stlo レオナルドが怪我を隠して作戦に支障をきたした日があった。
その日から怪我の確認と称して、毎日、少年の白地の肌に触る権利を得た。
日焼けをすることのないその肌はこの街に来てからどんどんと白くなっている。その目が見る汚いものは増えていくのに、それでもその肌は穢れを知らないかのようだ。
首筋、胸、背中、腰と骨の形がわかる肌を辿っていく。時折軽く刺激しながら、ゆっくりと手で味わうように。
手になじむ肌を触っていると、綺麗に剥いで抱き枕にしたら寝心地がいいだろうかと考えてしまう。
けれど、剥いで、その下に出てくるものを見たくないからそのままにしている。
白く美しい骨と紅い血肉以外のものが出てきたら嫌いになってしまいそうだから。
「俺、思うんすけど」
仮眠室のベッドの上で顰め面で手の動きを追っていた顔がこちらを向いた。
「なんだ?」
「触る必要あります?」
「見た目は平気でも内臓や骨にダメージを負ってる可能性もあるだろ」
「触ってわかるんすか?」
「ああ」
「こんな……なんて言ったらいいんだろ……えぇと、女性に触るような触り方で?」
手を止めた。その手はまさに脇腹を撫でていた。柔い肉をまるで舐めるように。
「触り方を知りもしないのによく言うな」
「そうなんすけど、なんか、それが一番しっくりきて」
レオナルド本人はうんうんと唸っている。経験はなくとも語彙力はある。その頭でもってまず出てきたのが、女性に触るようとは言い得て妙だ。羞恥心も疑念も一切なく毎回馬鹿みたいに肌を晒すわりに本能ではきちんとわかっているらしい。
「俺が女性にどうやって触れるか教えてやろうか?」
「へ?」
「そうしたら違うってことがわかるだろ」
「いやいや、結構です、遠慮します、やめてください」
レオナルドはぶんぶんと首を横に振った。ソニックがついさっき似たような動きをしていたなと思い出して思わず頭に手を置いた。
「ひえっ」
レオナルドはさらに怯えた顔をする。ソニックは大人しくなったのだったがレオナルドの方は駄目らしい。
指先で柔く髪と地肌を撫でながらそっと手を後頭部に滑らせた。優しく顔を上向かせて、その呆けた唇に覆いかぶさる。
唇が重なる前に手が割り込んできた。反応スピードはぎりぎり及第点だ。
「でも、悪手だな」
その手首を掴んで、殊更ゆっくりと手の甲にキスをした。薬指を唇で辿っていく。細い指に噛みつきたいと思ったがそうはしない。
やはりまだこの肌の下を知るには早い。
「えっ、なに、……えっ、なにっ?」
レオナルドは真っ赤になって、その旨そうな頬をさらに旨そうな色に変える。
「唇で触れるんだ」
「くちびる?」
「ああ、次からはそうしよう」
興味をなくしたと言わんばかりに手を離す。
レオナルドは間抜け面で口を何度も開閉させている。よく回る口も、桃色の蠱惑的な唇もまるで機能を果たしていない。
「足に怪我は?」
「ない、です」
「よし、今日は終了だ。戻って報告書を仕上げろ」
「はぁ」
「提出期限は十八時だ」
「えっ、十八時? あと三十分ですけどっ」
「今夜はクラウスと食事の予定なんだ。俺に残業をさせるなよ?」
「お、横暴だ」
「何か言ったか?」
「何も言ってません! すぐやります!」
レオナルドは即座に服を着て靴を履いて仮眠室から駆け出ていく。報告書の提出期限で頭がいっぱいで、今のまやかしみたいな触れ合いなんてきっともう頭にないだろう。
己の唇に指で触れる。
「手より胴体の方が滑らかだな」
次からは唇にもあの肌を味わせてやろうと決めると、唇は嬉しそうに弧を描いた。