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    hagi_pf

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    クリスさんのトライアスロンをテレビで見守る北村くんとなぜそこにいるのかわからない雨彦さんの話。
    ※雨クリは多分付き合っている

    #雨クリ
    raincoatClipper

     スマートフォンのアラームが響いて、想楽は重い瞼を開いた。
     まだ眠気はあるが、今日は仕事だ。のんびり二度寝をしているわけにもいかないと、手探りでアラームを止めた想楽はのろのろと起き上がる。
     部屋の中は、朝にしてはほんの少し薄暗い。カーテンを開けて窓の外に目を向ければ、生憎の曇り空。昨日見た天気予報の通り、今にも雨が降り出しそうな様子だ。
    「クリスさん、大丈夫かなー」
     僅かに心配の色を含んだ声が、静かな部屋に響く。スマートフォンで今日の天気予報が変わっていないことを確認した想楽は、一人海を泳いでいるであろう大切な仲間に思いを馳せた。
     昨日から事務所総出で行っている生放送番組では、コーナーの一つとしてトライアスロンが実施されている。トップバッターとして昨日から水泳を行っているのは、自ら挑戦を希望したクリスだった。
     時間的には、そろそろ次の種目を担当する朱雀にバトンタッチする頃合いだろう。
     リビングに足を運んだ想楽は、テレビの電源をオンにする。チャンネルを切り替えると、ちょうどトライアスロンのコーナーを中継しているようだった。
     右下にはゴールまでの距離が映し出されていて、クリスが少しずつ、だが着実にゴールへ向かっていることを示している。映し出されるクリスの表情には、流石に疲れが滲んでいるが、それでもその瞳は強い光を宿して前を向いていた。
     それに誇らしさのようなものを感じながら、想楽は自然と拳を握りしめる。
     天候はまだ、クリスに味方している。ならばこのまま無事にゴールすることを祈るだけだ。
    「クリスさん!あと少しだぜ!」
     大きな声が響いて、カメラが切り替わる。浜辺に用意されたゴール地点では、次の種目を行う朱雀とサポート役のみのり、そして番組の進行役を務めている秀が、クリスに声を掛けていた。
     ゴール寸前の緊迫感と、仲間たちの応援の声。画面の向こうに届くはずもないのに、想楽まで思わずクリスの名前を呼びそうになる。
     雨彦も自宅でクリスの勇姿を見ているだろうか。雨彦の番組への出演は昨日がメインだったから、きっと今日は時間にも余裕があるはずだ。
     そんなことを考えていた、その時。
    「古論!」
     テレビから聞き慣れた声がしたような気がして、想楽は小首を傾げた。少なくとも、画面に映っている朱雀たちの声ではないことは確かだ。
     想楽が考えを巡らせるまでもなく、カメラが少し横に移動すると、声の主が姿を現す。
    「……雨彦さん?」
    「えー、クリスさんのゴールを見届けるべく、雨彦さんが駆けつけています」
     何故雨彦がそこに。想楽の疑問が通じたかのようなタイミングで、フレームインした秀が説明をしてくれる。雨彦はカメラに向かってアピールはしたものの、すぐに海の方へと意識を向けてしまった。
     何事もなかったかのように、再び泳いでいるクリスの方に画面が切り替わって、あ然としていた想楽も正気を取り戻す。
     ゴール地点の浜辺は、生放送を行っているスタジオからも雨彦の自宅からもそれなりに距離があるはずだ。おそらく早朝からバイクを飛ばしたのだろう。
     想楽にも声を掛けてほしかった気持ちはほんの少しだけあるが、想楽が向かってしまうときっと、今日出演するコーナーに間に合わなくなっていたはずだ。現地での応援は雨彦に任せることにして、想楽はテレビに意識を戻す。
     それから程なくして、クリスは無事に陸にたどり着いた。両足でしっかりと砂浜に立ったクリスは、安堵したような顔で小さく息をつく。
     クリスが水を払うように軽く首を振ると、滴る海水に朝日が反射して煌めいた。たったそれだけのアクションも、ひどく絵になってしまうのだから恐ろしい。
     けれどまだゴールしたわけではない。陸に上がった人魚姫は、最後は自分の足で数十メートル先のゴール地点に走る。
    「紅井さん、後はよろしくお願いします!」
    「おう!任せてくれ!」
     待ち構えていた朱雀の手をクリスの手が叩くと、パン、と小気味の良い音が鳴った。それを見届けた想楽は、ほっと胸をなでおろす。
     ロードバイクに飛び乗って、勢いよくスタートを切った朱雀をカメラが追う。しばらくして、朱雀の姿が見えなくなると、朱雀が走る方向を見つめていたクリスにカメラが戻った。
    「クリスさん、お疲れ様です」
    「天峰さん……ありがとうございます」
     秀が声を掛けると、クリスは仲間の姿に顔を綻ばせる。けれどそれで気が緩んでしまったのか、クリスは一歩踏み出したところでふらりとよろけた。
     画面越しではクリスを支えることもできない。想楽がひやりとしたところで、いつの間にか側に来ていたらしい雨彦の腕が、クリスの身体を支えた。
    「雨彦……来てくださっていたのですね。ありがとうございます」
    「お疲れさん。よく頑張ったな」
     雨彦を見上げたクリスは、嬉しそうに表情を輝かせる。そんなクリスを支える雨彦も、クリスを労るような、優しい表情をしていた。
     カメラの向こう、お茶の間で放送を見ている想楽にもはっきりとわかるくらいに。
    「二人とも、ばっちりカメラに映っちゃってるよー……」
     恐る恐るSNSで放送のハッシュタグを検索してみると、ファンと思しきアカウントの投稿が猛スピードで増えている。
     その間にもテレビでは、二人が和やかな様子でゴール付近に用意された休憩所へと歩いていく様子が放送されていた。少し目を離した隙に、クリスはもう上着とタオルを身に纏っていて、雨彦の準備の良さに想楽は思わず苦笑する。
     二人の横を歩く秀もやれやれという表情をしているように見えるのは、気のせいではないだろう。
    「それでは、無事ゴールしたクリスさんに話を聞きたいと思います」
     こほん、と一つ咳払いをして、秀は休憩所に腰を下ろしたクリスにマイクを向けた。カメラを認識した二人は、はっとしたようにいつもの表情に戻る。戻ったところで、先程までの様子はしっかり放送されてしまっているのだが。
     とはいえ、軌道修正してくれた秀には感謝するべきだろう。進行役を頑張っている彼には、後ほど何か差し入れでもしてやりたい。そんなことを考えながら、想楽は朝食を用意するべくキッチンへと向かった。
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