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    先程ベッターにもあげた五歌のお話。
    試しにポイピク使ってみたかったので

    #五歌
    fiveSongs

    ムーンライト(仮)高専時代に歌姫に恋に落ちる五条。
    だが、その想いは夏油の離反をきっかけに、五条はその恋を心の中に閉じ込める。

    百鬼夜行の後、事後処理に追われ、更に宿儺の指のこと虎杖のこと等が重なり(呪胎戴天の前)、ようやく少し落ち着いた7月初旬。
    任務の関係で東京に来た歌姫。
    硝子と飲みに行くというので、任務を終えた後に、勝手に伊知地と一緒に合流する五条。
    そんな時、硝子に任務の要請があり、飲んでない伊知地が車で硝子を送ることに。
    歌姫も興醒めして帰ることにしたが、五条がひょこひょこと歌姫の後ろをついてくる。
    「何よ?」
    「別に」
    「ついて来ないでよ」
    「僕もこっちに用があるだけだよ。歌姫自意識過剰じゃない?」
    「じゃ、先に行きなさいよ。私、一人でもう一軒、よるから」
    そう言って、すぐ側にあるカクテルバーを指差す歌姫。
    「僕もここよろう」
    「いやいや、あんた下戸でしょ?」
    「なに?下戸は飲み屋に行っちゃいけないの?ソフトドリンクくらいあるでしょ?」
    「なに?やっぱり私に用でもあるの?」
    「ん〜、用があると言えばあるのかな?」
    「はっきりしないわね」
    「まぁ、とりあえず、ここ入ろうよ」
    「いやいや私一人で入るから」
    「なんで?誰かと約束してんの?」
    「してはいないけど」
    「じゃいいじゃん。奢るからさ」
    「……」
    五条に背中を押されて二人でカクテルバーに入る。
    歌姫はシャンディ・ガフを頼み、五条はコーラを頼む。
    「こんな風に二人になるなんてなかったね」
    「……そう言えばそうね」
    「十年以上一緒にいるのにね」
    「そう考えるとあんたとも付き合い長いわね」
    そうこうしてると、飲み物が届く。
    グラスを差しだす五条。
    「今日まで二人が生き残ったことに」
    「……私とあんたの腐れ縁に」
    そう言ってグラスを合わす二人。
    生徒のことや、任務のこと、いろいろと話す二人。
    話題は私生活にも及んだ。
    「あんたは結婚しないの?もう28だし、跡継ぎのこと考えたら周りがうるさいんじゃない?」
    「まあ、見合い写真はよく見せられるけどねー。なんせ時間がなくて」
    「あんた一人っ子でしょ?」
    「まぁね。でも親戚関係はいろいろいるから必ずしも僕の子供が当主になるわけじゃないし」
    「そういうもんなの?」
    「僕はさ、六眼持ちだから、否応なく当主になったけど、五条家はその世代で一番力が強い人間が当主になるからね」
    「ふーん」
    そう言いながらカクテルを飲み干す歌姫。
    何飲もうかな、と空になったグラスの淵をなぞる歌姫。
    「何か頼む?」
    「うーん、どうしようかな?そろそろギムレットかしら?」
    「……まだ早いんじゃない?」
    「あら、ちょっと粋じゃない」
    「ホワイトレディはどう?」
    「あんた、カクテル、知ってるの?」
    「まあね、一通り、勉強した。女の子口説くのに、役立つんだよね」
    「動機が不純」
    「xyzでも、いいよ」
    「あんたとワンナイトなんてお断りよ」
    「ま、その前に、月の女神と同じ名前を持った亡き妃が好きだったカクテルでも飲んどく?」
    「スプリッツァー、ね」
    「さすが、よくご存知で」
    「うん、スプリッツァーにする」
    歌姫の言葉で五条がスプリッツァーと自分の分のコーラを頼む。
    程なくして届いたカクテルを歌姫が一口飲む。
    「ん、美味し」
    ご機嫌な顔の歌姫に、五条は問いかける。
    「……なんで、キスしたの?」
    歌姫は目を丸くする。

    ★★★

    十年前。
    夏油が離反した後、高専の廊下の隅で五条は座っていた。
    任務や度重なる尋問に疲れ果てて、逃げた先だった。
    ボーッと座っていると、窓の外に満月の光が見えた。
    その満月の光を遮る影には気づいていたが、その正体もわかっていた。
    でも五条はそちらを見ることはなかった。
    ただ月を眺めていた。
    そうこうしていると月光を遮った影の持ち主は五条の隣に座った。
    無言だった。
    何も言わない。
    五条も何も言わなかった。
    ただ沈黙が流れていて、ずっと月を見つめていた。
    どれだけ眺めていたか、どのくらい時間が経ったのか、季節的には秋だった為、ヒヤリと冷たい風が吹いて、隣に座る歌姫がブルッと震えた。
    「……戻れよ」
    五条がそう言うと歌姫が言う。
    「五条と一緒に戻る」
    また沈黙。
    フル、と震える歌姫の肩を抱き寄せた。
    「なんも言わないのな」
    「……ごめん、先輩だけど、なんて言っていいのか、わからなくて」
    「だから、無言で側にいんの?」
    「……だって、一人にはしたくないし」
    「まぁ、慰めの言葉も、お叱りの言葉も今はいらないな」
    「……何かしてほしいこと、ある?」
    歌姫の言葉に五条は目を丸くした。
    その言葉に投げやりに、言う。
    「そうだな、弱い歌姫でもこれぐらいならできるか?」
    「なに?」
    「……キスしてよ」
    「え?」
    「俺も男だからね。女の子にキスされたら元気になると思うよ」
    五条の想像では『最低!』とか『ふざけんな!』と、真っ赤になって怒って来ると思った。
    そしてそれでいいとも思っていた。
    歌姫が五条の胸倉を掴む。
    引っぱたくか、と五条は覚悟して目を閉じた。
    甘んじて受ける気でいた痛みはいつまでも頬に走らなかった。

    ふに

    それどころか唇に柔らかな感触が触れて、五条は目を見開く。
    目の前に歌姫の顔がアップであって、そして、唇同士が触れ合っていた。
    ほんの数秒だったと思う。
    でも五条の中では随分と長い時間に感じた。
    唇を放すと、歌姫ははにかんだように微笑む。
    「もどろ」
    その手に引かれて五条は立ち上がる。
    しばらくの間手を繋いで長い廊下を歩いていた。

    ★★★

    「あれは、あんたがしてほしいって言ったからよ」
    歌姫が口を尖らせて、目をそらす。
    「僕がしてほしいって言ったら、何でもしてくれんの?」
    「……あの時はあんたが落ち込んでたし、どうやったら励ませるかわからなかったし」
    「その理論なら、今も僕がお願いしたらキスしてくれんの?」
    「あんた落ち込んでんの?」
    「そりゃ、それなりに」
    「そんな風に見えないじゃない」
    「落ち込んでる姿なんて見せられないでしょ?」
    「……まぁ、一理ある」
    「スプリッツァーのカクテル言葉、知ってるよね?」
    無言で頷く歌姫。
    「歌姫はさ、僕じゃなくても、例えば七海が同じようにお願いしても、キスするの?」
    「七海はそんなこと言わないし」
    「もし、言われたらだよ」
    「……しない、と思う……」
    「……じゃ、なんで僕……、いや、俺にしたの?」
    「だから」
    「俺は、歌姫が拒否ると思ってたよ」
    「……」
    「拒否ってくれて、それで、日常で良かったんだよ」
    「……」
    「なんで、キスしたの?」
    「……」
    「傑のこともあったから、自分の感情は全部蓋をした。力を得る方が先だったから」
    「……」
    「それなのに、歌姫がキス、するから」
    「……」
    「……期待してる」
    「五条……」
    「……慰めてって言ったら、慰めてくれる?」
    「……どう、したら」
    歌姫の言葉を遮り、五条が店員を呼び、xyzを頼む五条。
    歌姫は目を丸くする。
    二人の間に流れるのは沈黙。
    店員が五条の前にxyzを置く。
    それを歌姫の前に滑らせる。
    「……意味はわかると思うけど」
    「五条」
    「慰めてよ、先輩」

    歌姫はこれを飲むのかどうか?
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