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    raku_713

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    raku_713

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    コサックギツネ視点のアルカヴェのお話。
    アルカヴェが付き合っている世界線です。

    最上級の祝福をあなたに 私は、スメールの砂漠に住むコサックギツネ。ちょっとだけおしゃべりが好きな、かわいいキツネの女の子よ。今日は、お散歩していたときに出会った、変わった人間の話をしてあげる。

    ・・・・・

     その人は、砂漠の真ん中で、難しい顔をして地面と睨めっこしていた。その顔立ちはとっても綺麗で、砂漠が不釣り合いに見えるほど。私は、彼に引き寄せられるように、近くまで寄っていった。
     すると、彼はブラウンの瞳を大きく見開いて、「うわっ」とバランスを崩してしまった。
    「な、なんだ……!水か?水はあげられないからな……!」
     命綱の水筒を抱えるようにして、彼は私に言った。水なんていらない、貴方が気になるだけなのに。彼の勘違いを正したくて、隣にちょこんと座って見つめてみたけれど、逆効果だったよう。彼は諦めたように、水を容器に注いでくれた。こんな環境で私みたいな存在に水をくれるなんて、ずいぶんとお人好しだ。
    「まったく、どうしてこうなるんだ……。これじゃあ、またあいつに嫌味を言われる。早く仕上げないと……」
     ブツブツ言いながら、木の枝を持ちなおして砂に向きなおる。地面には、建物のようなものが少しだけ描かれていた。続きを描くのかと思ったけれど、彼の右手はゆらゆらと宙で揺れるだけで、何も生み出すことはなかった。そんなことをしているうちに、突風が吹いて、彼の描いた少しの絵は、跡形もなく消えてしまった。
     心配になって顔を見上げると、彼は、悔しそうな、悲しそうな顔をしていた。
    「……今日は、描けると思ったのに」
     結局いつもこうだ、そう言って、木の枝をポキリと折って放り投げた。そのまま見つめていると、彼はゆっくりと口を開いた。
    「……一緒に住んでる人がいるんだ。その人との家を建て直したいって、勝手に思ってるんだけど、うまくいかなくてさ」
     彼は、青くて広い空を見上げた。ジリジリと太陽が照り付ける。
    「今日は調べたいことがあって、たまたまそいつとここに来てた。泊まる予定のところに戻る途中に、急にいいデザインをひらめいちゃってさ。あいつは呆れていたし、「スメールの大建築士様がここまで己を顧みない人間だったとはな」だとか、「頭の中が花畑、とはこのことか。その髪飾りも大輪の花に変えた方が良いだろう」だとか、散々嫌味を言ってきたけど、今しかないと思って、ここに描きはじめたんだよね。案の定、あいつは僕を置いて、宿に行っちゃったんだけど。まったく、本当に薄情で冷たい人間だよね。まあ、それもわけのわからない個人主義から来ているんだろうけど」
     私はもう一度彼の足元を見たけれど、風に飛ばされてしまったデザインは、もうどのような形をしていたのか分からなかった。
    「……建築デザインの仕事は、自分に向いていると思っているけど、だからと言って楽なわけじゃない。何かを生み出すということには、高確率で苦悩が付きまとう。でも、あいつとの家を描こうとすると、そういったよくある苦痛とはまた違った痛みが、こう、ここを締め付けるというか……」
     彼は、胸元で掌をぎゅうっと握りしめた。
    「はぁ、僕は何だってコサックギツネにこんな話をしているんだろう。自分で自分が嫌になってくるよ。……でも不思議だな、君はなぜか、僕の話を理解してくれているような気がするんだ。あいつに言ったら、『非現実的だ』って一蹴されるんだろうけど」
     大丈夫よ、理解しているわ。そう伝えたくて彼の足に頬ずりをしてみたら、彼は「ふふっ」と嬉しそうに笑って、私の頭をなでてくれた。
    「今の家は、何年も前に、研究のために建てた家なんだ。今はあいつのものになっていて、僕はそこに居候してる」
     彼は、はぁっと大きくため息をついた。
    「もちろんあの家のことは気に入っているけれど、僕が誰かと暮らすことを想定して建てたものではないし、今なら僕たちに合ったより快適な家を建てられる自信がある。でも……」
     彼の視線が、私から外れて、地面をさまよう。
    「あいつと住む家を考えようとすると、どうしても手が止まってしまうんだ。あいつとの未来を思い描けない……デザインできなくて当然だよ。一応、恋人同士……ってことになってるけど、こんな僕のことを好きだなんて理解できない。どうしてあいつは、僕と一緒にいるんだろう……」
     そうつぶやいたきり、彼は黙り込んでしまった。迷子になった子どものような、不安げで不安定な表情をして、ずっと長いことそのまま座っていた。元気を出してほしくて、服の裾をくわえたり、彼の周りをまわってみたりしたけれど、まったく効果はなかった。
     そうして随分時間が経って、日が落ち始める頃、遠くから誰かが歩いてくるのが見えた。もちろん知らない人だったけれど、この状況を何とかしてほしくて、私はその人の元に走っていった。
     その人は、私の姿を捉えたあと、その奥に座りこむ彼を見つけた。緑と黒の服をたなびかせて、その人は真っすぐに彼の元へ歩いていった。
    「まだここにいたのか」
     彼が、緑の人に気づく。
    「アルハイゼン……」
     ゆっくりと立ち上がり、砂を払う。緑の人は、それを見届けたあと、足元の砂に目を落とした。
    「何も描けていないように見えるが?」
    「う、うるさいっ!デザインするというのは、君が思っているよりも繊細で時間のかかることなんだ。それに何も描いていないわけじゃない。途中まで描いたものが、突風で掻き消されてしまっただけだ」
    「成程。そのような繊細な作業をこのような炎天下の砂漠で試みるとは、さすがはスメールきっての大建築士というわけだ」
    「なっ……!この仕事はタイミングも大事なんだ。ひらめきはすぐに消えてしまう。形に残すことがどれだけ大事か。君には一生分からないだろうけどね」
    「ああ、理解に苦しむ」
     一蹴された彼は、わなわな震えて怒っている。しかし、そこには、迷子になった子どものような表情は、どこにもなかった。
    「帰るぞ」
    「……嫌だ」
    「もう満足しただろう」
    「……」
     アルハイゼンと呼ばれた男が、水筒を彼に差し出した。一瞬ためらう様子を見せた彼は、それを受け取り、一口分喉に流し込んだ。
    「……その、迎えに来てくれたのか?」
    「そうだと言ったら?」
    「……」
    「感謝の言葉を述べるなら、宿に帰ってからの方が良い。その空っぽの頭で命の恩人への謝辞を考えるには、時間が必要だろうからな」
    「き、君ってやつは……!」
     アルハイゼンが、彼に背を向けて来た方向に歩き出す。置いて行かれた彼は、諦めたようにため息をついた。そして、しゃがみこんで私に視線を合わせる。
    「話、聞いてくれてありがとう。今日の話は、僕たちだけの秘密だよ」
     彼はそう言うと、私の頭をひとなでして、恋人の後を追っていった。私はそれを、姿が見えなくなるまで、ずっとずっと見送った。

    ・・・・・

     私が出会った、変わった人間のお話はこれでおしまい。
    それにしても、「どうしてあいつは、ぼくと一緒にいるんだろう」ですって。彼には悪いけど、笑ってしまいそう。彼の恋人は、あんなに熱い視線で「愛している」と伝えているのに。
     そもそも、「薄情」で「冷た」くて、「個人主義」な男が、こうやって正反対の性格の彼の傍にいる時点で……ねえ?
    理屈ばかりの人間が、理屈で説明がつかない愛を抱くのは、皮肉で、それでいて美しいわ。
     私が彼と同じ言葉を話せたら、すぐにでも彼に伝えてあげるのに。「あなたの想い人は、あなたの代わりに、あなたを心の底から愛している」ってね。
     残念だけど、それは叶えられないから、代わりにめいいっぱいの祝福を彼に送るわ。
     どうか彼が、彼の愛する人と、ずっと一緒にいられますように。
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