根城の一室でベッドに転がり、退屈そうにぬいぐるみと戯れるアロルドを、澄んだ碧の瞳がじっと見つめている。
スヴェンは普段から口数が少なく、表情もあまり変わらない。だがこうしてアロルドを見つめる時は決まって、何かアロルドに言いたいことがある時だった。
「スヴェン」
名前を呼ぶとスヴェンは音もなく近寄ってくる。
スヴェンにアロルドの意図を伝えるには、それだけで十分だった。
「アロルドさん、私はつまらないでしょうか」
「唐突だな……どうしてそう思う?誰かに何か吹き込まれたのか」
「二日前、愚かにもアロルドさんに挑んできた魔術師の一人が、お前はアロルドに従うだけのつまらない人形だと」
そんなこともあったか、とアロルドは既に朧気になりつつある記憶を辿る。
時折、アロルドの居場所を嗅ぎつけた命知らずな魔術師が、アロルドに挑もうと現れることがある。先日は複数人相手だったので、スヴェンが半数ほどを相手にしていた。
その魔術師たちは、束になってかかってもスヴェンに傷一つ負わせることができなかった。スヴェンに投げかけた言葉は、最後の悪あがきといったところだろうか。
「俺がつまらないと言ったらどうする気だ?」
「アロルドさんを喜ばせる芸の一つでも身に着けようかと」
真面目な表情で答えるスヴェンに、アロルドは思わず笑いだしてしまった。
アロルドがそうしろと言えばスヴェンは躊躇なくそうするだろう。
スヴェンはアロルドに常に従い逆らわない。アロルドがそうなるようにした。魔術師の言葉の半分は合っていると言える。
だが物言わぬ人形がこんな風にアロルドを楽しませようとしてくれるものか。これがただのつまらない人形だというなら、アロルドにとってその他の存在は全て、愛でる価値もないガラクタ以下の存在だ。
一頻り笑い続けたアロルドは、少し乱暴にスヴェンの腕を引く。アロルドの腕の中におとなしく収まったスヴェンは、引き寄せられるようにアロルドに口づけた。
アロルドのほんの僅かな仕草で、スヴェンはアロルドが求めていることがわかる。スヴェンは途方もなく長い時間、アロルドだけを見て、アロルドの為だけに生きてきたのだから。
「俺を喜ばせる芸なら身に着いてるだろ」
「……そうですか」
スヴェンの細い腰を撫でながらアロルドがそう言えば、スヴェンは納得したように頷く。
「スヴェン、お前は俺の言葉だけ聞いていればいい。有象無象の戯言に耳を貸すな」
「わかりました」
「お前はそのまま、俺の側にいればいい」
「……はい」
そう答えるスヴェンの表情には、少しだけ安堵の色が浮かんでいた。
「くだらない話は終わりだ、スヴェン」
「はい、アロルドさん」
スヴェンが頷いたのを確認したアロルドは、スヴェンをさらに引き寄せ、貪るように口づけた。