雨降って地固まる「……レイン」
「まぁそーいう訳だから、あとは任せた!」
レナトスは扉を開いて対面したオーターのこめかみがピクリと引き攣れるのを見ながら、肩に担いでいたレインをオーターの腕の中へドサリと悪意なく押し付ける。
「フーー、わかりました」
難なく横抱きに受け取ったオーターが怒りを解くように溜息を吐いた。
「あんま小言言ってやんなよ〜」
小指で耳を掻きながら他人事のように投げられた言葉に、せっかく収めかけたオーターの怒りが戻ってくる。
「潰した側がなにを言う」
「おーコワw」
不穏な空気に両手を上げて戯けながら、矛先が向くのをシレッと躱したレナトスがパタンと扉を閉めた。
「……フーーー」
オーターはもう一度溜息で気分を切り替え、レインを抱え直して寝室へ向かった。
「レイン。」
蝋燭を一つ灯した薄闇の中、呼び掛けても無反応。ペチペチと手の甲で頬を軽くはたいてみても小さく呻くだけ。
オーターは仕方なく(着替えだけでも)とレインのずり落ちているローブを引き抜こうとした。
「っやめろ!」
「⁉︎」
途端、無反応だったレインがぎゅうと身を縮めて引っ張られるローブを懸命に手繰り寄せる。
「おれ に さわんじゃねぇッ」
ピクリとオーターの手が止まる。ローブを掴むその手を、レインは力の入らない手で懸命に押し除けようとしていた。
「ヤめっ は なせ!」
オーターがなおも腕に絡んでいるローブを引けば〈脱がされている事に気付いた〉レインの声が震える。
「……」
オーターに、他意はなかった。
純粋な善意からの行動だった筈なのに、イケナイ事をしているようで少し意地悪な思考になっていく。
ローブをぎゅうと抱き込んでいても隙だらけの胸元へ、わざと手を差し入れた。
「ヤ!ッだ! お れ」
ビクッと体を竦ませて、差し込まれた手をすぐに振りほどこうと爪を立て。
「ぉーたーさンだけなんだよ!」
「!」
バッと腕を振ったレインがオーターの下から逃れ、起き上がる勢いが余ってまたベッドへ倒れ込んだ。
「ぐ、ぅ、うぅ」
酒のめぐる体で暴れたせいで頭もグラリと回ったのだろう、それでも低く唸りながらジリジリとベッドから這い出ようとする。
名前を呼ばれ、グダグダになった脳裏に誰を思い浮かべ必死で避けようとしているのかを知ったオーターが、悪戯を仕掛けた手で口元を覆う。
「……悪かった」
「!」
本人は重い体を叱咤して逃げているつもりなのだろうが、ほとんど移動できていないレインの頭にそっと触れ、そろりと撫でる。
いつものように五指の間に髪を潜らせ、柔く宥めるように。愛おしいと思いを込めれば、レインの伏せた肩から力が抜けていくのが分かった。
「レイン、おやすみ」
耳元へ静かに声を落とせば、目に見えてくた、と体が沈んだ。
(翌朝のオチはまだ)2025/10/02