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    習作 じょそ 45分

    双循が小さな声で、好きだと言った。
    「あ?」
     ような気がした。
     

     木枯らしが吹き込むようになり、思わず肩を竦ませる。首元に迷い込んだ風が温められた皮膚を刺激する。
     このDO根性北学園は校舎はさんざ落書きされ酷い有様だが、校舎を囲うようにお行儀よく並んだ並木は綺麗だ。とくにこの秋口の紅葉は、視界を広く彩って尚更様になるこの景色は。そして何より、紅葉と言えば俺の色をしていて世界がそれに包まれるのは悪い気はしない。木枯らしに吹かれ所在を失った紅葉がひらひらと俺の前にやってくる。こんな風ひとつにやられてしまうなんて、生命力の弱い奴だ。
     そんな生命力のない紅を指で弄びながら歩いていると、急に地面から枯葉がいなくなっている箇所がある。気になって視線を横に向けると、そこには竹箒を片手に枯葉の山と対峙している双循がいた。紅葉と似合わねえ色だな。足元から視線で辿り顔を見つめる。奴はパチリと俺と目が合うや否や、いつもの悪い顔で俺を見て、ジョウ!と乾いた空気を貫いて俺の名を響かせる。
     ああ、捕まっちまったな。今日は調子がいいのに勿体ねえ。
     しかし、勿体ないと思いながらも、校舎裏でこの山を作った労力を賭けながら火種を待っていた双循がおかしくて無視することが出来ない。もしくは、あの双循が俺を頼ることに優越感を得ているのかもしれない。
    「なんだよ」
    「見たらわかるじゃろうが、焼き芋じゃ」
     ワシが用意した芋は糖度が高いからのう、手伝うっちゅうんならひとつ譲ってやってもええぞ。
     聞いてもないのに双循はつらつらとご自慢の芋の説明をしてくる。そもそも糖質もカロリーも高いサツマイモなんてのは俺は食わねえ。 申し訳ないが礼を断ると、双循は芋を食わない俺に勝手に憐憫の目を寄越す。いいだろ、お前の分け前が守られんだから。
     双循からのくだらねえ視線を無視して、生徒会の用済みのプリントだろう紙切れを燃やして小さな山の中に落とす。みるみる山は炎の塊となって、俺たちをゆらゆら暖めていく。
    「双循、芋好きなんだな」
    「突然じゃ。旬の食材を味わうのはええことじゃからのう」
    「ああ、食えんならうまいもんは食った方がいい」
     食えるやつは我慢せずに食った方がいい。
     だから、双循やハッチンやヤスが好きなもんを食べたい時に頬張る姿を見るのが俺は好きだ。
    「ジョウはジジイじゃからのう。ま、次調子のええときにワシに遭遇できたらわけてやらんこともない」 
    「ハハ、くれんのかよ。俺のこと好きだなお前」
     俺の冗談は丁度吹いた木枯らしに、枯葉とともに巻かれていく。カラカラと枯葉が踊る乾いた音の間に、何か双循の声が聞こえた気がして。
    「あ?」
     聞き返した頃にはもう何も吹いていなかった。
    「双循、なんか言ったか?今」
    「ああ?耳まで遠くなったんか、クソ不死鳥。また火種になるっちゅうんなら次に芋をやらんこともないっつったんじゃ」
     双循はこれみよがしに大きなため息をついてからその辺の枝を拾っては火の山にぶっ刺して、中の芋をつっつくような仕草をした。
    「……勿体ないことしたのう、ジョウ」
     それが、食べ損ねたこの美味しいらしい芋に対してなのか、俺の時間に対してなのか、それとも。果たして何に対してなのかわからないまま、ゆらゆらと熱に照らされる横顔を見ていた。
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