無題20XX年、7月14日。夏が始まるという頃だった。あまりにも急なことで冷静な判断をすることが出来なかった。
外国からの空襲を受けた。
試作品27号。通称「死の雨」。これを浴びた人はまともには生きていけない。致死量は0.05mgととてつもなく少ない量で死んでしまう。そんな中、僕は廃病院に向かった。解毒剤を探すためだ。僕は死の雨が溶けた水を飲んでしまったのだ。すぐ吐き出したから良かったが、最近目がよく見えなくなってきた。多分、死の雨のせいだろう。
廃病院へ来たものの、薬すらなくて困っている。すると、奥の方から女の子の泣く声が聞こえた。すすり泣きだったが目が悪くなったので耳がよく聞こえた。入ってみるとそこは病室だった。カーテンはボロボロでベットや床には血がべっとりとついていた。これも死の雨の症状だ。普通は浴びると腐敗して死んでしまうのだか、飲んだりすると吐き気、頭痛、吐血、めまい、心臓麻痺などが起きる。女の子は僕に気づいたらしい。僕は「名前は?」と聞いてみると、女の子は反応すらしない。耳元に来て言ってみたが無反応だ。きっと死の雨のせいだろうか。耳が聞こえないらしい。女の子は傍にあった紙にペンで名前と自己紹介を書いた。
『私は玲奈。あの雨のせいで耳が聞こえなくなったの。これからはこの紙に書いて会話しよ?』
と書いてあった。僕はその紙の右端に「分かった」と書いた。その後玲奈とは3時間ぐらい筆談していた。
気づいたら夜になっていた。玲奈は僕を別の病室に連れて行ってくれた。そこには玲奈1人で運んで来たのだろうか。2Lの水が20本と食料が沢山あった。僕は紙に
「腐らないの?」
と書いた。玲奈は
「隣の部屋に冷蔵庫がある。電気は発電機で補ってる」
と返してきた。僕は恐る恐るだったが水を飲んだ。こんなに美味しい水はいつぶりだろうか。水が喉を流れるのを感じた。玲奈はハムとパンを挟んだ即席サンドウィッチを作ってくれた。久しぶりのまともな食事と笑顔を見た。僕は嬉しくて涙が溢れた。
それからは玲奈とはずっと一緒にいた。きっといつか助けが来るだろうと、2人は思っていた。けど、もう2週間がたった。いくらなんでも助けが遅すぎる気がする。僕は紙に
「様子を見てくる」
と書いた。すると玲奈は
「行かないで!」
と書いてきた。僕はどうして?という顔をした。玲奈は紙に続けて書いた。
「ここは山奥で見つかりにくいから仕方ない。あと、食料がなくなってきたから持ってくね。向日葵も探して来るよ。君の笑顔がもう一度見たいな」
と書いてあった。見上げた時には玲奈はいなかった。
玲奈が消えてから何日が経っただろうか。僕は水を飲み、ご飯を食べ、本を読み、寝るという生活を何回も何回も繰り返していた。どんどん視力も下がっていったので、本は途中で読まなくなった。もう僕の顔には表情がなかった。そろそろ悲しくなり泣きかけた頃だった。玲奈がふと目の前に現れた。玲奈は僕の手を引っ張り3階に連れてきた。3階に来るのは初めてだった。玲奈は慣れた感じに奥の部屋に連れてきた。玲奈は紙に
「目をつぶって。見ていい時に肩を叩くよ」
と書いた。僕はその通りに目をつぶった。冷たい部屋と夏の風か心地よく、春を感じさせてくれた。
春―。懐かしい。あの頃はまだ平和だった。普通に学校に通い。友達と話し帰っていたあの頃。そんなことを思い出した瞬間、泣きそうになった。こんな大切なものが奪われたなんで考えていた時、肩を叩く音が聞こえた。
目を開けるとそこには、向日葵の絵が書いてある壁が見えた。あれは僕も学校で見たことある絵だ。確か校長室に飾ってあった。あれは彼女の絵。そう、玲奈の絵だった。最初に名前を聞いた時は誰だったか思い出せなかったが、今思い出した。そうか。そうだったのか。いつも学校で何気なく過ごしていた友達の1人。僕はあの向日葵の絵を見続けた。多分、玲奈は笑っているだろう。段々と絵がぼやけてきた。ぼやけた原因は日に日に失う視力のせいか。
それとも、溢れてきた涙のせいだろうか。
僕にはわからなった。