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    えんどう

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    えんどう

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    ▷ルルハワネタ①

    ##夏の話
    ##5001-9999文字

    遅れてきた夏休み▽ルルハワの話
    ▽王様がちょっと凹んでいる
    ▽ぐだキャスギル





     現代では夏に休暇を取るものらしい。どこからかそんな情報が流れてきて、更には土地の余った観光地の南国がその休暇中の滞在先になると聞けば興味が湧くのも必然というものだろう。
    「……バカンス、か」
     主不在の部屋でそう呟いたギルガメッシュは、ふむ、と暫し思考し、蔵を開ける。するすると出てきたのは噂を聞いてから用意した現代の衣服。落ち着いたブルーのシャツに、真白、よりはやや目に馴染むやわらかい白色のパンツにブラウンのジャケット。装飾品は、まあ目立ちすぎなければいいだろう、と適当に数種類選び、ひとつひとつ身に着けていく。常の服装はエーテルで編まれた礼装のようなものだが、これはこの時代における物質を使用して作ったものだ。つまりは立香が普段まとっているものと同じ物質でできたもの……だが、そこに他意はない。バカンスであるし、その場に相応しい装束があるというものだ。これもそのひとつであるに過ぎない。決して、立香と同じ時代のものを身に着けたいという訳ではない。己が生きた時代より遥か未来であり、違う時代を生きている立香に合わせようという気など更々ない。立香とて恐らくは南国に合わせた水着やらを着るであろう。それと並んだ己の姿などは想像もしていない。…………もし立香が水着になっていたら、並び立つには不釣り合いな気もしたが、それは今に始まった事ではない。カルデアで用意された立香のための戦闘用礼装は現代人である立香に合わせて作られているし、ギルガメッシュが得た装束は生前にまとっていたものと大差ない。つまりは立香から見れば明らかに異民族との交流状態だと思われるが、現代人を依代にし、人格も現代人へ寄せた者以外大概、大概な格好をしているから今更である。あのマシュですら戦闘時には凡そ現代人とは思えぬ戦闘服で戦う。一部は現代の霊衣を持ってはいたか。
     最終再臨で得た装束は、以前のものと大差はないが、立香によって与えられたものと捉えても構わないであろう。このような姿になるとはギルガメッシュ自身思っていなかったし、あえてわざわざ未来視を使おうとも思わなかったし、これはこれで面白みもある。ギルガメッシュが自ら選んだものではないのだから、これは立香が選んだものだ、と解釈している。再臨のために立香がヒイヒイ言いながら素材を集めていたのはギルガメッシュも間近で見ている。随分と時間はかかったが、それは今更論じても仕方のない事だし、第一立香から与えられたからと言って嬉しいなどとは思っていない。決して。
     さて、と、シャツの襟を整え、ギルガメッシュは立香が戻る前に部屋を後にする。必要なものは全て蔵に収まっているし、わざわざ荷物を持つ必要などない。カルデアにいる凡サーヴァント共は殆ど南国へ向かったというから、どうせ何かが起こるのは千里眼を使わずとも解る。そうなれば必然的に立香は動かざるを得ない。現地でホテルのひとつでも建て、後から来る立香に部屋の一室でも与えればきっとあのコロコロとよく変わる間抜け面で我を讃えながら喜ぶ事だろう。愉快愉快、と己の顔が緩んでいるのにも気づかずギルガメッシュは南国へ向かう。
     着いた瞬間にピコハンで記憶を混乱させられるなど、視もせず、予想もせずに。

      ✢✢✢

    「……………………」
     悪魔というか遂に邪神と化した月のAIの巻き起こしたトラブルが片づき、原稿からも解放された立香とギルガメッシュはようやくスイートルームでふたりきりになれた。というのに、ギルガメッシュは沈黙していた。
     幾らあの邪神の企みとは言え、一時どころか複数回のループ中、ギルガメッシュは立香の事を完全に跡形もなく塵ひとつ残さず完膚なきまでに忘却していた。勿論、その間の事は今も記憶している。己が完全に浮かれた大富豪という設定だった事も、毎回(である事すら気づけなかった)見覚えのあるようなないような立香達と一戦交え、印刷所の使用を許可し、本を印刷させ、フェスを開催していた。見事なまでの道化を演じさせられていた。記憶を取り戻すに至ったあの本はそれはもう素晴らしかったが、まんまと踊らされていた屈辱もある。し、何より、毎回の事で立香にも解りきっていたであろうに、毎回、ほんのわずか一瞬、立香の表情が揺らいでいたのをしっかりと記憶している。何度も何度も、知らないと言われれば立香はほんの刹那表情を曇らせていた。そんな顔をさせるためにこっそりと先立って現地入りした訳ではなかったのに。
     邪神の企みが潰えた後も、いつものように特異点が緩やかに消滅するまでの間、立香は暫くジャンヌオルタの本作りの手伝いをしていた。仮眠はこちらの部屋でするようになったものの、言葉の通りに仮眠程度で、部屋へ来ても一言二言寝る前の挨拶と、疲れたもうペン持ちたくない画面まぶしい肩が痛い腰が痛い腕が痛いなどと会話にならない、ほとんど譫言のようなぼやきを漏らしてベッドに倒れ込めば、立香は即寝落ちしていた。おやすみ三秒レベルだった。ギルガメッシュはギルガメッシュでベンチャーの面白さに目覚めてアレコレ手を出してはいたが、時間を共にする程度の余裕を作り出す事など造作もない。なかった、というのに。これまで立香はほとんど休んでなどいない。休暇とは何だったのか。
     元はといえばあのピコハンが悪いのだが、そんなモノで殴られる隙を作っていた己もどうかしていた。慢心は捨てたのではなかったのか我、と溜め息をつくが隙を生じさせたのは慢心とは違う事には気づいていない。
     それにしても、ギルガメッシュの記憶を混乱させるなど、アレはいったいどんな凶悪なシロモノだったのだろう。今更考えても詮無き事ではあるが、第七特異点と化したウルクで起こった事も、立香と共に送ってきた時間の事も全て忘れるなど、あってはならないというのに。
    「…………あの、王様、怒ってます?」
     無言で窓際の椅子に腰掛けて長い脚を組み、思案というよりひとり反省会を開催していたギルガメッシュの心の内など知る由もない立香がおそるおそるといった体で話しかける。無論、ギルガメッシュは怒ってなどいない。何とも言い難い落胆と、生前から思い起こしても感じた事のない気まずさ、を感じて何と言ったらいいのか解らなくなっているだけだ。
    「あの、オレが何かしたなら、教えてほしいなぁ……って思うんですけど……」
     ギルガメッシュを気遣う立香の遠慮がちな声に益々何も言えなくなってしまう。人を統べる王として君臨し続けたギルガメッシュは謝罪などした事もない。言葉を知らない訳ではないし、一言言えば立香は許すだろうし、そもそも事情は立香も理解している。謝罪など不要だ、と言うのも目に見えている。未来視的な意味ではなく。
    「……………………怒ってなどおらぬわ」
     結局謝罪の言葉など毛先ほども出ず、いつもの調子、よりはテンション低めの低音でギルガメッシュがようやくそう呟くと、ベッドであぐらをかいて座っている立香は露骨に安堵する。気を遣うべき相手に気を遣わせてどうする、とは思うが、何の見返りもなく他人を気遣うなどした事がない。こうすれば民の意欲が高まる、という理由で褒美を与える事はあったが、気遣いとはまるで違う。他人の顔色を窺ったり、慮ったりする事など一度もなかったように思う。
    「怒ってないなら、あの、こっちに来てくれたら嬉しいんです、けど……」
     慎重に言葉を選ぶ立香を横目で見れば、困惑した表情でギルガメッシュを窺っていた。ちくり、と久方ぶりにギルガメッシュの胸に針が刺さるような感覚がする。立香がウルクへ旅立つ前に稀に感じていたアレだ。
    「…………」
     貴様が言うのならば仕方ない、だとか、そこまで乞うならば応じてやらん事もない、だとか、常ならば当然のようにするすると出てくるであろう言葉が、今は喉の奥につっかえて声にならなかった。
     代わりにベッドへ歩み寄って立香を見下ろす。見上げる天色に不安が混じっていた。今この時、怒るならば立香の方であろうに、この底抜けにお人好しな男ははギルガメッシュへの怒りなど微塵も抱いていない事は容易に見て取れる。いったいこの男はどこまでお人好しなのだろう、と内心呆れに近い感情を覚えるが、それを責める筋合いはギルガメッシュにはない。
    「あのう……、できれば触りたいんですけど」
     久しぶりですし、と呟く立香の手が届く距離までギルガメッシュは身を寄せる。立香の両手がギルガメッシュへ伸ばされ、その腕に正面から収まる。久しぶりに間近に在る立香からは嗅ぎ慣れた匂いがした。臭い、という訳では決してない。
    「本当に怒ってないんですよね?」
    「何度も言わせるな」
     それならば、と言外に示すように立香の腕に力が込められて、ギルガメッシュの身体は立香と密着する。常ならば皮膚で直に感じる立香の体温は、布越しではあまり感じられず、ギルガメッシュは暫し思案して立香の頰と耳の辺りへ己の頬をすり寄せる。髪がやや邪魔ではあるが、これなら遮るものもなく立香の体温が感じられた。立香の体温はいつも少し高い。
    「すみません、なんか、こんないい部屋まで用意してくれてたのに」
     少年というには低く、青年というには成熟していない立香の声の振動が耳と皮膚へ伝わる。生前永い時を過ごし、時の流れなど友の死まで全く意識した事もなく、人間より遥かに永く生きたにも関わらず、立香に触れるのは随分と久方ぶりのようにギルガメッシュには感じられた。たかが一ヶ月程度であるはずなのに。
    「…………よい。元々貴様のために用意した部屋だ。どう使おうが貴様の勝手だ」
     ついでにレジャー施設のひとつでも建て、余裕と偉大さを見せつけながら日頃の労いでもしてやろうと思っていたのに、何故こうなった。考えるまでもなくあの悪魔のピコハンのせいだが。否、元を正せば己の油断からか。
    「それなら、これまで通り一緒にいてください。まだループ続いてますし、もう本も作らなくていいですし。バカンスしましょう」
    「……貴様がどうしてもと言うならば、付き合ってやらん事もない」
    「はい。海とか行きましょう。水着も持ってきてるんで」
     礼装ですけど、と言う声に笑いが滲んでいる。混乱させられた記憶が戻ったあと、改めてこの服装を見せた時のギルガメッシュの言葉を立香は覚えているのだろう。ループ中に何度も見ているはずだが、記憶を取り戻しても尚、ギルガメッシュがこの服装のままでいる事を立香は不思議に思ったらしかった。きょとん、とした呆気にとられたような不思議そうな、日本で言うところの鳩が豆鉄砲を食らった顔、というやつをしていた。
    「行くのは構わぬが、我は海になど入らぬぞ」
    「えー、いいじゃないですか。泳ぎましょうよ」
     せっかくの海なのにーと耳元で呑気に言う立香は年相応の子どもに思えた。そうしていれば本当にただの子どもなのだが。
    「――――…………充電しました」
     はー、と長めに息を吐いて立香はギルガメッシュから身体を離す。両肩を掴まれて押されたギルガメッシュからすれば引っペがされたようなものだったが。澄んだ水底のような蒼と目があって、にへ、とだらしなく緩んだ顔を見ればギルガメッシュはふと笑うしかない。
     そうしてから、立香は改めてまじまじとギルガメッシュを見やる。値踏みするような、観察するような、不躾ともとれる視線で上から下まで見、再び目を合わせて笑った。今度はだらしなく緩んだ顔ではなく、普通の――と言うと何をして普通と呼ぶのか解らなくなるが、いつもの、ぱ、と周りを照らすような、眩しいような笑顔を浮かべた。
    「王様、その服ホント似合ってますよね。完全に現代人ですよ」
     笑顔のまま、感心したように立香は言う。そのように見繕ったと返答する事はギルガメッシュの矜持が許さず、やはりいつものように、ふん、と鼻で笑う事しかできなかった。
    「四千年以上前のセンスに留まっているとでも思ったか? その場にはその場に相応しい装いがあるというものだ。郷に入っては郷に従え、だったか。この我にかかればこの程度造作もない」
    「うん、でも、なんか、不思議な感じがして嬉しいです」
     いつもの服も好きですけど、と若干ごにょごにょとした言葉を使うのはあの露出の多さを気にする年頃だからだろう。一線から退いて人の王として玉座に座り、蔵を封印すればあの鎧を纏う必要もなく、ウルクの暑さもあり、動きやすさもあり、あの装束に落ち着いたのだが。今ではウルクで立香達と出会った頃よりもパーツは増えているが。
    「王様、これいつものエーテルなんですか? 本物……こんないい生地触った事ないですけど、やっぱり手触りとかちゃんと布って感じしますよね」
     ぺとりと立香の右手のひらがギルガメッシュの肩寄りの鎖骨へ触れ、そのままつと下へ滑る。
    「王を名乗るつもりはない、と言ったであろう? これは現代の雑種共が編み出したものだ。この我の玉体を包むにはいささか粗末ではあるが、これもバカンスよ」
     ありとあらゆる贅を極め抜いたギルガメッシュからしてみれば安物なのかもしれないが、一般人である立香にはあまり気軽に触ってはいけない布地のような気もする。装飾品もいつものごとく高価な宝であるのは予想せずとも、立香には充分に理解できている。
    「オレ、アロハなんでいまいち釣り合ってないですけど……」
    「水着でも構わんぞ? 我と並び立とうなど百年早い。ゆえに、貴様が何を着ようとも我は構わぬ」
     並び立とうなど、と言うわりに連れ立つ事は決定されている。立香もギルガメッシュもそれは当然だと思っているので、二人共その事には触れる気すら起こらなかった。罪滅ぼし、という訳でもなく、元からその予定だったのだから。
    「じゃあ、今から出かけます? 夜にします?」
     昼間は暑いですし、と言う立香に向かい合ってギルガメッシュは腕組みをして、ふんとどこか自慢気な表情をして鼻で笑う。
    「この程度、我がウルクに比べればどうという事はないわ。貴様がどうしてもというなら夜を待っても構わんが」
    「そうですね、ウルク暑かったですし……でも店とか回りたいですし、今から行きませんか? 夜までいればいいだけですし。王様、時間ありますよね?」
    「当然だ。富豪にして敏腕経営者の我にかかれば立香ごときに割く時間を作る事など造作もないわ」
     実際は敏腕秘書とメイドのお陰なのだが、立香はそこには敢えて触れない事にして、ギルガメッシュが自分のために時間を作るのを厭わない事を嬉しく思いつつ、よし、と頷く。
    「それじゃあ、行きましょう。ギルガメッシュ王」
     立香はベッドから降り、ギルガメッシュへ手を差し伸べる。ごく自然にその手を取り、ベッドから降りるギルガメッシュを見て立香は、ふへ、とギルガメッシュから見れば情けない表情で笑う。今更言うほどの事でもなくなった笑顔だ。何度見ても間抜け面である事には変わりないが。
    「あ、そうだ」
    「なん、」
     手を引かれ、問うために開きかけたギルガメッシュの口へ、少し背伸びをした立香が触れるだけのキスをする。不覚にも不意を打たれた形になり、ギルガメッシュは僅かにその双眸を見開いた。
    「……なんだ、貴様」
    「行ってきますのチューですよ。知りませんか?」
    「たわけ。その程度の事、知らぬ我ではないわ。……見送り、見送られる者同士がするものと記憶しているがな」
     立香の間違いなどお見通しよ、とばかりに、ふんと鼻を鳴らすギルガメッシュに、立香はその紅い眼を覗き込みながらまた笑う。屈託のない子どものような、気の抜けたような、あの時と変わらない笑顔。本当に、立香はいつでも立香のままだった。出逢った時も、再会してからもずっと。
    「いいじゃないですか、何回しても。誰もいませんし、減る訳でもないですし」
     それじゃあ行きましょう、と言う立香に手を引かれギルガメッシュは溜め息をついて引かれるままに歩き出す。このまま出るのか、手をつなぐのは人前でもいいのか、などという問いかけが思い浮かばなくもなかったが、立香の手はどうにも離し難かった。今は何を気にする事もなくその手を取れる。その事が嬉しかった。――ああ、やはり、嬉しいのか、我は。
    「あ、そうだ」
     ドアを開けようかというところで立香が立ち止まりギルガメッシュを振り返る。目線だけで続きを促せば立香は悪戯を思いついた子どものような顔をして、
    「帰ったら続きをしましょうね」
     と、意味ありげに言う。
    「………………それは死亡フラグ、というやつではないのか」
     そう返したギルガメッシュに、意味が通じて満足したのか、嬉しいのか、立香はやけに満ち足りた顔で笑う。こんな無駄な知識も役に立つ事があるのか、とギルガメッシュは内心で感心する。どうしようもなく暇になった時に実物を観てみても良い気がした。
    「そのフラグは折れるから大丈夫です。オレにはギルガメッシュ王がついてますから」
    「当然であろう。この我が敗けるなどあり得ぬわ」
    「石像は別ですけどね」
    「何の話だ? 我の記憶にはないな」
     戯れるように言葉を交わしながら、立香はドアに向き直って把手に手をかけ、ドアを開く。手はつないだまま。その手をちらりと見下ろして、ふ、とギルガメッシュが微笑ったのは、前を向いた立香の目には映らなかった。
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