アポカリプス、じゃあまたね――1999年 7の月。恐怖の大魔王がやって来て、人類は滅亡するだろう。
そんな、今となっては根拠も確証もない妄言にすぎない〝大予言〟に怯えていた頃。正体もロクに分からない〝大魔王〟の存在に怯え、眠れない夜を過ごしていた頃。自分の枕だけを持って潜り込んだ布団の中、大丈夫よ、と隣で苦笑まじりに俺を撫でてくれていた母親に、興味本位で訊いてみたことがある。
「もしも本当に世界が終わっちゃうとしたら、母ちゃんは、最後に何がしたい?」
母さんはそれを聞くと、世界の終わりには到底釣り合わないような朗らかな笑みを浮かべながら、そうだねえ、と呑気に呟いた。まだ七つの俺の頭を何度も往復していた手のひらがそうっと顔に伸びてきて、ぴたりと頬に触れた。
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