《モーニングルーティン》怜×サク「サクくん、起きて! 遅刻しちゃうよ」
「ん……」
部屋の窓は開け放たれ、暖かな日差しとともに朝のひんやりとした風が吹き込んでくる。その心地よい空気に、もう少し眠っていたいと、サクはベッドの中から出られずにいた。
しかし朝食の時間は迫っており、さらに言えば始業時間も迫っていたので、面倒見の良い怜は、同室のサクを放ってはおけず、必死で起こしていた。
「も、ちょっと……怜くん、一緒にねよ……」
「え、うわっ! サクくん!?」
いよいよ布団を剥がそうと、怜が手をかけた瞬間、サクにその腕を掴まれ、布団の中に引き摺りこまれた。
「へへ……怜くんあったかい」
サクは怜の身体を抱き枕のようにぎゅうと抱きしめた。脚まで絡められ、怜は身動きが取れなくなる。
「まって、ほんとに遅刻しちゃう!」
「いいじゃん……お互い今日の一限はまだ余裕ある教科だったでしょ」
「そういう問題じゃないよ……っ!」
すり、と怜の太ももの間にサクの膝が割り入ってくる。引き剥がそうにも、肘ごとサクに抱き抱えられていて片足と胴をわずかに捩るくらいしかできなかった。
「れーくん……」
「サクくん、ねぇ……お願いだから、足、やめて……ついでに腕も離してくれないかな……」
「ちゅーしよ」
「はぁっ!?」
突拍子もないサクの言葉に、怜は悲鳴に近い声を上げる。これは絶対に隣の部屋へ聞こえただろう。隣の部屋の主たちが、朝食で留守にしていることを願う。
「ちゅーしてくれたら起きる」
「もうっ!」
どうにでもなれ、と怜がサクの唇に己の唇を重ね合わせる。ふわ、とサクのシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
それから少しの間、ふわふわと唇の感触を楽しんだあと、サクの方から離れていった。
「ん……ありがと」
「……はい、じゃあ着替えて朝ごはん食べに行こ」
「わかった」
先ほどまで布団の中で駄々をこねていた人物とは思えないほど聞き分けもよく、サクはすんなりベッドから降りた。
サクが部屋着として愛用している、ふわふわのブルーのニットを脱ぐと、怜はもう見慣れた白い肌が露出する。
「なぁに、怜くん」
サクは目覚めが良くないが、起きれば怜がすることはないので、なんとなくサクを視線で追っていると、そのことに気付いてふわりと微笑んだ。
「いや、なんで毎朝……その、キスしないと起きてくれないのかなって」
「えー? それ聞いちゃう?」
今日のように布団に引き摺り込まれるパターンは初めてだったが、毎朝なんらかの方法でキスをせがまれては、結局怜が折れて目覚めのキスをするルーティンが組まれていた。
「だって、おれの気持ちも考えてよ」
「目覚めは王子様のキスがいいじゃん」
「え」
「そのままの意味だよ、僕の王子様♡ じゃ、行こっ」
いつのまにか部屋着から制服に着替えていたサクは、ニッコリと微笑むと、部屋のドアに手をかけていた。
「あっ!? ちょっと! それはずるいじゃん」
「ずるくないもん。さて、今日のご飯は何かなぁ。和食がいいな。焼いた魚は好き」
「もーっ! 帰ったら聞かせてもらうからね!」
先ほどまでのゆっくりとした空気はどこへ、二人はバタバタと部屋を後にした。