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    bossa_trfy

    @bossa_trfy

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    bossa_trfy

    PROGRESS2月発行予定の全年齢とらふゆ本『この夜が明けたら』より、プロローグのみ。
    千冬が死ぬ日の朝、夜明けの海に行く二人です。
    今夜きり 肌寒さに、ふと目が覚めた。
     ぼんやりした視界いっぱいに艶のある黒が映る。静かな空間には、放置されたパソコンのシーク音だけがジリジリと遠慮がちに響いていた。フロアライトの心許ないオレンジに照らされた部屋は薄暗く、それは暗に、俺が今日も千冬の帰りを待っているうちに寝落ちてしまったことを物語っていた。
     いったいどれくらい眠ってしまっていたのだろう。
     お世辞にも寝心地がいいとは言えないソファからのっそり身を起こす。ひじ掛けに手をついて体重を支えると、ギシギシと革の生地が擦れる音がした。重厚で肌ざわりのいい絨毯も、裸足で踏めば当然冷たい。十一月も半ば。季節は秋なんてさっさと追い越して、もうすっかり冬の空気になってしまっていた。その証拠に、寝ている間、なんとか寒さに耐えようと無意識に丸めていた背中には、ジンジンと鈍い痛みが纏わりついたままだ。せめて上に何か羽織っておけばよかった、なんてどうしようもない後悔をしていると、追い討ちをかけるように冷たい夜風が吹いて、さあっと肌を撫でつけていった。
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