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    raku_713

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    raku_713

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    しゃべって動くオエぬいにお友達ができるお話。ミスオエとぬいシリーズの3作目。ゆるいギャグ。1・2作目は水晶の先の「過去作品展示」にURLを貼っています。

    新しいともだち「空から何か降ってきました」
     ミスラがオーエンの部屋の扉を壊して、もとい開いての第一声である。
    「ちょっと。勝手に入ってこないで」
     オーエンの苛ついた声を無視し、ずかずかと部屋の中に入ってくるミスラの手には、むんずと何かが掴まれている。もぞもぞと動いているように見えるそれは、『ム!ム!』と不思議な鳴き声を発していた。
    「何それ。変なもの持ち込まないでくれる」
     ミスラはまたしても彼の言葉を無視し、掴んでいる何かをオーエンの顔の前にずいと近づけた。それは、人型をした二頭身ほどのぬいぐるみで、髪は深い赤、目は緑色をしていた。
    「……おまえにそっくりだね」
    「そうですか?そう言われてみればそんな気がしてきたな」
    『ぜんぜんにてません』
     小さいぬいぐるみが割って入る。
    「なに、お前しゃべれるんだ」
    「ええ。さっきからうるさくて仕方がないです。あなたならこれのこと何か知ってるかと思って連れてきたんですが」
     そう言って、大きな手で力強く掴んだぬいぐるみをじっと見つめた。ぬいぐるみに痛覚があったとしたら、だいぶ痛そうである。抵抗するように『ム!ム!』と鳴き声を上げている。
    「僕が知るわけないだろ。そこで寝てる小さいのに聞いてみれば?」
     オーエンがベッドですやすや寝息を立てる小さなぬいぐるみを指した。それはちょうどミスラが連れてきたぬいぐるみと同じ大きさで、グレーの髪に赤と黄色の瞳をしており、白の服と帽子を身にまとっている。
     このオーエンにそっくりなぬいぐるみは、ちょうど1か月ほど前、昼寝をしようとしていたオーエンの元に空から降ってきたものである。当たり前のように動いて話す不思議な生き物だ。紆余曲折あって、今はオーエンの部屋で暮らしているが、ミスラにもとても懐いている。そんな彼は今、両手でいちごのサンドクッキーの包み紙を抱え、幸せそうに眠っていた。
    「おまえにもらったお菓子を食べて優雅に昼寝してる。本当、お気楽だよね」
     オーエンはそう言って小さいオーエンをゆすって起こした。
    「起きろよ。おまえにそっくりなやつが来たよ」
    「ちょっと、もう少し優しく起こしてくださいよ」
    『ぅん……』
     小さいオーエンが、小さく息をこぼして目をこすった。ミスラが「おはようございます、小さいオーエン」と優しく頭を撫でると、何度か大きい目をぱちぱちとさせたのち、嬉しそうににっこりと笑った。
    『おじさん、おはよう!おこしてくれたの?』
    「はい」
    「ねえ、起こしたのは僕なんだけど」
    「あなた、これのことわかりますか?さっき空から降ってきたんですが」
     ミスラが、小さいミスラを小さいオーエンの前に座らせた。握られすぎて、若干くたびれている。
    『んっと……わからない……。わからないとだめ?』
    「いえ、わからなくてもいいですよ。聞いてみただけです」
     ミスラが「知らないならどこかに捨ててきます」と再び小さいミスラを持ち上げようとする。小さいミスラは、それを華麗にかわして小さいオーエンの隣に座り直した。
    『おれもあなたのことはわかりませんが、あなたとなかよくなりたいです』
     その言葉を聞いて、小さいオーエンの表情がぱあっと明るくなった。
    『ほんとう?うれしい!じゃあ、ぼくたち、おともだちだね』
    『おともだち……。そういうのは、はじめてです』
    『えへへ。おじさん、よろしくね!』
    『はい、おねがいします』
    「ねえ、何か盛り上がってるけど……おまえ、自分以外はみんなおじさんなの?」
     オーエンのつっこみに、小さなオーエンは、「何を言われているのかわからない」というような、無垢な瞳をしている。
    『おれのことは、ミミちゃんってよんでください』
    『ミミちゃん……。わかった。よろしくね、ミミちゃん!』
    『はい、よろしくおねがいします』
     小さなミスラは嬉しそうに腕をパタパタ動かした。つられて、小さいオーエンも両手をパタパタと上下に動かす。
    「ミミちゃんだって。似合わなすぎるんじゃない?」
    「そうですか?愛らしくていいと思いますよ。ねえ、ミミちゃん」
    『ちょっと。あなたにはそのよびかた、ゆるしたつもりありません。ム!ム!』
    「はあ。可愛くないな」
     ミスラが人差し指で小さいミスラの頭をつつく。小さいミスラは、再び『ム!ム!』と抵抗した。
    「ねえ、さっきから言ってるそれ、何なの」
    『じゅもんです』
    「へえ。おまえ、魔法使えるんだ」
    『ええ、まあ』
    『すごい!かっこいいね!』
    『そうでしょう』
     小さいミスラは、ふふん、と両手を腰に当て胸を張ってみせた。小さなオーエンは、その小さい腕にくっついて、きゃっきゃと喜んでいる。
    「呪文唱えるとどうなるんですか?」
    『ちょっとつよくなります』
    「はあ……、違いがよくわからないな」
    『あなたきらいです。ム!ム!ム!』
     小さいミスラが必死に跳ねながら呪文とやらを唱える。しかし、なにもおこらない。
    「俺はあなたのこと嫌いじゃありませんよ。まあ、うるさくてめんどうくさいですが。今度本当の魔法を教えてあげます」
     小さい頭をぐりぐりと撫でる。小さいミスラは短い腕を上げてぶんぶんと回し抵抗するが、あまり意味がなかった。
    『いつか、ぜったいにあなたをたおします』
     ミスラは「面白いですね」と笑った。
    「じゃあ、この件は解決したので、これは俺が持ち帰ります。問題ないですよね」
     何が解決したのかはよくわからないが、部屋に来たときよりはすっきりした表情のミスラが、小さいミスラを掴んだ。小さいミスラは身体をぶんぶん震わせて抵抗している。
    『どこにつれてくんですか。おーえんとはなれるのはいやです。ともだちだから、ずっといっしょにいます』
    「はあ。わがまま言わないでくださいよ、めんどくさいな」
    『ミミちゃん、どこかいっちゃうの……?』
    「ええ、俺の部屋に連れて行きますよ。好きに出歩かれても迷惑なので」
    『ぼくも、ミミちゃんといっしょがいい……』
     ぼくも連れてって、というように、ミスラに手を伸ばして抱っこをせがんだ。ミスラがそれに応え、小さいオーエンを抱きかかえる。「仕方がないですね」と小さいほっぺにキスを落とした。つくづく小さいオーエンに甘い。
    「オーエン、あなた、今日から小さいオーエンを連れて、俺の部屋に引っ越してきてください」
    「嫌だよ」
     即座に断るオーエンを無視し、ミスラは続ける。
    「小さいあなたが、ミミちゃんと離れたくないみたいなので」
    『そのよびかた、やめてください』
     小さいミスラが腕の中で「ム!ム!」と騒いでいる。
    「小さい僕だけおまえのところに行けばいいだろ」
    「だめです。あなたは小さいオーエンの責任者なので」
     責任者とはおそらく保護者の意である。
    「小さいオーエンも、あなたがいないと寂しがりますよ」
    『ぼくも……おにいちゃんもいっしょがいい……』
     まるで示し合わせていたかのように、小さいオーエンは大きな瞳をうるうると揺れさせた。
    「……おまえだけ行けばいいだろ」
    『ぼく、おにいちゃんいないとさびしいもん……』
    「…………」
    『よにんがいいもん……』
    うるうる。きらきら。
    大きい瞳がいっそう揺れる。
    「…………」
     オーエンは、期待と不安でいっぱいの大きい両目から視線を外し、大きなため息を吐いた。
    「……おまえが慣れるまでだからな」
    『ほんと?やったー!!』
     見事なまでの陥落である。
     小さなオーエンはミスラの腕から飛び出すと、オーエンにすりすりとくっつき喜びを表した。小さきものは平和をもたらすのだ。
    「じゃあ、そういうわけなんで。これで俺たちもしばらくは一緒ですね。なんだかいい気分だな。今夜は眠らせませんよ」
    「……?うん……」
     上機嫌なミスラは、手の中の小さいミスラをオーエンの腕へと移動させた。小さいミスラは、小さいオーエンとほっぺたを寄せて喜んでいる。
    『ずっといっしょですね』
    『うん!』
     腕の中で嬉しそうにくっつく小さな二人に、オーエンが「おい、しばらくだけだからな」と言い聞かせた。


     完全に流されてしまったオーエンが後悔するまであと3時間。

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