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    hnkawa

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    hnkawa

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    何か甘い話を書きたかった気がする。

    #ダニレオ
    danileo.

    口寂しい話 先週から煙草の減りが常よりも遅い。
     煙草を吸う本数が減った理由は明白だった。この十日ばかり家で吸う本数が激減しているのだ。その理由もまた明白で、非喫煙者の居候がいるのである。
     居候の名前はレオナルド・ウォッチ。先週の月曜日に家を追い出されたダニエルの恋人である。
     マンションのオーナーがまたしても区画クジに当たったらしくレオナルドは家を追い出され、しかし結社の事務所は運悪く設備点検の日だった。大した金もなく一晩を過ごすにはこの街は安全ではない。そうして季節はまだ冬。結果としてレオナルドは一晩の暖をダニエルのところに求めに来た。それを受け入れたダニエルは「家が決まるまでいろ」と引き留めているのだ。
    「遅くなったんで、今日はデリにしました」
     テーブルの上にパックを並べながらレオナルドが言う。居候の代わりにとレオナルドは早く帰った日には慣れない料理をしていた。何の目標を見出したのか毎日意気込んで料理をしていたのだが、本日はそれも諦めるほどにはくたびれている。
    「何かあったのか?」
    「どこかの警部補が上司に連絡した件でちょっと」
    「言うようになったじゃねぇか」
     レオナルドが怒ってみせるのはダニエルには喜ばしい変化であった。それだけ心を許した証拠だからだ。遠慮は早々に投げ出して飛び込んできて構わないとダニエルは思っている。家をなくして連絡してきたのだってどれだけ嬉しかったことか。
    「なんで嬉しそうなのかわかんないんすけど」と困惑を表情に乗せながらもレオナルドはダニエルに封筒を差し出した。
    「スティーブンさんからの郵便です」
    「仕事が早いな」
     封筒の中身は見取り図だった。カメラやトラップ、配備されている警備システムなどが記され、所々に印が付けられている。
    「僕らの開始時刻は明日の十九時。十九時半に社長あてに来客があります。狙いはそこです」
    「もうそこまでいってんのか。電話じゃ一言もなかったくせによ」
     明日の仕事内容をダニエルは頭の中で整理した。夜に回せる人員は確保できる。ポリスーツ部隊も一個隊は配備できる算段だ。
    「二週間前から動いてたんですよ。まさかこのタイミングで入ってくるとは」
    「あいつから聞いてないか? うちは別件だ。最終的にはまとめてしょっ引くが」
    「ああ、追加で探ってこいって言われたのはそれでか」
    「お前が動くとは思ってなかった。ご苦労だったな」
     柔らかな髪をかき混ぜるとレオナルドは面映ゆそうにしてみせる。しかし、そのうちに眉はへの字になって、申し訳なさそうな表情へと変わっていく。まるで萎れる花を見ているかのようだ。
    「なんだ? ヘマでもしたのか?」
    「そうじゃなくて今日は不動産屋に行けなかったんで進捗なくて」
     レオナルドは家を探すために時間を見つけては不動産屋に行っていた。いくつか物件の資料を携えて帰ってきたのだが、立地を見てダニエルはほとんどに否を出した。一軒はダニエルも頷いて改めて共に物件を見に行ったのだったが、隣人の姿を見るやレオナルドは首を横に振ったのだった。事件絡みかとダニエルは訝しんだがレオナルド曰く「先輩の愛人の隣は嫌」とのことだった。引きが悪いものである。
    「時間がかかっても構わねぇから腰据えて探せよ。俺もよさそうなところの話を聞いたら教えてやる」
    「助かります」
     一緒に住まないかと言うことは簡単だった。けれどレオナルドが進んで頷くとも思えなかった。
     ダニエルを頼ってはきても、家に遊びに来ていた時とは違ってこの数日間のレオナルドはどこか緊張していた。恋人の家に共に住まうことを手放しで喜んでいる風もない。レオナルドの態度はあくまで『居候』で、引け目を感じているのである。
     もしレオナルドがダニエルの提案を受け入れてこのままここに残ったとしてもレオナルドは『居候』のままだろう。そのうちに慣れていったって仮住まいにいる感覚はなくならない。然らば、ダニエルはレオナルドに自ら進んでダニエルと住むことを決めてもらう必要があった。そしてその時はまだ先であることもわかっていた。
    「どうかしましたか?」
     表情を強張らせていたダニエルを見てレオナルドが首を傾げる。
    「いや」とダニエルは口許だけで笑んだ。レオナルドの後頭部をやんわりと引いて唇を合わせる。ダニエルがはぐらかしたことにレオナルドは一瞬だけ悔し気な表情を見せたが、それでもダニエルのキスを拒みはしなかった。
    「煙草」
    「ん?」
     触れ合うだけのキスの間にレオナルドはつぶやくように言う。
    「僕が起きてる間は我慢してますよね? お邪魔してるのは僕なんで、ダニエルさんはいつも通りにしてください」
    「意外と平気でな」
    「本当ですか?」
    「ああ。お前がすまなそうな顔をする必要はねぇさ。むしろ胸を張ってろ」
    「なんで?」
    「わかるまでは出て行かせたくねぇな。それとも出て行ったらお前も同じように感じるもんか?」
    「どういうい、みっ、……ぁ」
     今度は深く唇を重ねた。甘い吐息を呑み込んで、甘い舌を絡めとる。
     口寂しくなるなんてまるで子供だ。
     それでもレオナルドが出て行ったら煙草の本数は増えそうだった。
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