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    ちせとはる(左右不定)/ 匋依 / 箱▷https://odaibako.net/u/hrlayvV

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    ちせはる/ライブ終わり。

    ##ちせとはる

     閉じた瞼の内側に眩いほどの光と音が鮮明に映し出される。何千ものヘッズたち――その一人ひとりと、あの瞬間たしかに繋がっていたのだ。他でもない武雷管の音楽を通して。

     ライブの余韻を引き摺ったまま楽屋まで戻ってきた晴臣は、全身を纏う武装を解くように衣装をひとつずつ外していく。熱狂と興奮に『浮かされた』身体を正しく現実に引き戻す行為だ。
     ファントメタルを含む装飾品と、トップスとインナーもすべて脱ぎ終えた。そうして剥き出しになった皮膚を、常時よりも低く設定された冷房の風がそろりとなぞる。ライブ終わりの火照った身体に気を遣われているらしい。物理的にも身体の熱が冷めていく感覚がある。
     首を動かし辺りを見渡した晴臣は、ふと今更なことに思い至った。……着替えを入れた鞄は何処へやったか。脱ぎ始める前に手元に置いておくべきだったとちいさな後悔を抱えながら、視線を右へ左へと動かしていく。――と、同時に。
    「……っ!」
     脇腹に冷たい何かを押し当てられ、不意をつかれた晴臣は音にならない悲鳴を上げた。そのまま勢い良く振り返り『犯人』の姿を視認する。……それが誰であるかなど確かめるまでもないのだけれど。
    「はは、良い反応」
    「……」
     スポーツドリンクのペットボトルを晴臣の身体にくっつけながら、智生はケラケラと楽しそうに笑っていた。笑い声に合わせて彼の美しい金糸がふわりと揺れる。そのさまを横目に眺めながら晴臣はちいさく息を吐いた。――幼い子どもじゃあるまいし。
    「……なに」
    「難しい顔してるから、和ませてあげようと思って」
     悪びれもなくそう告げる相棒にふたたびため息が零れたのは言うまでもない。そういう晴臣の反応など気にするふうもなくニコリと満面の笑みを浮かべた彼は、はい、とペットボトルを差し出した。
    「おかげでほら、良い顔になった」
    「……そりゃどうも」
    「あれ? 怒った?」
     智生は、掬い上げるように晴臣の顔を覗き込む。『怒ったか』と問うくせにニコニコと機嫌良く晴臣を見つめる姿勢を崩そうとしなかった。質問には返事をせず、彼の手からペットボトルを受け取った晴臣は蓋を開けて冷えたスポーツドリンクを身体の中に流し込んだ。熱の篭る身体には冷たすぎるくらいがちょうど良い。
    「……早く着替えろよ。置いてくぞ」
    「はーい」
     ひらひらと右手を振りながら智生は素直に晴臣から離れていく。けれどすぐに立ち止まり、あ、と短い声を上げた。それからくるりとその場で振り返ると、晴臣ぃ、と間延びした声で相棒の名前を呼ぶ。
    「……ん」
    「コンビニ寄って帰ろうぜ。酒とつまみが欲しい」
     明るく言葉を落とす智生に晴臣は口を閉じたまま頷いた。その反応に相棒はすっかり満足したようだった。機嫌良く口元をゆるめると、数分前の晴臣のように装飾品を外し始める。
     幻影ライブ後、智生は必ず晴臣の部屋を訪れる。普段なら『飯を作れ』と強請るわがままな相棒もこの時ばかりは鳴りを潜めるのだ。
    「……」
     晴臣の視線に気付いたらしい智生が「なに?」と顔だけこちらへ向けた。――『難しい顔』をしていた相棒にちょっかいをかけること、冷やしておいた飲み物を渡すこと、ライブ後の時間を共に過ごすこと。それらの意味に気付かぬほど鈍いつもりはない。けれど、わざわざ言及するのも野暮だとわかっている。
     尚も訝しむような表情を浮かべる智生に、晴臣は静かに首を振り、ふっとくちびるをゆるませた。一品くらい、彼の好きなつまみを作ってやるのも悪くないだろう、と。
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