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    s_toukouyou

    @s_toukouyou

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    s_toukouyou

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    「僕はね、きみのそばにいるとまるで死んでいるような気持ちになるんだ」
     向かい合わせに座っていたから、手招いて輪郭の美しい耳に唇を寄せて、とても大事なことを告げるような声音でささやいた。
    「ほほう、それはそれは」
     面白そうに唇をたわめて続きを促すから、僕は口元に手をあてて笑った。
     彼といると落ち着いた気持ちになる。まるで死んでいるかのように心が凪いで、ひどく安らかで、それだというのに楽しさすら感じられた。
     初めての出会いもまたこの喫茶店だった。僕は図書館にいるとどうにも煩わしくなってしまうときがあって、それは別にまわりが悪いわけではなく、単に僕が勝手に落ち込んだりしてしまうのだ。例えば寛などもとてもよくしてくれるが、たまに見え隠れする僕がまた勝手に死なないかという心配などが息苦しくてしかたがなかった。自分勝手なことだが。そんな時に休暇をとって誰も僕を知らない場所、たとえばふらりと入った店などで時間をぼんやりと潰していた。
     その日も同じように珈琲を一杯、ケーキを一切れ頼んで、テラスの席でひとり煙草をくゆらせていた。席が足りないので相席を頼まれたのが始まりだ。珍しいと店内に視線をずらせばどのテーブルも埋まっていて、僕は微笑んで頷いた。店員がひどくほっとした表情を浮かべたのを覚えている。そんなに緊張することだろうか? などと少し不思議に思っていたが、案内されてきた男を見て僕はなるほどと頷いた。
     目が覚めるような美しい男だった。すらりと背が高く、しっかりとした体つきが白い外套越しにもうかがえる。白い肌にはしみ一つなく、まるでうっすらと光り輝いているような気すらする。無造作に背に流れる黄金の髪はながく、僕よりも長いのではないだろうか。この現代では珍しい、ことなのだろう。僕自身もなかなかに長い髪をしているから、どうにも実感がわかないけど。
    「相席しても?」
    「もちろん、どうぞ」
     にこりと名の有る職人が丁寧に彫り上げたかのような形の良い顔に微笑みを浮かべた男に、僕もまた微笑んで頷いた。
     顔が良いものは、声もまたそうであるらしい。穏やかに鼓膜を揺さぶる声音はひどく耳障りがいい。しかしなんとなく聞き覚えがあるような気がして、僕は少し首を傾げた。相手もまた、なにか引っかかるものがあったのか首をかしげていた。
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