黒の救済「望美、そこは反対よ。 大丈夫、針を通しきってないもの、ゆっくり引き抜いて。 ……そう」
朔の説明を受けながら、縫い物をしているのは望美だ。
運針する手はたどたどしく、見ている朔が内心はらはらとしている。
それでも朔は代わろうかとは言わないと決め込んでいるし、望美も諦める気配はない。
手にしている黒布はただの布切れではない。
弁慶の外套だ。
ーーー話は昼間に遡る。
望美たち一行は熊野を目指し山中を歩いていた。
初夏にかかり始める時期。
物見遊山にはよいが、殆ど変わらない景色の中黙々と歩き続けていることにやや辟易とし始めていた。
何処か休めそうなところがあれば一旦休憩にしようと決めれば、やや活力が戻ったようだった。
周囲への注意を霧散させない程度に、弁慶は地面へ視線を向けた。
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