たかのぞみ 気がついたら宿に帰ってきていた。
閉めた戸に寄りかかりながら、ずるずると座り込む。自分がどうやってここまで来たのか思い返そうとして、先程見た光景が脳裏に浮かび、視界がぼやけた。
──町中で、品が良く育ちの良さそうな妙齢の女性の隣で、柔らかな表情を浮かべその女性をエスコートしていたルディス・フィグの姿。
いつ頃からか、雰囲気が変わったという彼にたくさんの縁談が舞い込んでいるという噂は聞いていた。養子とは言え、貴族であった先生の息子なのだし、何より彼はとても善い人なのだ。相手がいなかった今までの方がおかしかったのだ。
だから、いつかこんな日が来るだろうと思っていた。覚悟していた。…そのつもりだった。
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