「合わせて宣言したら良いと思うのだが」
思い切ってもう一度提案してみる。
「ああ?」
明日の準備に忙しい彼は、最終チェックと掃除に余念がない。それでもエルヴィンからの問いかけにはいつも通り反射的に手を止めて振り向いた。
「何をだ」
「俺たちのことを」
「俺たちのこと?」
「結婚したと」
「…してねえ」
「では将来末長く共に寝起きし、互いを助け、貞操を守り、ここで紅茶屋を営んでいくことにしたと、開店を祝いに来た客全てに話して回るか?」
リヴァイがエルヴィンの命令に従わないことは無かった。では提案はどうだ。多少の願望と我儘が混じったお願いに対しても同じことだ、彼はエルヴィンの意を汲む事に長けていて、誰よりも近くでそれを受け入れる事を嬉しく思っている。
「――それが俺だけだと言って回ってくれたらいいよ」
「クソだな。そんなもん見てりゃわかるだろ。逆にお前が宣言したほうがいい」
「何をだい」
「エルヴィン・スミスがついに腰を落ち着けて、こんな所で店番としてこき使われる羽目になった事をだ。覚悟しやがれ」
はは。エルヴィンから快活な声が漏れた。二人で遠く長く見聞きしたものが随分と溜まっていた。
「――そいつをまとめ終わるまで。期限付きでいいぜ」
「生憎だが一生かかるな。一巡してここへ戻って来た。ここが私と君の終着の土地だ」
南の最果て。温かく穏やかな人間の土地だ。大きな船も着くから人も物も新しいものと古いものが常に行き交う。
「そうか」
「そうだ」
伸ばした腕の中で大人しく髪を愛でられていた身体はするりと抜け出していき、片手を取ったままエルヴィンを見つめた。もう片方の手で男の腕を軽く叩きながらリヴァイは言った。
「ここは俺の店だ。明日から言う事聞いてもらうぜ、団長」
とても満ち足りた風情の兵士長がそこにいた。
【エルリ】俺たちのことを/宣言/京式