「おねえさん、男ふたり、泊まり!」
「あら、いらっしゃい。お泊まりなら宿帳の記入をお願いね」
来客を告げるベルの音とともにとびこんできた金髪の少年に、宿の受付に立つ店員は微笑ましげにペンを差し出した。
「おまえね、もう少し落ち着いて行動しなよ」
少年の後を追って、一人の青年が扉をくぐった。
「え〜だって久しぶりに屋根のあるとこで寝れるからさ〜」
さらさらと宿帳に記入した少年は、上半身を捻って、背後に立つ青年を見上げた。
彼らは良く似ていた。金の髪に青緑の瞳。顔立ちは瓜二つで、少年をそのまま大きくすれば、または青年を小さくすれば全く同じになることだろう。
親子と言うには青年は若すぎるように感じたが、兄弟というには年が離れすぎている気もする。
「ええと、支払いはお父さんが?」
悩んで、受付の店員はそう呼びかけた。途端青年はすごく嫌そうな表情になった。
「父親じゃないよ。いくら?」
「すみません、お兄さんでしたか。二人部屋は一晩2000ルピになります!」
「兄でもないよ」
ばっさりと言い切りつつ、青年は金額ちょうどの紙幣を取り出して支払った。
「えっ、いやでも、あ、親戚とか?」
客のプライベートに踏み込むべきではないが、しかし店員は思わず聞いていた。だって血の繋がりがないわけがないだろう。この瓜二つさで。そんな思いが顔に書いてあった。
「もっと言ってやって。認知しろって」
少年の発言に店員はぎょっとして二人を交互に見た。
「親戚じゃない。隠し子でもない。もういいだろう、ルームキー」
淡々と催促されて、店員は動揺しつつも、ルームキーを青年にわたした。
「ベッドだ!」
部屋に入るなり、少年は寝台に飛び込もうとしたが、青年に首根っこを掴まれて阻まれた。首元を咥えられた子猫のように、少年がぷらんとぶら下がる。
「先に風呂に入りなよ」
「少しだけ!」
「だぁめ」
ぷくーっと頬をふくらませる少年を床に捨てて、青年は荷物の中から着替えを取り出し始めた。
見上げた青年の横顔と、その先のドレッサーについている鏡に映る自分に、少年はなんとも言い難い表情を浮かべた。
血の繋がりはこんなにあからさまだというのに、どうして頑なに否定するのだろう。少年がこの青年に出会ったときから、ずっと心の底で抱えている疑問だ。
「アルコル」
「なに」
「名前教えてよ」
「今呼んだじゃないか」
そういうことではないのだが、惚けられてしまうと少年には踏み込むすべがない。これくらいの探りはともかく、下手に深堀りして、一緒にいてくれなくなるのは嫌だった。
「……じゃあ俺の名前呼んで」
「シエテ」
最近増やした新しい名前で呼ばれて、少年はむうとむくれた。そちらではないと分かっているだろうに。全身で拗ねていますと表現して、そっぽを向く。
はあ、と観念したように青年がため息をついて、少年の髪をぐしゃりとかき混ぜた。