暗闇の中であの子の明るいところが好きだ。悲観的で、内向的で、ジメジメとした自分とは正反対なところ。太陽みたいに眩しい笑顔で、日向のような優しさで包んでくれるところ。
あの子の真っ直ぐなところが好きだ。俺より年下なのにしっかり者で、芯が通っているところ。誰にでも誠実にあろうとする姿は、俺も見習わなければといつも思う。
あの子は俺にとっての向日葵で、俺にとっての太陽で。

だから―

「なぁ、ちゃんと約束守ってくれるん」
「当然、約束だからな。ただ―」
「ただ」

「その、目隠し、させてもらってもいいか」

俺と虎杖は、付き合い始めた時にとある約束をした。それは、"虎杖が成人するまで性的な行為はしない"。要は、えっちなことをしないということ。
かつて法曹三者の一つ、法を司る真実の番人として現実と向き合っていた俺は、一度人間から目を逸らし法を捨てた。だがそんな俺をすくい上げ、再び目を開かせてくれたのが虎杖だ。虎杖のお陰で俺は再び立ち上がり、弱き人々を、そして真実を守るために弁護士として働いている。その俺が、法と向き合うきっかけをくれた虎杖への欲のために、規律を破るわけにはいかないのだ。
虎杖はまだ成人しておらず、児童福祉法においては"児童"にあたる存在だ。成人が児童と同意の上に性行為をすること自体を処罰する規定はない。婚姻制度だって十六歳から結婚の自由を認めており、憲法十三条でも16歳以上の児童も幸福追求権として性的自由権を有している。つまり、未成年にも性行為をする自由は認められており、ただ未成年というだけでは特に問題にはならない。
だが児童には教育監護、全人格的教育を受ける義務がある。性的自由権の濫用は許されない。勿論大人である自分がその性的自由権の濫用を助長するような行為は許されず、刑罰の対象としても禁止されている。同意の上であったとしても、児童福祉法、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律、各都道府県が定める青少年育成条例等に抵触する可能性がある。
精神的にも身体的にも未発達な"児童"という段階での性的行為は将来的にも、基本的人権保証としても、社会秩序にも影響を与えかねない。

故に、俺は虎杖に説明した。心苦しいが、本当の本当は虎杖と"そういうこと"もしたいが、大人として、法を司る者として、そして彼を愛する者として守らなければならない。虎杖の将来のためにも。
「えーっと、つまり、俺が成人するまでえっちなことは出来ないってことね」
「要約すると、そうだな、そういうことになる。お前だってそういうことに興味がある年頃だろうに…」
「いや面と向かって思春期語らんといてくれる」

虎杖は混乱した様子ながらも頷いてくれて、最後には「俺も日車が堂々と出来る方がいいよ」と笑ってくれた。恋人の懐の深さに感謝せねばなるまい。
それから、俺と虎杖の禁欲の日々が始まった。
枯れた生活が続いていたとはいえ俺も男だ。愛しいと思った存在には触れたいし、もっと直に触れ合いたい。可愛い仕草や甘えた表情に下半身のブツが反応したのも一度や二度の話ではない。それをぐっと堪え、いつも遅くなる前にはきっちり寮に返し、接触といえば手を繋ぐか頬にキスをするくらい。今時の高校生も真っ青な程に、健全なお付き合いをした。
きっと虎杖ももっと遅くまで遊びたいだろうし、周りの友達だってキスやセックスくらいとっくに済ませてしる子だっているだろう。残惜しそうにしながらも、それでも笑顔で手を振ってくれる虎杖の健気さが切なくも愛おしい。デート後には必ず「楽しかった」というメッセージと共に、昼間のデート中の写真まで添えてくれる。
我慢させてしまっている自覚はある。それでもやっぱり虎杖が大切だから、彼の将来を守りたいから。デート中に撮った写真や残り香で己の欲深さを吐き出しては安堵と落胆を感じる日々も、そのために。
(あと二日…あと二日で…)
ティッシュに吐き出した白濁を捨て、ぐるりとカレンダーを仰ぎ見る。壁にかけてあるカレンダーには、一際大きく目立つ赤色で囲まれた日付。
三月二十日。

虎杖の、二十歳の誕生日だ。