何かあったわけではない。
漠然と何かが胸につっかえ、すべてを投げ出したくなった。今夜のような雨の日はいつもそうだ。どんなに愉しく生きていても、しとしとと降る雨を見ると「誰か助けてくれ。いっそのこと俺を殺してでも引き止めてくれ」と縋りたくなる。独り傘を持って歩いている高身長の人を見かけると、その顔を覗きこみたくなる。そして勝手なことに、顔を見て落胆するのだ。ーこいつじゃない。
ベッドの上で数え切れないほど転がり、ようやく眠りにつけたと思えば必ずといっていいほど同じ夢を見る。霞む視界の先、真夜中だというのにその人は光を放つかのように白く、凛とした佇まいでこちらを見つめている。傘が影になっているせいか、顔はよく見えないが、闇雲に走り抜ける闇の中、その姿を見つけると息苦しさから救われたような気がして、魏無羨はいつもほっと息をついた。
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