「先に死ぬとしたらあたしだろうねぇ」
目の前の男が目を見開く。随分と久方ぶり気が晴れるものを見たと少し楽しくなった。
「縁起でもないことを」
「まあまあ、そう怒らないでくれよ」
怒っているわけではないことは分かっていた。バジーリオの死後、ほぼ成り行きで王になったこの男とも長い付き合いになった。バジーリオに比べれば感情の起伏が顔に出ないが、こういうときは案外わかりやすい。
「イーリスはナーガの加護が強いからね。どう考えたって先にダメになるのはフェリアだろ?」
「それがどう先の発言に繋がる」
「イーリスに手を伸ばす前にギムレーが……どうフェリアを崩していくかって話だよ」
男が目を伏せる。
「俺が最後と言いたいのか」
「……よくわかっているじゃないかい」
──ギムレーの依り代になってしまったルフレに僅かでも自我は残っているのか。何度もした話だ。答えを知るすべがない、未来に繋がらない疑問。
しかし一度だけ、ルフレの自我が残っていると仮定して話したことがあった。この男は「ギムレーはルフレの自我を破壊しようとするだろう」と答えた。それ以上は話さなかった。
そのときは。
「あのときの話の続きだよ、ロンクー」
フェリアのもうひとりの王──ロンクーは静かにこちらを見た。その瞳が何を訴えているのかまで分かるほど、ロンクーのことを知っているわけではなかった。