真夏を満たす 智生と晴臣は、ほとんど同時に熱い息と白濁を吐き出した。肩を上下させながら顔を下げた智生は、晴臣のくちびるに自身のものを静かに重ね合わせる。ちゅ、と音を立てて、触れるだけの口付けを甘く味わうのだ。
熱に浮かされ、じんわりと汗ばむ互いの身体が、ぴたりとくっついたまま離れないでいる。
特有の人工的なかたい冷風が互いに得意ではないからと、真夏日の今日ですら冷房のスイッチは切ったままだった。おかげで窓を全開にしているにも関わらず部屋の中はサウナのような暑さである。
「……重い、退け」
「えー……」
つい数分前まで欲に塗れた行為に没頭していたはずの『相棒』は、冷たくそう一蹴した。――つれねえの。もうすこしくらいこうしてたってバチは当たらないだろうに。
やれやれ、と首を振りながら晴臣の上から身体を起こすと、不貞腐れたようにふたたびシーツの上にごろんと横になる。起きてからすぐ、こんな時間まで夢中で行為に及んでいたせいで、昨晩変えたばかりのシーツはすっかりしわくちゃになっていた。他人事のように「不健全だなあ」と思う。もしくは、ある意味では「健全なのかも」とも。
智生を残し、晴臣は静かにベッドから立ち上がった。一人暮らし用の狭いフラットだから、ベッドの置かれた部屋のすぐ隣にキッチンがあって、彼はそこへ飲み物を取りに行ったらしい。ちいさな冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出すと、ふたたびベッドの方まで戻ってくる。
ペットボトルの蓋を開け、飲み口にくちびるを合わせて、冷たい水を喉へ流し込む。そんな彼の様子を智生はぼんやりと眺めていた。
智生の視線に気付いたらしい。手に持っていた飲みかけのペットボトルをずいと差し出して「……飲むか」と、彼はぶっきらぼうに吐き捨てる。
「……ん、ありがとう」
そういう意味で見ていたわけではなかったけれど、素直にそれを受け取った。ふ、と相貌を崩した彼は、智生に背を向けてベッドの縁に腰を下ろす。
なんだかんだ、彼は、『俺』に甘かったりする。
開け放っている窓からは、夏の生温い匂いを含んだ風がそよそよと入り込んでくる。肩下まで伸びた彼の髪が、風に攫われ、静かに靡いているのが見えた。
健康的に細く引き締まった身体は、何度見ても綺麗だな、と思うのだ。男の自分でも惚れ惚れするほどに。
よいしょ、と体勢を変えて、横になったまま頬杖をつく。尚も窓の外へ視線を向けたままの彼に、後ろから「なあ」と声をかけた。
「……なんだ」
「腹減った。なんか作ってくれよ」
「……無理」
「えー。いいじゃん。体力だって有り余ってるくせに」
「……」
「……そんなに気持ち良かったの?」
「……」
軽く首を回し、視線を落として智生を一瞥した彼は、心底嫌そうに表情を歪ませてから、ちっ、とあからさまな舌打ちを零した。そしてふたたび前を向いてしまう。おーおー、怖い怖い。「くわばら、くわばら」と智生は半分笑いながら口にする。
「……」
「……ふふ、わかったから、怒るなよ」
「怒ってねえ。呆れてるだけだ」
「そう? まあ、どっちでも良いけど」
でも、腹減ったのは本当だし、ピザでも頼む?
朝起きてからずっとセックスに勤しんでいたので、何も口にしていなかったことを智生は今更のように思い出していた。自覚すると、さらに空腹感が増すから厄介なものだ。――そして、それは晴臣も同じであるらしい。
振り返った彼は「お前が電話しろよ」と言い放った。つまり、ピザを頼む案自体に異論はない、ということだ。
「はーい」
よっこらせ、と掛け声をかけながら身体を起こして、晴臣に倣って彼の隣に腰掛ける。
晴臣、と。音を確かめるように彼の名前をくちびるに乗せた。こちらへ顔を向けた彼の顎を捕まえて、ちゅ、とやわらかいくちびる同士をくっつける。
「食い終わったら、またしよーぜ」
「……猿かよ」
「はは、そうかも」
鼻先を擦り合わせて、甘えるようにそう言った。
けれど、否定しない彼もまた、そういう休日の過ごし方を悪くないと思っていることに、ちゃんと智生は気付いている。