喧嘩(ワンライ) ヒュッと空気が空を切る音がしたと思ったら、拳が目の前にあった。先ほどまで悟の顔があったところに容赦なく叩き付けられたそれ。とっさに後ろに避けてなければ顔面直撃だっただろう。
牽制のためではなく完全に攻撃する意図の拳に、悟の導火線は一気に燃え上がって焼き切れた。もともと気が長いほうではないのだから余計だ。
「っぶねーな!なにすんだよ!」
「へえ、避けるんだ」
ぐっと重心を下げ睨み付けるように悟を見てくる男に、まだやる気かと悟も身構える。さきほどは虚を突かれたが、くるとわかっているならば遅れを取るつもりはなかった。
一瞬術式を走らせようかと思ったが、それではつまらない。男の術式を悟は知らないが、生身の体術のみで来ていることは明らかで、こちらだけ術式を使うことは負けたような気がする。
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