「ハイドリヒの愛猫だからといって容赦はせんぞ」
ふわあ、と猫は大きいあくびをして、ぐうとのびをした。じっとりと睨んでくる長い黒髪の男をよそに、薄く開けられた窓のそばで丸くなる。
なんとも暇な男である。ここで私を相手にぶちぶち文句を言っているより、ここの家主に構ってくれと言いにいったほうがなんぼか建設的だろう。
家主であるラインハルト・ハイドリヒが手ずから猫におやつを与えた日には、良くある光景であった。愛猫とはいうものの、猫は別にこの家で飼われているわけではない。
通りすがりの野良猫であるのだが、まあつまり、この男は遊びに来たすべての野良猫にこうやって絡んでいるのだ。
むにむにと頬を揉んでくる男の手を、猫はうっとうしそうに押しやった。