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    山本ジュリアーノって可哀想なやつなんだぜ

    ##蒼色の地獄へようこそ

    山本と風祭 ――昔から要領が悪く、愚直に努力する以上、やりようが無かった。
     華族としての存在がなくなった現代日本でも、未だ上流階級社会や名家というものは存在する。
     彼――山本ジュリアーノの属する山本家も、現代の日本の名家の一つである。一夫一妻制度の日本において、名家当主の妻に求められるのは、当主としての器と体を持った子どもだったが、山本ジュリアーノの母親は身体があまり強くはなかった。
     祖父母からは弟妹を、と求められていたらしいが、ジュリアーノの母の身体は二度目の出産に耐えられる程の力は無く、祖父母はそれはそれは形を落としたらしい。
     それでも男児が生まれているのだからと気を持ち直したようだったが、彼らは成長していくジュリアーノを見て、思わず顔を見合わせた。
     簡単に言ってしまえば、ジュリアーノの出来が悪かったのだった。

    「ねぇ、聞いた? 風祭の家の坊ちゃん、とても優秀な方なんでしょう? なんでも、お母様が開いたお茶会で見事なご挨拶をなされて、誤って茶器を落とした使用人を助けて差し上げたんですって!」

    「まだ小さいのに、偉いわよねえ。ああいう方が人の上に立つんでしょうね」

     同じ名家である風祭にも、ジュリアーノと同い年の子どもが居ることは、父母から聞いて知っていた。友達になれたら、などと甘い夢さえ見ていた。
     だが、成長するにつれて、周りのジュリアーノと風祭の息子を比べる声が気になるようになった。優秀な風祭の息子と、不出来で要領の悪いジュリアーノ。その事を、祖父母が気にしていないはずがなかった。
     小学校に入学してから、祖父母はより一層風祭の息子と比べると、それをよりにもよってジュリアーノの母に言っていた。

    「風祭のご子息はとても優秀で気遣いの出来る子なんですってねぇ。ねぇ、ジュリアーノはどうなの?」

     母は謝るだけで、それ以上何を言う訳でもなかった。
     そしてジュリアーノが小学校に入学してから1ヶ月が経った頃、ジュリアーノの母が亡くなった。
     心労によるものだった。
     そしてその半年後、後を追うように当主であった父が事故で亡くなった。即死だった。
     両親が亡くなったことで祖父が当主に返り咲き、ジュリアーノはより一層厳しい教育を受けることになった。
     それでも尚、風祭優志郎と比べられることはなくならなかった。

     小学3年の春、ジュリアーノは遂に、憎しみを風祭優志郎に向けることになる。
     小学3年のクラス替えで優志郎と同じクラスになり、そこで授業参観が行われた。
     山本家から人が来ることは無い。ジュリアーノとしてもそれは慣れた光景で、特に気にしてなどいなかった。
     だが、ふと風祭を見れば、彼とよく似たじょせいと話しているのを見かけてしまった。耳を澄まさなくとも、その女性を「母さん」と呼んでいるのがわかった。
     風祭家現当主、風祭優貴。
     病弱だと聞いていたし、なにより当主の仕事で忙しいはず。なのに、忙しいあいまを縫ってわざわざ子どもの授業参観に来るなんて。
     自分はそんな家族は知らない。
     自分が知っているのは、高圧的で、家族の為に時間を取るなんてことを頭の片隅にも置いていないような、そんな家族だけだった。
     その時、ジュリアーノの中に生まれた感情は、確かに憎悪だった。
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