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    序盤
    不穏

    #ロンルフ
    ronf

    ロンルフ△月×日
    料理の腕がもとに戻ってしまった。


     咀嚼した団子は、作ったルフレ自身にはわからないが鋼の味がする。
     では鋼の味がわからないと言うのであれば、その舌はどんな味を受け止めているのかと問われても、やはり彼女にはわからない。それでもいま食べている団子が特段おいしいものではないことはルフレにとっても明らかだった。
     彼女が周囲を見やればクロムとフレデリクが何やら会話をしている。内容は周囲の状況報告だろう。
     聖王によるイーリス領内の視察という建前のもと、聖王であるクロムも含めた自警団がイーリス領内を巡回していたところ、村の近くに屍兵が出現したという情報が舞い込んだのが今回の戦闘の発端だった。
     かつての邪竜との戦いを経験した者たちからすれば、姿を現した屍兵はたいした驚異ではなかった。それでも命のやりとりであることに変わりはなく、油断があろうとなかろうと命を落とし得るのが戦場だと気を引き締めて臨んだ。なにより、屍兵を放っておけば、そこに住む人々に被害が及ぶ。そんなことは絶対にあってはならないと、気合い十分な自警団の面々により屍兵は無事討伐された。
     現在は屍兵が残っていないか、被害は出ていないかの確認が行われている。村とは十分に距離があったので、おそらく村人への直接の被害はないだろう。
    (それでも、農作物などへの被害がゼロとはいきませんね)
    ルフレは団子が入った袋をしまった。食事を抜いたりしない限り戦闘中に空腹を覚えることはないが、体を動かせば腹は減る。そして、脳を働かすには甘いものが必要不可欠。いざ戦闘が始まれば剣を握って屍兵を屠り、魔法で消し去り、さらには自警団全体の指揮をするルフレは、行軍中でも簡単に食べられるような甘いものを何かしら持っている。
     以前ガイアに甘いものを持っていることに気が付かれたため、ひとつ分け与えたところ、その場ですぐに食べたガイアの顔があっという間に険しくなったのも今では懐かしい思い出である。
    「ルフレ、調子はどうだ?」
    「まずまず、と言ったところでしょうか」
     別に悪くはありませんよ。と、フレデリクとの会話を切り上げルフレのもとにやって来たクロムに返す。ルフレはいつも通り笑ったつもりだが、クロムにはそうは見えなかったのか眉間にしわが寄った。
    「疲れているように見えるが、休まなくて平気なのか?」
    「疲れ……? 別に疲れてはいませんよ」
     いつもより間食の間が短い自覚が彼女にもあるが、別に疲れているわけではない。それを示すように、ルフレは今度こそいつも通りに微笑みを浮かべてみせる。
    「……そうか。無理はしないでくれ」
    「ええ、もちろん」
     クロムはまだ納得していないようだったが、これ以上踏み込んでも成果はないと思ったのか、ルフレのことを気遣ってか、問うのをやめた。そのかわりに何か思い出したのかのように「そういえば」と呟く。
    「今日はなにか食べるものを持っていないのか?」
    「持っていますよ。今日は団子です」
    「ひとつ分けてくれないか?」
    「……やめておいた方がいいですよ」
     ルフレの意外な返事にクロムは驚いた。ルフレの料理が鋼の味というのはクロムも知っていたが、記憶が正しければルフレの料理の腕は改善傾向にある。というのも暇を見つけては料理上手のものたちから料理を習い、最近では鋼の味も気にならない程度になっていたはずだ。
     そんなクロムの記憶を打ち壊すようにルフレは言った。
    「最近また味が悪くなってしまったんですよ」
     自分で食べる分には分からないんですけどね、と困ったように笑うルフレに返す適切な言葉を見つけられないままクロムは「そうだったのか」とだけ捻りだした。
    「さて、クロムさん。周囲への警戒はまだ終わっていませんよ。持ち場に戻らないと、ですよ」
    「そうだな」
     つとめて明るい声で「戻ってくるのが遅いとリズが怒っているかもな」と冗談めかしながら言うと、クロムは軽く手を振りながら去って行った。
    遠ざかっていくクロムに気が付かれないようにルフレはそっと息を吐く。
    「そんなに分かりやすいですかね? 私」
     去って行くクロムの横顔からはルフレを心配しているのが見て取れた。
     特に体の不調もなければ疲れが溜まっているわけでもない。頭のキレもいつも通りだと彼女自身は思っているし、実際に戦闘中の指示は今日も的確で素早い。
    (取り繕えていると思ったのですが)
    もしも彼女の調子が悪いように見えるのであれば、それは彼女の精神面の問題が原因だ。だからといって、その問題が戦闘に支障をきたさない程度にはコントロールしているし、心配させてしまうような姿は見せなかったはずだとルフレは小さく唸る。
    視線を落としていたルフレの視界の隅で、なにかが揺らめいた。
    「わかりやすいな」
     ルフレの左前方、少し離れた場所に気配も音もなく突然男が現れた。
    いきなり幽霊がその姿を人に曝け出したかのような出現の仕方だったが、ルフレはそのことに驚いた様子も見せず、男の言葉が気になり首を傾げた。
    「たとえば?」
    「放心している」
     心当たりがあるのか、うっと呻いた彼女に追い打ちをかけるように「それも移動中に、だな」と男は続けた。やはり自覚があるのかルフレが頭をかかえる。
    「あなたから見て他に何かありますか?」
    「ある」
    「……そうですか」
     男の答えにルフレはうなだれた。
    (どうしてこの人はこんなに私の変化に聡いのでしょうか)
     突然ルフレの目の前に現れたこの人物だが、初めてルフレの前に現れたのも突然だった。
    男にしては随分と長い、腰のあたりまである髪。何を考えているのか分かりにくい切れ長の目は、ときおり闘志をぎらつかせている……ようにルフレには見える。背が高いわけでもなく細身だが、立ち姿には確かな威圧感。
     ルフレが名前を聞けば、口を引き締め一瞬ためらったのち、重々しく「キルソード」とだけ言った。いったい何の冗談だと頭を抱えたくなったその一方で、なぜかその答えがすんなりと腑に落ちるのを感じた。結局、ルフレはその男の言葉を信じた。
    (まあ、キルソードかどうかは別として、普通の人間でないことは確かですしね)
     キルソードを自称する男は疑いの目を向けてくるルフレの目の前で、身動きひとつせずにその場から姿を消してみせた。そこに残ったのは光の粒子のようなものだけ。男が魔法を唱えた様子はなく、魔導書も持っていなかった。男がいた場所に手を伸ばしてみても何もなかった。しかし、ルフレが手を引くと再びそこに、消えたときと同じように光を身にまといながら男が現れたのだ。
     魔法を使っていないか一応確認してみれば、ルフレの観察通りの答えだった。一瞬で現れたり消えたりすることが魔法でなければ、本人が魔法的な存在であると考えるしかなかった。
     加えて、どうもこの男はルフレ以外には見えないようで、彼女の横に立っている謎の男について尋ねる者は誰もいなかった。そもそも、彼が実体を持ってルフレの近くにいることはほとんどないが。
    剣の精霊というものが存在するのか彼女は知らないが、そういった存在であると仮定している。しかし本人が自分のことを話さないこともあって、正確なことは未だに分からない。
    「無理はするな」
    「はい」
     返事とともに顔をあげるが、男はすでに姿を消した後だった。口数が少ないのはキルソードを名乗る彼自身の性質なのだろうか。あるいは、彼が本当にキルソードそのものであるならば、持ち主の影響なのか。それはルフレの与り知らぬことだった。
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