お日さまのプレゼント 夢ノ咲学院を卒業し、社会人として働き始めたばかりの頃。凛月は寮の真緒の部屋に訪れていた。というのも、真緒から同室のメンバーが全員仕事で不在にしていると聞いたからであり、久しぶりにかわいい恋人と2人っきりで過ごせるのではというほんの少し…いやかなりの下心を持って来たことは否めない。
真緒は次の収録で使うらしいアンケートの記入がまだ終わっていないようで、凛月は真緒が載っている雑誌を読んで待つことにした。
真緒の仕事は全てチェックしているが、昨日発売されたものはまだ読めていないはず、とお目当ての雑誌を手に取る。真緒が今度出演するドラマの原作が少女漫画だとかで、その作品が掲載されている週刊誌に特集記事が組まれていた。
「へえ〜。かっこよく撮れてるじゃん。」
凛月は誰よりも真緒のことを知り尽くしているという自信があるからこそ、真緒の魅力を引き出せていないものがあればもどかしさを感じてしまうが、今回はその心配は無さそうだ。
インタビューの内容はターゲット層向けに恋愛ネタが多く含まれているが、真緒のことだ。きっと際どい質問もうまくかわしているだろうと読み進めていく。
『Q.憧れのキスのシチュエーションは?』
『A.相手が寝てるときに、バレるかバレないかみたいな、
ドキドキするシチュエーションに憧れますね!笑』
きっと、少女漫画で読んだシチュエーションなのだろう。そう思いつつも、凛月は頭の片隅に引っかかっていた。
「ねえ、ま〜くん。」
「なんだ、凛月?」
「俺が寝てる時に、キスしたことあるの?」
「なっ、えっ、んなわけないだろ〜!凛月、寝ぼけてたんじゃねえの?ほら、一昨日だって疲れて共有ルームで深夜に寝ちゃってたもんな!俺が気付かなかったらあのまま共有ルームで朝迎えるつもりだったのか〜?」
わかりやすく動揺する真緒に凛月は笑みが溢れる。
「ふ〜ん。一昨日、ねえ。ま〜くんもしかして今まで何回かやってるの?」
「いや!やってないやってない!」
「ほんとに?」
こうなった時の対応はもう慣れたもので、真緒の目をじっと5秒見つめれば耐えられなくなった真緒が目を逸らす。それが真緒の降伏のサインだと、2人の間で暗黙の了解になっていた。
「…おまえ、俺が凛月の顔に弱いって分かっててそうしてるだろ。」
「ふふふ。こんなことするのはま〜くんだけだよ。で、いつからやってたのかなあ?」
「……のとき。」
「なんて?」
「っだから、凛月が夢ノ咲入学したくらいから!」
驚いた。ずっと凛月の方ばかり真緒を好きだと思っていたし、告白も凛月からだったし、ファーストキス(ではなかったと判明したが)もきっかけは凛月からだったから。真緒と想いを通じ合わせる前に自分にキスをしていたなんて信じられなかった。
「それ、ほんと?」
「凛月に嘘ついたってバレるだろ。」
「ま〜くん、その頃からずっと俺のこと好きだったの?」
「ん〜…。なんつーかさ、俺の知ってるりっちゃんがアイドルになって知らないところに行っちゃうんじゃないかって思ったらさみしくて、俺から離れないでって。それで…、俺、凛月のこと好きなんだなって気付いたよ。」
凛月は、真緒が昼間の世界に連れて来てくれたその日からずっと真緒に愛を伝えてきた。それがどんな形であろうと伝え続けてきた。真緒から返ってこなくてもいいと思っていた。だから、幼馴染から恋人になりたいと言った凛月に真緒が応えてくれたこと自体、奇跡だと思っていた。それなのに、真緒は凛月が想像していたよりも前から、凛月のことを好きでいてくれたらしい。誕生日でも何でもないのに、真緒から特別なプレゼントをもらったようだ。
「ま〜くんあのね、ま〜くんが俺を昼間の世界に連れだしてくれたときから、ずっとずっと俺はま〜くんのことが好きだよ。」
「…いつも言ってくれてるから、知ってるよ。」
「ま〜くん、俺のこと好きになってくれて、ありがとう。」
「なんだよ急に…。俺も、凛月が俺のことずっと好きって言ってくれて嬉しかったから。ありがとう。」
そう言って微笑んだ真緒は、部屋の中にいるのにまるでお日さまみたいだった。今までも、これからも、凛月のお日さまは真緒だけだ。
「ねえ、ま〜くん。ちゅーしよっか。」
「…ん。」
真緒が目を閉じる。綺麗な宝石を詰め込んだ大好きな瞳がまぶたで伏せられていくこの瞬間が凛月は好きだ。真緒の両頬をやさしく包んで、そっと唇を重ねていく。合わせた唇からお互いの気持ちも伝わっていくようで、心臓の奥からあたたかくなっていく。
「まあ、今まで全く気付けなかったのが悔しいけど、ま〜くんがかわいいから許そう。」
次は起きている時に真緒からのキスが欲しい。