傷口 肌を刺す北風が強くなりはじめ、黄金に輝く紅葉が役割を終え、ハラハラと散りゆく季節。获花洲を一望する望舒旅館は静まり帰った夜の璃月を明るく照らしていた。
「今日はほんとに災難だったけど、先生が居てくれて助かった」
「大した事はない。気にするな」
遠出の任務は少し大変で、帰るに帰れない距離にあったここで鍾離先生がいたのは不幸中の幸いだった。疲れた体に野宿は少し堪える。たまたま用事で泊まりに来ていた鍾離先生と同じ部屋で一夜を共にするのは少々不安だが、寝具で休息を取れるに越した事はない。
そろそろ体も冷えてきたところで部屋に戻ろうとした瞬間、唇に鋭い痛みが走る。
「っ……」
「どうした?」
「いや、ちょっと唇切っちゃったみたい」
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