(お題)私の命はおいしいですか?夜が深い。街灯も家の灯りも何もない。
ざらざらとした木々のひしめき、石に跳ね返る水の音。今夜は雲が厚く星の光も届かない。
自然に包まれて仕舞えば何も見えない。昆虫も爬虫類も動物もそこかしこで闊歩する。小さな傷が化膿する。バランスの崩れた食事で不調に陥る。
人間はーーー脆い。
現代人がぬくぬくと作り上げた便利な物は何もない。体を鍛えている人間が全てサバイバルに向いている訳もない。それでも誰も何も言わないのは、単に「言えない」だけだろうか。
好きに活動して良い、そう伝えた人達を見回り。うとうとと疲労感が体を包むけれど……もうずっと、深い眠りは訪れていない。
寝床は洞穴。ゴツゴツした岩肌に毛皮や木の皮、干し草で凌ぐにも限度がある。
束の間の微睡には、いつも白い光が現れる。
それはゆっくりと人の形になっていく。
白く、細い。逆立つ髪の毛先は緑。最後に見た、細い細い頸。夢の中でぎゅうと拳を握りしめる。壊すのに、大した力は必要なかった。間違いなく骨の砕けた感触があった。駆け寄る友人。
こんな原始の世界で犯したーーーひとごろし。
その白い人は、どの方位にいてもこちらに背を向けたままフワリ フワリと跳ねるように周回する。
ーーーなぁ。
周りから、定まらない声が幾つも木霊する。恨みがましく低くもなく、気が触れたように高くもなく。
ーーー俺の命は 美味かったか?
(終)