽてとオーエンのもとへ近寄ってくる。
     もう少し近くで確かめたい。そう思ったオーエンは、不安定な地面をやっとやっと歩いているぬいぐるみを、そっと持ち上げて掌におさめた。
     近くで見ると、同じような格好をしているだけでなく、左右で異なる目の色まで一緒なことに気づき、何だか落ち着かない気持ちになる。ただ、似ているのは格好と目の色だけで、ゆるゆるにゆるんだ表情は似ていないな、とオーエンは思った。
    『……おじさん、だれ?』
     オーエンに似た、小さい生き物が尋ねる。
    「おじ……、なに、それ僕のこと?」
    『うん!』
     オーエンは、じとっと小さな生き物を見つめる。
    「その呼び方はやめて。僕はオーエン。おじさんじゃない」
    『えっ!オーエンっていうの?じゃあ、ぼくといっしょ!』
     自分もオーエンだと名乗るそれは、オーエンの手の中で嬉しそうに笑った。
     目の色や洋服だけでなく、名前まで一緒だなんて、誰かのいたずらとしか思えない。しかし、あまりにも純粋なオーラを放つ「オーエン」を地上に放り出すには、なけなしの良心が傷んだ。
    『んっと、んっと、おにいちゃんは、ここで何してたの?』
    「おにいちゃん?」
    『オーエンのこと!いや?』
    「……そう。別に、好きに呼べば」
     オーエンは、満更でもない顔でそう答える。
    「昼寝をしようと思ってた。そしたらおまえが落ちてきた」
    『おひるね?とってもきもちよさそう!ぼくもしていい?』
    「別にいいけど。でも、僕と一緒に寝たら、悪夢を見ちゃうかもね」
    『あくむ?』
     小さい「オーエン」は小さく首をかしげる。
    「怖い夢だよ」
    『こわいゆめ……きらい……。見たら、おにいちゃん、助けてくれる?』
    「さあね。おまえがいい子なら、助けてあげるかも」
    『ぼく、いいこだよ!』
    「そう。なら、助けてもらえるかもね」
     オーエンはそう言って小さい「オーエン」の頭をなでると、再び昼寝の体勢に入る。木にもたれかかり、太ももに「オーエン」を乗せると、ゆっくりと目を閉じた。
     と、そのとき。聞き慣れた声が耳に届く。
    「《アルシム》」
     何万回も聞いた言葉とともに、空間をつなげる扉から、ミスラが顔を出した。
    「何してるんですか」
    「……最悪」
     再度眠りを妨げられ、オーエンは不快そうにつぶやく。ミスラがいる場所で呑気に眠るなんて、到底できない。大きくため息をつくと、昼寝を諦めて立ち上がった。
    『どうしたの?おひるね、もうおしまい?』
    「うん。悪夢を見たからね」
     オーエンは、ミスラを睨んでそう答える。ミスラは、気にも留めない様子で、オーエンの腕の中の小さな「オーエン」を覗きこんできた。どうやら、この小さな生き物の存在に気づいたらしい。
    「何ですか、それ」
    「おまえには関係ない」
    「あなたにそっくりですね」
    「そう?」
    「ええ、ニコニコしてるところとか。弟ですか?」
    「はあ?そんなわけないだろ」
    「そうですか?じゃあ、妖精か何かかな」
     ミスラが、小さい「オーエン」に顔を近づける。まじまじと見つめ、「本当にそっくりだな」などと感心している。そして、ふと思いついたような表情をした。
    「がお!!」
    『びゃっ!!!』
     大きな声に、小さい「オーエン」は、逃げるようにオーエンの腕にしがみついた。
    「ははっ、びっくりしました?」
    「ちょっと、脅かさないで」
     ミスラから「オーエン」を守るように、オーエンはぎゅっと胸に引き寄せる。ミスラは楽しそうに笑っている。完全に弱いものいじめだ。
    「意外と気に入ってるんですね、それのこと」
    「別にそんなんじゃない」
    「あはは。そっくりなので、一緒にいると面白いですね」
     ミスラが小さい「オーエン」の頭をぐりぐりとなでる。彼も、この小さい生き物を気に入ったようだ。
    『はあ。びっくりしたら、なんだかおなかがすいてきちゃった……』
    「おまえ、物を食べれるの?」
    『うん!あまいのすき!』
    「甘いのなら持ってますよ。さっきオズを殺しに行ったら渡されました」
    「……馬鹿にされてるんじゃないの」
     ミスラはポケットからガサゴソと飴を取りだした。包装紙を開いて薄紅色の飴をつまむと、小さい「オーエン」の口元に差し出す。
    「食べます?」
     そう尋ねられた「オーエン」は、ミスラの大きい手を両手で支えるようにして、ぺろぺろと飴をなめはじめた。
    『あまくておいしい!』
    「ちょっと、指まで舐めないでください」
     ミスラが無理矢理「オーエン」の口に飴玉を入れると、「オーエン」は小さな口を飴玉でいっぱいにして、おいしそうにそれを味わった。
    「いちご味だそうです」
    『いちご味、おいしいね。おじさん、いいひと!』
    「おじさん?」
     小さい「オーエン」は、つい先ほど脅かされたのを忘れたのか、ミスラに心を許したようにふわふわと笑った。そして、ミスラの腕に移ろうとしてか、オーエンの腕の中でもぞもぞと動く。
    「こっちに来たいんですか?」
     ミスラが「オーエン」の頭をむんずと掴み、自分の腕へと移動させる。「乱暴にするなよな」というオーエンの声など届いていないようだ。小さい「オーエン」は、満足そうにミスラの腕にくっついている。
    「そうだ。部屋にほかにも甘いものがあるんです。俺の部屋でお茶会でもしませんか」
    「嫌だよ。僕は部屋に戻……」
    『お茶会!?』
     オーエンが誘いを断ろうとしたとき、「オーエン」の弾んだ声が響いた。小さい腕をぱたぱたと動かし、目をキラキラと輝かせている。
    「何。お茶会、好きなの?」
    『んっと、お茶会、したことなくて。とってもたのしそう。……だめ?』
    「こう言ってますけど。あなたはどうします?」
     キラキラした大きい目と、眠そうだけどもどこか楽し気な瞳に見つめられ、オーエンは二度目のため息をついた。機嫌を損ねてここで殺されるのだけは避けたい。
    「……わかったよ。その代わり、ドロドロに甘いの、たっぷり食べさせてよね」

    ・ ・ ・

     ミスラの部屋にアルシムで到着すると、ミスラは引き出しから大量のお菓子を取りだした。
    「最近、オズがよくくれるんですよね」
    「殺しに行ってお菓子もらって、のこのこ部屋に帰ってきてるの?」
     オーエンの問いに、ミスラは考えるそぶりをする。
    「まあ、次は殺すので。問題ありません」
     物騒な話をするふたりの前で、小さい「オーエン」はお菓子の山に登ってどれを食べようかと悩んでいた。ふと、山の中に薄紅色の包み紙を見つけ、埋もれているそれを小さなからだで引っ張り出した。
    『これ、さっきと同じいろ!』
    「多分いちご味ですよ。食べます?」
    『うん!』
     ミスラが包み紙を破くと、ピンク色のクリームが挟まったサンドクッキーが出てきた。先ほどと同じように小さな口に近づけると、「オーエン」は嬉しそうにしゃくしゃくとそれをかじりはじめた。
    「おいしいですか?」
    『うん!』
    「紅茶も飲みますか?」
    『こうちゃ、のんでみたい』
     ミスラが呪文を唱えると、こぽこぽといい音を立ててカップに紅茶が注がれた。普通のサイズのカップがふたつに、小さなサイズのカップがひとつ。ミスラは、小さなカップを取って「オーエン」に渡した。「オーエン」はクッキーから手を放してそれを受け取り、ちまちまと紅茶を飲み始めた。ミスラの指には、小さなクッキーサンドが残っている。
    『おいしい!お茶会って、たのしいね』
    「そうですか。よかったですね」
     ミスラが、小さい「オーエン」の口元についた食べ残しを取る。自称「面倒見がいい」だけあって、甲斐甲斐しく「オーエン」の世話をしているようだ。それに、何だか楽しそうでもある。
    『もっとたべる!』
     ミスラがまだ残っていたいちごのクッキーサンドを小さい「オーエン」に近づければ、「オーエン」は再びおいしそうにそれをしゃくしゃくと咀嚼した。幸せそうな「オーエン」を見て、ミスラの頬もゆるんでいる。
     一方、大きい方のオーエンは、心底つまらなそうな顔をしていた。
    「何。にやにやして気持ち悪い」
     お菓子の山から一掴みお菓子を取ると、魔法で包み紙を一気に外し、やけ食いのように次々に口に詰め込んでいった。
    「……あんまり甘くないし。最悪」

    ・ ・ ・

     ひとしきりお菓子を味わった小さな「オーエン」は、『まだたべる……』と気に入ったらしい薄紅色の包み紙を抱えながらも、眠気に耐えられずに夢の中へと旅立っていった。
    「寝ちゃったな」
     ミスラは「オーエン」を優しく持ち上げ、ベッドへと移動させた。ぴすぴすと可愛い寝息を立てる小さな顔を、つんつんとつつく。
    「……気持ち悪い」
    「何がですか」
     拗ねた様子のオーエンに気づいていないのか、お菓子の山を掻きまわすようにして、何かを探している。「もうないな」と小さな声をこぼした。
    「おまえ、随分そいつのこと気に入ったみたいだね」
    「はあ、まあ。あなたにそっくりで可愛かったですよ」
    「はあ?」
    「あなたも、お菓子食べてくださいよ」
    「食べた。いつもより甘くなかったし、もういらない」
    「おかしいな。甘いはずですよ」
     ミスラは、「オーエン」が抱えて寝ている薄紅色のお菓子をそっと取り、その包み紙を開けた。
    「ほら、食べてください」
     取りだしたクッキーサンドを、オーエンの口元に近づける。ふに、と薄い唇に当たった。
    「さっきから、あなたにもこうしたいなって思ってました」
    「何それ。おかしいんじゃない?」
     そう言って睨みつけるが、全く効果がない。譲る気のないミスラに、オーエンは諦めてピンク色のクリームが挟まったそれを一口かじった。
    「あはは。可愛いですね」
    「……意味わかんない」
     ミスラは嬉しそうに笑った。口元についているクッキーを取り、自分の口に運ぶ。「やっぱりそっくりだな」と満足げだ。ここまで上機嫌なミスラは珍しい。その様子を見ていると、自分でもうまく言葉にできなかったもやもやが、少し晴れていく気がした。
    「甘いですか?」
    「さあ、食べてみれば?」
     ミスラから、残りのクッキーを奪い、ミスラの口元に近づける。ミスラはそれを一口でぱくりと食べた。
    「どう?」
    「甘いですね。甘くて、楽しいです」
     そう言って、もう一度笑う。満足そうな表情につられ、オーエンも無意識に口角が上がった。それと同時に、何だか物足りないような、でもわくわくするような、不思議な気分が湧き上がってくる。
     オーエンは、お菓子の山から一つを掴む。包装を開けて、ミスラに差し出した。
    「ねえ、もう一回」




    ○おまけ○
    このあと、オエぬいちゃんをはさんで3人川の字で寝ます。
    眠れないミスラさんは、オーエンちゃんが寝たあとに、可愛いオエぬいちゃんと可愛いオエちゃんを腕の中に収めて、眠れないながらも癒されましたとさ。
    (というところまで本当は書きたかったです 笑)
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    Replies from the creator

    recommended works

    mitotte_kazu

    MAIKINGフラダンスを生で見る機会があって感動したので🦍🐇で書いたやつ。思いついたら続くかもしれない
    舞踏 トントントントン、とヴィエラの長い脚がリズムを刻むようにステップを踏む。一定のリズムで四拍子を刻みながら、すらりとしなやかな腕を広げたり、揺らめかせたりしていた。両手で大きな弧を描いたかと思えば滑らかに手首を揺らし、緩く何かを包むように両掌を揃え、翻しながら舞っている。頬杖を突きながら無言で見入っているルガディンに時折顔を向けながら、指先に視線を移したり目を伏せたりする。周囲の踊り子達に比べて場数や経験も足りていないため拙さは多少感じられるものの、それを差し引いても目を引く姿だった。

     きっかけはたまたま訪れたメリードズメイハネで伝統の舞踏が披露されていたところだった。話を聞くと観光サービスの一貫で時折行われているらしく、ヴィエラとルガディンは思わず感嘆を漏らす。近く行われる予定の祭典でのお披露目前に新人の踊り子達が人目に慣れるように、との理由で行われていた事だった。軽食と飲み物を待ちながら数曲を演者を変えつつ行われる公演を眺める。華やかな舞踏と音楽と共に届いた食事を堪能する。
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