かぜを食らう朝晩は冷え込むが日中は晴れてると暖かく服装に困る。柔らかな日差しに油断し眠っていたら夕方の冷気でうっかり喉を痛めた。隣で寝転ぶ彼は大丈夫だろうか。そちらを向けば大きな体を丸くして毛布を探すように左手が動く。寒いよねとこっそり笑う。「エルヴィン、起きて」喉が痛いとは思っていたが思っていたよりしゃがれた声が出て驚く。うがいしてこよ。まだ微睡んでいるエルヴィンに毛布をかけ直してからその場を離れた。
「寒いじゃないか」
ガラガラとうがいをしてたら右肩にのっしりと重みが加わる。口の中の水を吐き出したいのにエルヴィンの左腕が顎へ伸びて親指と人差し指に掴まれる。グイッと右側を向けられ彼の碧眼と視線がじっとりと絡まる。
「唇が濡れてるな」
顎にかかっていた親指が唇をフニフニと弄る。当たり前じゃん、うがいしてるんだけど、とは言えずに眉を顰めて手に持っているコップを掲げてみせる。何を考えているのかニコニコと笑う彼と見つめ合い、暫く、近付いてきた顔にコップを突き付けた。指の力が緩んだ隙に絡みついてきている彼を引き剥がして口の中のものを吐き出す。
「流石に、うがいした水が入ったままは嫌」
「君の口は締まりがないからどうせ液体だらけになる」
「言い方!汚いから嫌なの!」
「俺は飲めるけど」
「バッッッカじゃないの」
彼の胸部に軽く握った拳を叩きつける。微動だにしない彼を恨みがましく睨み付ければ留まったままの拳を掴まれ口付けられる。
「声が掠れてるな、セクシーだと思う。動悸がしそうだ」
「風邪だと思う!!アンタもね!!」
「たくさん声を出したからじゃないのか」
ヒラリヒラリと躱されていく言葉のやりとりにいつも悔しくなる。
「キスがしたい」
「風邪、移るよ」
「のぞむところだ」