2024 トミオカ先生誕生祭 早朝五時。いつものように鳴る目覚まし時計を止め、くたびれた布団からもぞりと体を起こす。カーテンを開けても外はまだ暗く、街灯が薄く光っているのが見えるばかりだ。あまりに寒くて買ったファンヒーターのスイッチを入れて部屋の電気をつける。浴室へ行き、熱めにしたシャワーで体を清め、タオルで雑に体を拭いてから居間へと戻った。
買い置きのレンジご飯とコンビニで買ったカップ豚汁で腹を満たし、ランニングがてら六時に家を出る。今日は校門での服装指導と学校周辺の美化活動の日だから、七時には到着していなければ。
とはいっても、三十分程度で学校には到着するし、現代としては珍しく宿直制度が残っているから、早くついてもすることはない。……そうか、だったら。
少しだけ遠回りをして、いつもとは違うルートで学校へ向かうことにした。……そうすると、あの人気店で昼食を得ることができるかもしれない……。そう思うだけで、足取りが軽くなるのが自分でもわかるほどだった。
ホクホクしながら立ち寄った人気ベーカリー。ブドウパンと、珍しくコロッケパンとカツサンドがあるではないか。無事に購入し、また学校へと向かう。夜が明けて朝になる、この時間が一番好きだ。しかし、何事もなく今日も朝を迎えられたとホッとするのは、どうしてだろう。そんなことを思いながらランニングをして七時前には学校へ到着した。用務員の鱗滝さんは、すでに校門に美化活動用のゴミ袋とトングを用意してくれていた。
しかし、なぜだろう。その脇には、大きな箱とバケツがある。俺を見つけると、天狗面を付けてはいるがどことなく嬉しそうなほわほわとした空気を振りまきながら俺を手招きする。小走りで近寄ると、「冨岡先生は、ここに」と自分をその箱の隣に立つように促した。頭にはたくさんの「?」が並んでいるが、それにはもちろん気付かぬようで「今日は、ここにいるように」と言って立ち位置を指定する。
「は、はい……」と、どこか間の抜けた声が出てしまうが、仕方ない。昼食が入ったリュックサックはそのまま地面に置き、そこへ立つことにした。
しばらくして現れた生徒たちは、みな一様に何かの包みや花を持っていて、俺を見つけると隣にある箱に包みを、バケツには花を入れていく。
「トミセン、オハヨー」
「これ、没収でしょー」
「先生、おはようございまーす」
……ん?これは、どういうことだ……。
キツネにつままれたような顔をしていただろう。よくわからないまま校門を閉める時間となり、俺はその箱とバケツを必死で職員室へと運ぶことにした。どうして、こんなことに……?訳が分からないまま、職員室のドアを開けようとしたその瞬間。
パァーン!とクラッカーが鳴った。そして、ほかの先生が口々に、
「冨岡先生!おめでとう!」と煉獄先生。
「はぴばー」と宇髄先生も。
「おめでとうございますっ!」と胡蝶先生まで。
不死川先生と伊黒先生は、入口の両脇から紙吹雪を俺に向かって撒いているではないか。
……ん?あれ?今日は、何月何日だっけ……?
「冨岡先生、まさか、自分の誕生日ってことを……」
と、後藤先生がやれやれ、と首を振りながら言ったその時。
「はっ!わ、忘れていたっ!!!」
一拍遅れて響き渡る笑い声と拍手。だから、鱗滝さんが箱とバケツを、生徒たちは包みと花を……。
自分の誕生日を忘れているとは思っていなかったが、こうしてサプライズ的にしてもらえることも悪くない。思わず、むふふと笑みがこぼれてしまった。
後日。
「あのトミセンが笑った」と、宇髄先生が隠し撮りをしていた写真が学校中にばらまかれた。その写真を見た生徒たちは、呆気にとられながらも「鬼の目にも涙」ならぬ「トミセンの顔にも微笑み」と、騒ぐことになるのだが、それはまた別の話。
(了)