魏無羨の記憶が退行する話。魏無羨がおかしくなった。江澄のもとにそんな一報が入ったのは、一週間近く掛かりきりだった領内の揉め事を収め、残務処理を終えたばかりの夜のことだった。
火急の件以外は取り次ぐなと命じた筈の家人が慌てふためいて寝入り端の江澄の私室を叩いたので、まさか金凌に何かあったのかと顔色を変えたところへ聞かされたその言葉に、江澄は無言で紫電を構えた。
「火急の件以外は取り次ぐなと言っただろうが貴様は馬鹿か!」
「しかし宗主、大師兄が」
「あいつがおかしいのは今に始まった事ではないだろう!」
「宗主!」
「あれはもう雲夢の人間では無い!」
怒鳴り声に首を竦めて平伏する家人に紫電をしならせたまま奥歯をぎりぎりと言わせていると、不意に戸外から声が掛かった。
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