ミスオエ自分用ムカムカするな、と思った。同時に何かを壊したいと思った。
それは時折彼を襲う衝動で、制御できないし、しようと試みたこともなかった。
「《アルシム》」
呪文を唱えて移動する。夢の森の美しい光景が目に飛び込んできた。目の前には銀髪の魔法使いがいる。
「ッ、ミスラ……!」
彼は、ミスラの姿を瞳に映すと同時に、舌打ちをして空中へ飛び立った。殺気立った獣と距離を取ろうとする。そんな彼を追うように、赤い獣は腕を伸ばした。
「《アルシム》」
再度、呪文を唱える。抑揚のない声。魔道具の髑髏が大きく息を吸うように膨らむ。
瞬間、大きなつららが、逃げようとする男の身体を貫通した。
「かはッ……!」
鮮やかな赤が飛び散る。それは雨のように降り、ミスラの顔を濡らした。
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