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    えんどう

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    えんどう

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    ▽モブが目撃する話

    ##第三者がいる話
    ##5001-9999文字

    モブが目撃する話▽名無しのモブが出ます
    ▽モブ視点です
    ▽ぐだキャスギル






     人理継続保障機関フィニス・カルデア。地球環境モデル『カルデアス』を観測することにより人類社会の存続を世界に保障する、保険機関。のようなもの。ある事件がきっかけでその役目は人類史の存続に関わる重要な時代の守護、事件の解決を武力――英霊、サーヴァントを使役して行う、人理の希望になった。正確に言えば希望は唯一人で、自分のようなただの職員はただの職員。とまあそんな堅苦しいことは置いておいて、ここカルデアは人類を、世界を守るために今日も変わらず運営されている。
     食堂では赤い鎧の弓兵や裸エプロンの猫娘、幼女の女将、ブリタニアの女王が厨房を切り盛りし、トレーニングルームではスパルタの王やケルトの戦士がもうそれ以上どこを鍛えているのか解らない筋肉を鍛え、レクリエーションルームでは戦国を生きた巴御前やインドの神ガネーシャ神、城化物の刑部姫達がゲームに興じ、シミュレーションルームでは古今東西の英雄達が時代や地域の枠を超えて戦闘シミュレーションに励んでいる、そんなカオスな場所。幼女の姿をしたジャック・ザ・リッパー、ナーサリー・ライム、バニヤン、ジャンヌ・ダルク・サンタ・オルタ・リリィ達は今日もキャッキャと姦しく走り回り、微笑ましい光景を生み出していることも書いておこう。
     さてそんなカルデアで責務に励むただの一般職員である自分達とは違う……と言えば本人は悲しげな顔をするだろう、人類の希望。偶然残った唯一人。人類最後のマスター、藤丸立香。彼は今日も眠いのかぼーっとしているのかそれが地の顔なのか解らない呑気な顔で英霊職員構わず道すがら会う人会う人に笑顔で声をかけ、かけられて笑い返していた。
     藤丸立香は希望である。ここに集う、もはや全何騎かデータを確認しないと解らないほどのサーヴァント達と(特殊契約ではあるものの)契約し、戦闘ともなれば共に戦場に立ち、使役する。そしてあのぼーっとしているのか眠いのか解らない呑気な顔からは想像もできない修羅場を潜り抜け、遂に人理焼却を破却させた。希望という言葉ですら生温い、彼は間違いなく人類を救った英雄だった。その呑気な顔からは想像もできないが。
     その、呑気そうな顔をした少年は、人理修復を成し遂げ、魔術王の残滓を追う日々を送るうち、少年から青年に差し掛かっていた。魔術師ですらなく、レイシフト適性が異常に高いだけの(というのもおかしい気がするが)ただの一般人は、本来なら学生らしく青春を謳歌していたであろう時期に、自分だけでなく全人類の命を背負って戦った。この二年、たった二年ではあるが、若者の貴重な二年は眩い青春ではなく血腥い戦場に費やされた。
     それは憐れで、彼の人生にとても大きな疵を遺すだろう、と、思っていた。恐らく自分以外にもそう思われていた。けれどこの言葉には、だが、と、続く。
     だがしかし、こんな状態においても藤丸少年は立派に青春を送っていたのである。いや、これを青春と呼んでいいのかは一般人ではなく魔術師の端くれである自分には解らないが。血腥いだけと思われていた彼の二年にはしかし、青春と思しき甘酸っぱい出来事が紛れ込んでいたのである。
     藤丸少年は、恋をしていた。
     
       ❃❃❃
     
    「おはようございます、■■さん」
    「やあ、おはよう、藤丸君」
     道すがら出会う誰も彼もに挨拶をしていた藤丸立香は、職員である自分にも皆と同じように挨拶をする。笑顔が眩しい……というほどもなく、今日も元気そうだなあ少年、と言いたくなるような、見慣れた笑顔だ。その見慣れすぎた笑顔はやはり呑気そうという言葉がしっくりきて、今ではもはや安心する。こういうところから英霊達も懐柔されるのだろうか。まあ、これだけなら和やかな朝の風景かもしれなかったが、だがしかし。
    「ギルガメッシュ王も、おはようございます」
    「うむ」
     言葉の軽さと裏腹に、礼だけは恭しく。藤丸立香の隣には露出の高い、派手な色の衣をまとった英霊が一人、ほとんどいつも付き添っている。頭の先から爪先まで威厳に満ちた彼は、古代は神代メソポタミア初期王朝の王の一人、人類最古の英雄、賢王ギルガメッシュその人だ。
    「今日も種火かい?」
    「はい。在庫すっからかんなので」
     うへえと舌を出して肩を落とす姿がコミカルで笑いを誘う。毎日毎日同じことを繰り返すのは確かに大変だが、必要なことだからやめるわけにもいかない。
    「種火って……この間三百個?確保したとか言ってなかったかい」
    「そうなんですよねえ……こないだまで保管庫にもたくさんあったのに……」
     藤丸は腕を組んでうーんと難しい顔をして見せる。常に枯渇状態の種火がようやく潤沢になったと喜んでいたのに。
    「まさか盗難……」
    「たわけ。こやつが先日喚んだ者に使ったのを空とぼけているだけだ」
     藤丸の後ろで会話に加えられないよう素知らぬ顔をしていたはずの賢王が、呆れたように口を挟んだ。少年を見れば半笑いで目を逸らしているから、王の指摘は正確なのだろう。そういえば、つい先日円卓の騎士を喚んだと、これも喜んでいたっけ。
    「雑種、こやつを余り甘やかすなよ? 見張っておかねばすぐ無計画に走り出す」
    「へへ……」
     半笑いの顔は冷たい目線に見下されている。普通の人間ならば震え上がって萎縮するその目線を受けて笑っているのだから彼の肝はどうなっているのだろうと思う。
    「使うのは刹那だが集めるのには膨大な刻と労力が必要であろう? そしてそれを集めるのは誰だ?」
    「王様です」
    「それが解っていて貴様はどうして……」
    「あっちょっ待っ、あだだだだだだだ」
     すっと伸びてきた黄金の腕に藤丸の頬が抓り上げられる。これは止めてもいいのか止めるべきか触れないでおくべきか、バシバシと黄金を遠慮なく叩く藤丸少年の手以上のことは自分にはできそうにない。口を挟んでもいいのかすら解らない。
    「ちぎれうちぎれうちぎれう! ごえんなさーい!」
    「これに懲りたら無計画な育成はやめることだな」
    「はひ……」
     頬を中心に吊り上げられてしまうのではないかとヒヤヒヤしたが、藤丸の顔は無事に繋がっている。頬は赤くなっていたが。
    「ちょっとは手加減してくださいよ」
    「たわけ。手加減していなければ、今頃貴様の間抜け面はふたつに裂けておるわ」
     頬をさする藤丸を見下ろす、腕組みをした賢王。傍で見ているこちらが震え上がりそうな冷ややかな目線だが、やはり藤丸は動じる素振りも見せない。
    「あ、そろそろ行かなきゃ」
     一頻り頬をいたわった藤丸は、思い出したように言ってこちらを向く。
    「■■さん、それじゃ」
    「あ、ああ。うん、気をつけて」
    「はい!」
     元気良く返事をした藤丸は賢王を伴ってその場から去っていく。なんとなくその背を見送っていると、もう声が届かないほど離れたところで何かを話していたらしい二人が笑いだす。口を開けて笑う藤丸と、その藤丸を見下ろして唇の端を吊り上げる賢王。ふたりは顔を見合わせて笑いあい、曲がり角を曲がって視界から消えていった。その顔は離れていても解るほどに楽しそうで、幸せそうだった。
     
       ✣✣✣
     
     カルデアの食堂は、昼時になると職員だけでなくサーヴァント達でも溢れかえる。サーヴァントの身で食事は然程必要ないはずだが、それでも人が集まるのはひとえに食堂で出される食事が美味しいからだろう。食堂で出される食事は、グランドオーダーが始まる前より遥かに美味しい。それが全てサーヴァントが作っているお陰なのだからもうよく解らない。今日のオススメは生姜焼き定食だそうだ。日本の料理らしいとここへ来て知った。
     戦場のような緊張感に溢れた厨房を背にニコニコと笑顔のタマモキャットに注文を伝え、しばらく待つと注文した料理が渡される。トレイを持ってガヤガヤとひとの話し声でさざめく食堂を見回すと、あのマスターを見つけた。
     壁際の席でいつもの面子に囲まれた藤丸の隣には、当然のようにあの王がいた。食事をするイメージがなかったが、皿に乗った何かをフォークとナイフで切り分け、口に運んでいる。無駄を嫌う彼が食事を無駄と切り捨てなかったのが意外だった。
     ここからでは話し声は聞こえないが、和やかな雰囲気なのは見て解った。藤丸と賢王が言葉を交わしている様子はなく、マシュや清姫と話しているようで彼女達の方を見て時折笑う。よく見る笑顔だ。そうして藤丸も食事を口へ運び、咀嚼して飲み込む間のあと、隣を見た。マシュ達ではなく、王の方を。
     声は聞こえない。何を話しているかは解らない。けれど、賢王を見てぱっと明るく笑ったあと、慣れた手つきで皿の上の料理を箸で摘み上げる。そしてそれを賢王に差し出した。
    (いやいや、それは食べないだろ)
     などと思ったけれど、賢王はちらりと藤丸を横目で見て、何食わぬ顔で箸の先端へ顔を寄せた。食べるのか、と思ったのと同時、ぱかりと口が開いて箸の先を口内へ収める。箸が口の中から引き抜かれたあと、やはり何食わぬ顔で咀嚼した。にこにこと笑顔の藤丸はいたく嬉しそうだし幸せそうだ。賢王も、穏やかな表情で微笑い、何かを言ったようだった。藤丸がそれ以上があったのかと思うような顔で笑う。
     その後はマシュや清姫にも同じことをしていたけれど、あの笑顔は見られなかった。気になって見ていた自分の食事は、バレてはいけない緊張感かちっとも味がしなかった。
     
       ✣✣✣
     
     それは本当に偶然だった。ダ・ヴィンチ女史が、藤丸にメディカルチェックの予定を伝え忘れていたと捜していたから、忙しい彼女の代わりに人捜しを請け負った。ただそれだけで決して他意はない。ダ・ヴィンチ女史の代わりに藤丸を捜しただけだ。それだけ。
     初めに(まずいないだろうと確信しつつ)覗いた藤丸の自室はもぬけの殻だった。内装がえらく豪華に改装されていたのは、あの王の趣味だろうか。絨毯を踏むことすら躊躇われた。
     次に覗いたトレーニングルームにもおらず、そこにいたスパルタの王から「レクリエーションルームではないか」と情報を得て、これは有力な情報と急いでレクリエーションルームに向かったが、入れ違ったらしくさっき出て行ったとゲームに興じる巴御前達に言われた。間が悪い。どこに行くかの情報は彼女達からは得られず、肩を落としてレクリエーションルームを後にする。さて、そろそろ見つけないとダ・ヴィンチ女史の予定はそう長くは待ってくれないだろう。しかし手がかりがなくなってしまった。どうしたものか、とドアの前で思案していると、すぐそばで誰かが話しているのが聞こえた。耳を澄ましても会話の内容までは聞こえてこない程度の声だったが、そこに誰かがいることは確かだった。もしかしたら藤丸を見かけているかもしれない。一縷の希望を持って声がする方へ進む。声はすぐ側の曲がり角の向こうから聞こえてくる。そちらは、今は使えない区間へ続く道で、照明すら節約のために切られている道だったはずだが。
    「――――」
     誰の声だろうとか、そんなことを判別するには声は小さく、囁くようだった。角を曲がる寸前、目だけが道の向こうを捉えて、脳で理解する前に反射で身を引いた。壁に背を預けてから脳が思考を始める。今見たものについて。
     道の向こうには、藤丸がいたように思う。いや、いた。そして、当然のようにあの王も。見たのは一瞬だったけれど、見てしまった。今自分がそうしているように壁に背を預けた王へ、藤丸が、
    「――は、――――で――」
     声がする。クスクス笑う声も。それから水が水面へ落ちて跳ねるような音が数回。
     何やってんだこんなところでと怒ってもいいはずだが、怒りより何かとてもいけないものを見てしまったような、いや実際見たことがバレたらあの賢王がどう対処するのかあまり考えたくないから見てはいけないものなのは確かなのだが――今、見たのは気づかれなかっただろうか。いや、気づかれていたら隠れたところで遅いし、通路の向こうからはクスクス笑う声が時折聞こえてくるから気づかれてはいない。はずだ。しかしここで待つのも気まずい。しかし折角見つけたのにまた見失って彷徨うのも避けたい。
    (あっちの通路で待つか……)
     二人がいる通路を見ることができる、別の通路で待とう。そう決めてそそくさと壁から離れた。背後からまだ笑い声が聞こえる。あの二人は、よく笑う。
     なぜこんなにコソコソしなければならないのだろうと変な気持ちになりながら、別の通路で壁際に寄る。少年が青春を謳歌するのは大変良いことなのだが、相手が相手なだけに心臓に悪い。疑惑は確信に変わったけれど、それが変わったところで他に何が変わるわけでもない。ただ、少年から青春を奪ったのではないかという罪悪感はいくらか薄れる気がした。勝手に抱いていた罪悪感だが。
     離れたせいでもう二人の囁き声も笑い声も聞こえない。青春するのはいいことだが、場所は少し気にしてほしい。コソコソと二人がいるはずの通路を窺いながら、短く溜め息を吐いた。
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