Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kasa

    マカロンキムチチゲ
    あんまり作品公開することはないです

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    kasa

    ☆quiet follow

    鯉月とごはん企画、とてもかわいいので失礼します。鯉:大学生、月:大学事務 の現パロです。
    ※ネップリ期間終了しました!印刷してくださった方、ありがとうございました〜!

    #koitsuki_to_gohan
    mothsuki_to_gohan

    鯉月とごはん「なんですかこれは」
     月島の眼前には桃色、黄緑、黄色、紫などの丸い繊細なパステルカラー達が白い化粧箱に並んで収められている。
    「マカロンだ」
    「まか……ろん……?」
    「本気か月島ァ……」
    「冗談に決まってるでしょう。そういうことを聞いているわけじゃありません」
     訂正。月島の眼前には、かわいらしい、およそ月島に差し出されるには似つかわしくないマカロンのボックスを手にした鯉登がいる。

     月島は食堂にいた。ネクタイを胸ポケットに押し込み、袖をまくり、カツ丼を前に手を合わせていたとこに鯉登が突撃してきたのだった。
     月島が事務員として勤めている大学に鯉登が新入生として入学してきたのはつい4月のことで、手続きのために窓口で受付を担当した月島に対面した鯉登は、傷も髭もシワもない、随分と若々しい笑顔で喜びの雄叫びを上げた。何かと話しかけてくる年若い不思議な昔なじみに「仕事の邪魔をしないでください」とピシャリ突きつけてからはこうして昼休憩や終業のタイミングを見計らって懐かれている。

    「学科の女子がくれたものだ。余ったらしい」
    「余ったって」
     そんなわけがないでしょう。そう言いかけて月島は言葉を飲み込んだ。見たところ、箱に収められたマカロンはひとつも欠けることなく整列している。化粧箱は白くツルッと光っており、あまり詳しくはわからないが、その辺のコンビニで売ってるものではなさそうだ。もしも一箱丸々余るような事態があったとして、若い女子大学生が、多少見目が良いからといって同じ学科に属しているだけの者に譲渡するだろうか。仲が良い同性の友人と分け合う方が自然だ。
     まあ十中八九、余ったというのは方便で、その女子は鯉登に惚れている。それを指摘するのは簡単ではあったが、そんな情報を得て照れはにかんで頬を染めるような可愛げをこの鯉登が持ち合わせているとは思えなかった。
     初心な様子で異性からの好意を喜ぶ鯉登を想像すると何となくイラッとして、月島は箸を止めたままだったカツ丼をぐいぐいと口に押し込む。主に学生のための食堂は若者受けする濃いめの味付けながら、とろりとした卵に包まれた柔らかくなったカツが、ふっくらと炊き上げられたつややかな米と絶妙なタッグを組んで月島を満足させる。夏季休暇が明けて、学生が一気にキャンパス内に溢れ出したこの時期は大変に忙しく、エネルギーが必要なのだ。多少は若者の暇つぶしに付き合ってやってもいいが、話半分で聞くのが吉だろう。
    「大体あなた、何だって私に持ってきたんです」
     気づいているかはさておき、自分に好意があるものから受け取った決して安価ではなさそうな菓子を他者に横流ししようとは、まずまずの無神経さである。月島自身もそう繊細な感覚を持ち合わせているとは胸を張れないところであるが、今後のためには早々に改めた方がいいのではないか。遠い昔には上司と戴いていたその人を少し呆れた気持ちで見つめる。

    「月島が……」
     引き結んでいた口元が、ぐぐっと尖る。涼しげにこちらを見つめていた瞳は、うろうろと宙を彷徨って、そっと脇に逸らされた。健康的に灼けた肌のうちに流れる血色が一瞬濃く色づいたように月島には見えた。
    「月島が、珍しいと喜んでくれるかと、思って……」
    「は、え」
     間抜けな呼吸が月島の肺から抜けていった。腑抜けた声にぴったりの表情が顔面に落ちて、じわりじわりと両手の関節を熱が満たしていくのを感じる。手のひらは湿っている。これは汗だ。
    「俺が喜ぶと?」
     いい歳をした、髭の男性がマカロンを喜ぶと。
     幼い発想に驚かされる。野に咲く花を束ねて差し出されたような気持ちになった。暖かい安心が染み出しながらも脳内が混乱する。これは、どう受け取ればいい。
     口を尖らせたまま頷く鯉登に、今度は月島が視線をうろつかせる番だった。
    「と……りあえず、そういうことならありがたく」
     最後に残っていた白米を大きな音を立てて飲み込みながら、何とか声を絞り出す。
     ぱあっと輝く笑顔があまりに眩しい。
     両手の熱がゆっくりと上ってきて、首元から湯気が出そうになりながら、月島は「良ければ一緒にどうです」と絞り出した。

     訂正。もしかしたらこの男は、暇つぶしや酔狂で自分に懐いているのではないかもしれない。そして、他者の差し出した菓子をダシに交流を深める機会を見送ることができなかった月島も、随分と無神経で図太いのだと自覚した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏👍😍👏💞❤❤❤❤❤⛎♓⛎♓⛎💞☺💞💯💞❤❤☺👍👍👍💕💕☺💖💖💖💖❤👏🇱⭕🇻🇪💜💚☺💞💯💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    kasa

    DONE鯉月とごはん企画、とてもかわいいので失礼します。鯉:大学生、月:大学事務 の現パロです。
    ※ネップリ期間終了しました!印刷してくださった方、ありがとうございました〜!
    鯉月とごはん「なんですかこれは」
     月島の眼前には桃色、黄緑、黄色、紫などの丸い繊細なパステルカラー達が白い化粧箱に並んで収められている。
    「マカロンだ」
    「まか……ろん……?」
    「本気か月島ァ……」
    「冗談に決まってるでしょう。そういうことを聞いているわけじゃありません」
     訂正。月島の眼前には、かわいらしい、およそ月島に差し出されるには似つかわしくないマカロンのボックスを手にした鯉登がいる。

     月島は食堂にいた。ネクタイを胸ポケットに押し込み、袖をまくり、カツ丼を前に手を合わせていたとこに鯉登が突撃してきたのだった。
     月島が事務員として勤めている大学に鯉登が新入生として入学してきたのはつい4月のことで、手続きのために窓口で受付を担当した月島に対面した鯉登は、傷も髭もシワもない、随分と若々しい笑顔で喜びの雄叫びを上げた。何かと話しかけてくる年若い不思議な昔なじみに「仕事の邪魔をしないでください」とピシャリ突きつけてからはこうして昼休憩や終業のタイミングを見計らって懐かれている。
    1829